ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ231→→→パラグラフ231:城塞都市テカロ:(死亡・8)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



隊長の言葉通り船足は速く、夕暮れが迫る頃、レムのV字型の港に錨を下ろす。 
岸壁に細い影を落とすのはレムの城塞に聳える細い双子の塔だ。
というかアレだ。
隊長が船を操っていることと言い、どうやら川海賊との戦いで船長は死に、『カゾナラ号』は傭兵部隊の私物とあいなったらしい。
当然だが運賃を払う必要もない訳だ。
恐るべし隊長。くそう隊長。自分だけハッパ買占めやがって。
……思いだすだに消沈せざるをえない醜態を、切ない忘却の彼方へ放り込む。
ロハでテカロヘ行けるって言うんだからせいぜい喜んでおくさ……狭い船室で寝返りを打ち、丸窓から夜のレムを見下ろす。
実は、隊長によって上陸禁止令が敷かれていた。
現在のレムは北や西から来た傭兵、東からの武器商人、度重なる戦闘で破壊された南の街から逃げてきた難民で溢れている。
そしてその中には、市壁の内側で野営しているリオマのバロン公子とその傭兵騎士たちも含まれていたのだ。
公子と隊長は長年対立してきたので、無用の衝突を避けるための措置だった。
部隊のほかの連中は噂話で退屈をしのいでいた。
ストーンランドでも最も強力な公子の数人がこのレムに集まり、スロビア人を打倒する計画を立てているという。
もっとも、隊長は、この爵位ある盗賊たちはテカロの富を略奪すべく共謀しているのではと疑っている。
夜明けに川船はレムに別れを告げた。
複雑に蛇行した難所を抜けだし、ストーン河は一面のブドウ畑を抜けて緑の沃野をまっすぐ南へ流れていく。
空気は暖かく、俺は日がな一日、甲板に上がっていた。
南からの難民や、荷役用に訓練された巨大ヒキガエル、スロートが荷船を引いて上流へ遡っていく様を見やる。
次第に風景はきな臭さを帯び、軍馬や傭兵、焼き討ちされた集落が目につくようになり……
遂に、ソーレーンで乗りこんでから2日目の午後遅く、船はサロニー国境の街、エウラに辿り着いた。
木の桟橋に停泊したところでグウィニアンの栗毛の馬に鞍をのせ、装備をまとめる。



ソーレーンで 切符 を買っていたなら、59へ。
切符 を持っていなければ、290へ。


切符持ってて悪かったな!
こちとらハッパを買い損ねるわ、弓を売っちまうわ、ロクな目が無い…ぜ…ッッ!
エルリックよろしく啜り泣きつつ切符を持っている方の選択へ向かう。
―― 隊長とともにテカロヘ向かうか、単独でテカロに向かうか決めるべき時が来たと感じる。
そうだな。ここらが潮時かもしれない。
騎乗して道板を下り、俺はエウラの桟橋を走りだした。


馬上で注意深く観察しつつエウラの街を抜けていく。
エウラとテカロは川幅も広がったクォール河を挟んで姉妹都市のような距離にある。
両都市を繋ぐ唯一のルート、それが、100メートルはあろうかという巨大な渡河橋……篭城兵が守りを固める最前線なのだ。
案の定―― そして恐れていたとおり―― エウラは巨大な野営地と化していた。
街の人々はとっくの昔に家も土地も家畜さえ捨てて逃げ、それらが金品に餓えた兵士たちに蹂躙し尽くされた。
10以上の国々からやってきた貴族や武器商たちが、人間以下に堕した連中とその貪欲さで結びついて出来たのが、今のエウラだ。
目抜き通りを埋めて兵士の縦隊が延々と続き、絶え間なく南でたなびく黒煙に心が沈んでいく。
押し寄せる夕闇の中、蠢く包囲網の数は1万をくだらない。
にもかかわらず未だ意気軒昂たる難攻不落の城塞都市に……
1万もの兵の猛攻を凌ぐ城壁のただなかに、バレッタのロアストーン はあるのだ。
目論見を御破算にした戦争を罵りつつ、クォール河の土手にある攻城設備目指して煤に汚れた荒野を走る。

(つづく)