ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

見知らぬ男は居丈高な顔で俺をにらむ

【パラグラフ164→→→パラグラフ305:ギルドマスター・マガーナ:(死亡・13)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



混乱と無秩序の中、俺はソウのあとにぴったりついてアーチの壁に隠された扉から抜けだした。
隠し扉の向こうは傾斜した通路で、下っていくうち嗅ぎ慣れた悪臭が鼻を突く。
バサゴニアの大下水道バガ・ダルーズに比べれば芳しい臭いだろうが、それでも、ここが下水道であるのは事実だった。
タイル張りの壁には、出鱈目な間隔で油まみれの松明が設置され、揺らめく炎で闇を照らす。
「さっきのガサ入れ……あンた狙いなんだな、ロルフ」
「ああ」
短く答える。それで十分だったらしい、ソウが口笛を吹く。
「ありゃアナリウムの護衛兵だぜ。あンたすげーヤバイ橋を渡っているみたいだな」
「大きく賭けなきゃあならん時ってのがあるのさ……失敗したがね」
「漢と書いて男だねえ……」
軟泥に覆われたタイルの上で足を滑らさないように気を使いつつ、汚水溝の狭い張りだし棚をついていく。
じきに喧騒は聞こえなくなり、松明の音と緩い下水の流れのみが耳を打つようになった。
あれだけ饒舌だったソウもなぜか寡黙で、むしろ僅かに緊張しているらしい。
数分は歩いただろうか。1つの松明の下で立ち止まる。
「どうしたんだ」
「入口さ……部外者を入れるのは、あンたが初めてだ」
錆びた松明受けをソウが動かす。
ゴロゴロと耳触りな音が響き、下水道の壁の一画が開いた。
思わず息を呑む。
扉の向こうは、空気さえ違っていた。もはや汚水の臭気さえ感じない。
空気は澄み、かすかな芳香が漂う。
―― 豪奢と言っても言い過ぎではない居住空間が広がっていた。


 壁には絹や最高級のタペストリーが掛けられ、床にうずたかく積み重なった宝の重みで床が
沈んでいる。部屋に入っていくと、かぐわしいそよ風が君の髪をくしゃくしゃにし、鳥の鳴き
声が耳を満たす。
 水晶のように透明な水をたたえたプールのかたわらを通り、ソウは控えの間に君を導く。
ここに、あざやかな緋色の長椅子に横たわり、多くの色をあしらった華麗な装束を身にまとう、
この聖域の支配者が休んでいた。


驚嘆しつつ奥へと進んでいった俺とソウの目的地は、寝室のようだった。
支配者……
まさしく、そう呼べる風格と威厳が、寝ている男の全身から感じとれる。
恰幅の良い体躯にまとう衣装は贅を凝らしたもので、大きく角ばった顔は奇妙な紫の毛皮のフードでつつまれていた。
気配に気づいたのか、男が目覚め、漆黒の目であたりを見やる。
ソウに声をかけようとして、しかし次の瞬間、俺に気づくと素早く立ち上がった。
「誰にも知られてはならないこの秘密のギルドに『部外者』を連れてくるとは、一体どういう了見だ、ソウ?」
「いえ、実は急にガサ入れが……」
「無駄口は慎むが良い。貴様は禁じられたギルドの掟を破ったのだ。ただでは済まさぬぞ!」
明らかにフードの男の方が上位らしく、平謝りのソウをなじっていた。
思わず首をひねる。たしかソウは、自分をスーエンティナの盗賊の元締めだと語ったはずなのだ。
その元締めよりも、さらに上位に位置するこのフードの男は一体何者なのか……?
「待ってくれマスター、これには事情が」
「黙るのだソウ。この北方人はスパイか、あるいは……」
フードの男は唐突に言葉をきり、俺を恐ろしげにじっと見た。
「……暗殺者だ」



