ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

盗んだバイクで走り出す

【パラグラフ333→→→パラグラフ17:傭兵部隊:(死亡・7)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



「何をするだァーッ!俺の施しを無にしやがって!」
とばかりに男に攻撃を仕掛ける……と思ったら大間違い。
これでも狼はなかなか冷静なのだ。
「……どういうことか説明してもらおうか」
「これを見ろッ!」
不快そうに男は唸り、万力のような力で女乞食の手をとらえて子供をあやす手を開かせた。
―― 女の指の間には小さな針が握られていた。
子供が泣きやまぬのも道理、女はこの針で子供を泣かせ、哀れさを演出していたのだ。乞食の常套手段という奴か。
「夜明けまでこの通りを彷徨いていれば、この女みたいな連中にカモられるぞ」
「うるさいね、放せったら!」
女は腕を振り解き、悪態を吐きながら別の路地に消えていった。
ため息をついた男は金貨を拾い、俺に返してくれる。
「まんまと騙されるところだった…という訳か」
「これも通りすがりの縁だ。それより、お前は誰かに雇われているのか?それとも雇い主を探しているのか」
「どういうことだ?」
「何、なかなかの腕前に見えたんでな」
男は赤髭と名乗った。
短く刈った鮮やかな赤い顎髭から来ているのだろう。本人もその呼び名を気に入っているらしい。
赤髭はバレッタの西にあるソーレーンと言う街からやってきたと告げた。
とある傭兵隊長に雇われた軍曹であり、マガドール人との戦争から帰ってきたばかりらしい。
彼の言によれば今の傭兵隊長はこれまで雇われた中で一番優れた隊長らしく、しきりに俺を引き合わせようというのだ。
「仕事にあぶれているわけではないが……その隊長には会ってみたくなったな」
「そうかそうか。なら今夜の宿と隊長を紹介してやろう」
一石二鳥とばかり、赤髭と肩を並べて通りを歩いていく。
幅広剣を腰に吊った彼は剣の腕も立つようで、道すがら剣術談義で盛りあがった。
俺のように六尺棒を携えるものは少ないらしく、剣を相手にした時の技術やら戦い方を熱心に尋ねてくる。
じきに彼のいう居酒屋兼旅館に辿り着く。
クロスド・ソード旅館の外観は大きな食堂のようであり、ラストランド各地を旅した俺の目から見ても最も大きく、賑わいを見せる居酒屋だった。
教会の扉に似た入口からは絶えず兵士が出入りし、隣の厩は丸々一軍を収容できるほどの広さだ。
厩を出て、赤髭とともに樫の木の扉をくぐり入っていく。
「俺の友人に飲み物をやってくれ」
上機嫌の赤髭が通りすがりの女給に声をかけると、彼女はすぐにビールのジョッキを持ってきた。
彼らの連隊はかなり長いことここを拠点に活動しているのだろう。
「あそこのテーブルに隊長がいる。会いに行こう」
広間の一角を占める傭兵たちに囲まれ、その隊長格らしき男が座っていた。
長身で筋骨逞しい隊長は、荒くれ者を率いるに充分な威圧感を発していた。
金色の髪を短く刈り、顎髭と口髭も入念に手入れされている。何より意志の強さを感じさせる顔には傷一つない。
「ほう。赤髭は夜の街で若き練達の戦士を見出したようだな。ようこそ、我が連隊へ」
「隊長、こちらは六尺兄貴……もとい名前を聞いていなかったな」
「俺は六尺……アッー!……ロルフ、だ。赤髭から隊長の話は聞かせてもらっている」
「赤髭は口下手だからな。まずは飲みながらゆっくり語るとしようか」
久しぶりの偽名(太陽の剣を求めてドゥレナーへ潜入して以来)に少し尻が痒くなる。
あの頃はまだ盗んだバイクで走り出すお年頃 だったのだ……8年も前のお話ですよ、ええ。



考えてみると荒涼たる青春を送ったものである。
当時心にあったのは遣り場の無い怒りと復讐への執念だけだったのだ。


ともあれ。
今では『ダークロード殺し』ローン・ウルフの名は妙な尾鰭がついて広まっていることもあり、無名の戦士を装うことにした。
巨大な円卓を囲み、酒を呑みつつ戦の話を聞く。
傭兵らは皆己の力を信じており、負け戦の話をするものは1人もいない。
戦場での武勲、給料や戦利品の話が次々と飛び出す。
隊長たちはヘリンのヤンビール王子に仕えているが、最近はそれもうんざりのようだった。
バレッタの北方、都市国家の1つヘリンは西に位置するカルカストのマガオ男爵との勝ち目の無い戦いに財を注ぎ込み、破産寸前だ。
王子の軍隊の士気は低下し、隊長は早々と彼らを見捨てて戻ってきた。
今、彼らは南方で行われる戦争のために腕の立つ傭兵を集めているらしい。
サロニーとスロビアの戦争は頂点に達し、テカロを攻囲中のサロニーのエウィビン王子に味方すれば金になるという。
「ストーンランドの都市の中でも、テカロは特に難攻不落とされている」
隊長の言葉を受けて、興奮混じりに同意の声が広がった。
地獄の戦場を前にして、戦争の犬たちは更に戦意を高めているのだ。
「君は非常に優れた戦士のようだ」
隊長は瞬きもせずに俺を覗き込んだ。
「我々の部隊に加わらないか」





通過パラグラフ:(333)→154→181→256→211→17  回復術の効果:+5点   現在の体力点:19点
(つづく)