ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ106→→→パラグラフ100:殺戮者、心の旅路:(死亡・15)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



暗いトンネルを一気に降下し、巨大で透明な球体の中央に放り出される。
大きく視界がゆらぎ、油めいた液体のたゆたう、発光する黄色い海に浮かんでいることを知った。
この球体そのものも潮流に沿ってどこかへ流れていくようだ。
継ぎ目のない壁の向こうでは、どろりとした海の中を、魚らしき生物が無数に泳いでいた。
奇妙な光景だ―― 生物は乳白色の顎と燐光を発する体を絶えずくねらせている―― まるで俺には気づいていない。
魅せられてじっと見入るうち、球形の小部屋の湾曲した壁から霧が浸みだしてきた。
視界がぼやけ、感覚を麻痺させていく。
淡々と続く奇怪な事象は、それ自体に攻撃の意図があるかどうかも不明だ。
霧はやがて雲となり、その浮力によって身体が吊り上げられる。
まるで夢だった。
広大で影に満ちた景観を超えて、どこかへ運ばれていく。
白絹の断片のような幻影の精神が、たえまなく体の周囲で渦巻き、動きつづけている。
そして……
この内面世界では、攻撃もまた、唐突だった。


 最初は、これらの薄い形状を明瞭には認識できないが、徐々にそれらへ焦点が
合わさり、ついに特徴を見分けられるまでになる。
 今まで目にしていたものが何であるか誤りなく理解した時、冷たい戦慄が心を
わしづかみにする。

  念バリアを身につけていれば、290へ。
  念バリアを身につけていなければ、30へ。


念バリアが衝撃を遮断してくれた―― さもなければ、狂っていただろう。
周囲をつきまとう薄い影には、顔があった。
無数の、影。
無数の、見覚えある貌。
……不気味な輪郭は、これまで殺害してきたあらゆる敵の顔だった。


ダークロード・ハーコンの、闇の半神ならではの傲然たる美貌が。
裏切りの貴族バラカの、人ゆえの欲望と残忍さに歪んだ笑みが。
修道院長に化けていたナーグのヘルガストの、非人類の悪意に満ちた異形が。


たった今殺したばかりの、カオス・マスターの腐蝕し輪郭の崩れ去った顔さえも。


俺に殺害された怨敵の顔の群れが、唐突にねじくれ、見る間に激しく宙を飛び交う。
それにもかかわらずこちらの視線を捕えて放さない虚ろな瞳に極度の激情が宿りだす。
……まさしく精神攻撃そのものだ。
精神力の蓄えを引き上げ、脳裏に刻みこまれた光景から心を守り抜く。
憤怒が、俺に力を与えてくれた。
死すべくして死んだもの、殺すべくして殺した相手だ。マグナマンドの巨悪たち。一片の後悔も無い。
やがて亡霊は霧に溶けて消え去り、新たな世界が実体化しはじめた。
これは……記憶。
ローン・ウルフの記憶そのものが生み出す心の迷宮だ。



父母の微笑む顔が映り――
カイ修道院に入る前、住んでいたダージの村が――
暖かい夏の日の終わり、夕食だといって姉のカーリが俺を呼びに来る――
そして――
そして――
俺の6才の誕生日、滑ってトー川に落ちた君を助けようとして命を落とした兄弟ジェンの悲しい顔が――


二重の驚きに満たされ、俺は、この走馬灯を見つめていた。
初めて明らかになった狼の過去。
あのカイの修道院で、虐殺の前日にバカやって薪拾いに行かされた、それ以前の記憶――
暴力の権化たる俺を形作った、過去の一端がつまびらかになったのだ。
それはプレイヤーとしての驚きだ。
同時に、物語の中の狼もまた、この幻像を見せられた意味を知る。
無数の過去。無数の記憶。無数の戦い。鏖。
すべてが一つとなって大なり小なり影響を及ぼし、ローン・ウルフの運命を紡ぎあわせていくのだ。
唐突に、目もくらむばかりの光がすべての光景を洗い流す。
あまりに眩さに両目をかばってしまう。
かなりの時間がたち、ようやく、光が穏やかに薄らいだ。高みからやってきた者の輪郭を知る。


――今度こそ、俺は自失した。
ただ、ひれ伏すしかない。この精神世界の狭間に、大いなる存在が降臨していた。



通過パラグラフ:(106)→209→290→175→100  治癒術の効果:4点   現在の体力点:38点
(つづく)