思わずポカーンと口をあける。
そらねーだろ。
200パーセントない。
だいたい、この俺と来た日にはこいつの名前さえ知らないのだ。
それ以前にオマエ今寝てただろ……
俺が暗殺者なら、あんたもう百回死んでるって……
勘違いにもほどがあるぞと言いかけるが、もはや自分の陰謀史観世界に没した男は俺の話など聞いていなかった。
どうやら、この聖域の支配者様はひどく猜疑心が強いらしい。
さっと懐から宝石を取りだし、宙にかかげる。
嫌な予感がした。
「カドゥル ダナー リ・オオク!」
男が呪文を唱えた途端、宝石は内からの炎で緑色に燃えあがり……同時に圧倒的な精神の波が襲いかかってくる!



・念バリアを身につけていれば、101へ。
・念バリアを身につけていなければ、64へ。


狼に精神攻撃を仕掛けるなど、自殺行為と言わざるをえない。
なにしろ念バリアは、最も使い慣れたマグナカイの教えの一つなのだ。
意識を集中し、小賢しい介入を退けようとする。
……いまだかつてない驚愕が、俺を包んだ。


 念バリアの力が君の神経すべてを防御するが、しかしこのエネルギーのうねりが心の中深く
浸透してくるのを止めることはできない。
 男は、君がここにいる本当の理由を明かすように命じる。
 着実に精神の宝玉の力は増大していき、君はもはやその力に抵抗することができない。


念バリアをもってしても抵抗できない精神攻撃・・・だと!?
人の力では抗いきれぬ精神の奔流が、むきだしのエネルギーとなって心に注がれてくる。
異質なまでに、あまりに効率の良い蹂躙だった。
自我を守り通すのが精一杯で、完全に精神のコントロールを奪われた……その事実に驚愕する。
「話せ!お前は何者だ!なぜここに来た!」
「お……俺の名は、ローン・ウルフ。最終にして究極、空前絶後のカイ・マスターだ……」
意思に反して、次々とすべてを自白させられる。
カイ・マスターとしての正体。
探索の話、ソウとの出会い、『るつぼ』をめぐる議会との確執……
いまやフードの男はほくそ笑み、舌舐めずりでもせんばかりに俺の話に聞き入っていた。
刺客やスパイでないと知り、安心したのか。
あるいは、利用できそうな男が手に入ったと下心あってのことなのか。
いずれにせよ、フードの男は落ち着きと自信を取り戻し、勿体ぶって俺に告げる。
「儂の名はマガーナ、盗賊ギルドのギルドマスターにして、このビロードの城塞の真の支配者よ!」
「真の支配者だって?こんな下水道の奥から支配するのか?」
思わずせせら笑う。
マガーナの顔に怒りの小波が走るが、結局、彼は自制した。
「ふん……まあいい。偶然とはいえ、ソウが貴様を連れてきた訳だ。これは幸運な出会いだぞ、カイ・マスター?」
「お前にとってか、マガーナ」
「いいや。儂よりも、むしろ貴様にとっての幸運な出会いだ」
会話の主導権を握ったと確信したのだろう。再び、マガーナは鷹揚に微笑んだ。
「どうだ? この儂に力を貸さんか?」
「断る。盗賊の子分に成り下がるつもりはない。チンケな殺しなら尚更だ」
「いやいや、違うのだよ」
ギルドマスター、マガーナの笑みがさらに暗く、さらに権勢欲に満ちた傲慢なものになっていく。
「この部屋に来るまでに見ただろう。数々の工芸品を。宝玉を。未知なる装飾品を。あれの出自を知っているかね……」


「―― ザーリクスだよ。『るつぼ』に眠る」


衝撃を受け、言葉を失う。
優越感に満ちて放たれたマガーナの台詞。その意味が心に浸透するにつれ、体が震えだす。
ギルドマスター・マガーナは知っているのだ――
古代都市ザーリクスへの道を!



通過パラグラフ:(164)→135→243→101→305  治癒術の効果:+4点   現在の体力点:32点
(つづく)