シノビガミ・シナリオ

夏コミにてサークルOperaIf様に寄稿したシナリオ『猟仭秘抄(りょうじんひしょう)』の完全版になります。
執筆中の仮タイトルは『シノビガミ VS.ハンターズムーン』でしたので、シナリオの雰囲気はお察し下さい。
本編は演出に関する記載が多くを占めていますが、あくまで例示であり、自由なプレイを何ら妨げるものではありませんので、GM及びPL諸氏のイマジネーションの趣くまま、血湧き肉躍るニンジャスペクタクルを演出すると良いでしょう。


●PC1:推奨流派・一般人
■使命:あなたは家族を殺され自身も追われる境遇となった。あなたの使命は秘密結社・荒山猟友会のハンター六人衆を倒すことである。
■秘密:あなたは『傾国たる贄』と呼ばれる存在だ。あなたにダメージを与えた者が忍獣/渡来人カテゴリーのエネミー、もしくは隠忍の一族に属していた場合、その者は与えたダメージに等しい生命力及び変調を回復する。 あなたはこのシナリオのプライズである。
エニグマ(蟲弾):この秘密を明らかにした者は、呪いの変調を受ける。

●PC2:推奨流派・ハグレモノ
■使命:あなたはPC1に復讐のために雇われた。あなたの使命は秘密結社・荒山猟友会のハンター六人衆を倒すことである。
■秘密:孤独な者同士に通じる何かが、あなたの心を震わせた。セッション開始時に、秘密に感情表を振り、PC1にプラスの感情を獲得すること。あなたの【本当の使命】はPC1を守ることである。

●PC3:推奨流派・比良坂機関
■使命:あなたはS県S市で行われている陰謀を阻むためにやってきた。あなたの使命は秘密結社・荒山猟友会のハンター六人衆を倒すことである。
■秘密:あなたの【本当の使命】は荒山猟友会の『黒・零号(くろ・ぜろごう)』計画を阻止することである。『黒・零号』に関するハンドアウトは、2サイクル終了後もしくは、六人衆を4人以上倒していればその時点で公開される。

●PC4:推奨流派・隠忍の血族
■使命:あなたは殺された同族の仇を討つべく、S県S市にやってきた。あなたの使命は秘密結社・荒山猟友会のハンター六人衆を倒すことである。
■秘密:あなたの【本当の使命】は『傾国たる贄』であるPC1を殺し、その血肉から力を得ることである。あなたがPC1の生命力を0にした時点で、そのシーンの間、「蠱族」、「蛟竜」のいずれかのデータをあなたのものとして扱う(現在の奥義に加え、更に一つ奥義を修得すること。ただし、現在の生命力、情報、忍具は変更されない)。

●PC5:推奨流派・鞍馬神流
■使命:あなたはS県S市で行われている非道を断つためにやってきた。あなたの使命は秘密結社・荒山猟友会のハンター六人衆を倒すことである。
■秘密:荒山猟友会のハンター六人衆の一人は、あなたと長年にわたり殺しあってきた宿敵である。あなたの【本当の使命】は弦月 豺三(ゆみはり さいぞう)と戦い、勝利することである。

NPC 黒・零号(くろ・ぜろごう)
■使命:『傾国たる贄』であるPC?を喰らう。
秘密壱:満月の夜、『傾国たる贄』であるPC?の魂を喰った黒・零号は、モノビーストの棲む異界への『門』を創造できる。これこそが荒山猟友会の『黒・零号』計画である。創造された『門』が開いた後の世界について、PCが知る必要はない。
■秘密弐:黒・零号が『門』を創造するためには、PC1の生命力を0にした後、更に精神世界である“井戸の底”(別の戦場として扱う)でPC1と再度戦闘し、勝利する必要がある。PC1以外のPCは、同じく生命力が0になった場合のみ、この戦場に参加できる。


●1.0 基本スペック
■使用ルールブック:壱、弐、参
■タイプ:協力型
■プレイヤー:4〜5人 (4人の場合、PC5のハンドアウトは使用しない)
■リミット:3
■ボス:有(脅威度6)
■腹心:有 (脅威度9)
■プライズ:有
エニグマ:有(脅威度10)


●2.0 シナリオ概要
■背景
 PC?から家族や友人のすべてを奪った、秘密結社・荒山猟友会。その尖兵たる武装集団“六人衆”は執拗な追跡を続け、PC1の孤独な逃避行の先々で殺戮を繰り広げてきた。
 月日が経ち、やがてS県S市まで流れ着いたPC1は、PC2を雇い反撃に転じる。他のPCたちもそれぞれの理由により、六人衆と戦うこととなった。
 そして遂に満月の夜、密やかなる死闘の刻限が訪れる。
 しかし、六人衆の真の目的は、より邪悪なものだということをPCたちはまだ知らない。

■主な舞台
 このシナリオの舞台は、人口120万人の政令指定都市、S県S市である。既に六人衆によって物理・心理的結界が張り巡らされており、忍者以外の一般人が脱出することは不可能となっている(異変に気付き脱出しようとしても、時間感覚と方向感覚を狂わされ、堂々巡りを続けることになる)。また、公共交通機関が不通になっているだけでなく、通信手段の一切が途絶している。

■プライズ
 このシナリオには3つのプライズが存在する。PC1、黒・零号の血肉、紅髏姫である。GMはプライズが存在していることをPCに教えてよいが、プライズの種類及び個数について、詳細を教える必要はない。


●3.0 導入の指針
■PC1&2
 PC1と2の導入を同時に行う。PC1が、PC2とS県S市で合流する。PC1自らを囮に、荒山猟友会を誘い出すためである。この時点でPC同士で話し合い、PC2がPC1に雇われた条件を決めておいてもよい。

■PC3(&5)
 流派上層部の命を受け、S県S市へと向かう。GMは「●9.0 特殊な背景設定」より「ハンターとモノビースト」、「荒山猟友会」について解説すること。 

■PC4
 任務を終えたPC4が里に戻ると、里は既に焼き払われ、同族たちは無残に殺されていた。わずかな生存者から手掛かりを得たPC4は、襲撃者たちの臭跡を追い、S県S市にたどり着く。

■PC全員
 S県S市の街中の雑踏。PC全員が一堂に会する。待ち受けていた六人衆も登場し、名乗りを上げる。いわば顔合わせのこのサイクルでは特に判定等は行わず、戦闘も発生しない。


●4.0 マスタリングの指針
■マスターシーン(六人衆)
・「5mを超える長槍。穂先には血に飢えた六本の逆棘が生えており、饕餮紋(とうてつもん)の彫りこまれた柄までも鋼造りであった。武器そのものの脅威もさることながら、常軌を逸したサイズの得物を何の力みもなく自然体で構えている、男の膂力と技量に戦慄せざるを得なかった。」(僻生玄蕃)
・「激しく炎上し、次ぐ次に延焼するビル街。気付くと、目前に黒いライダースーツの女がいた。精緻な饕餮紋の刻まれた銀色のジッポライターを片手に、さながら巴黎の街並みであるかのように、優雅に歩み寄ってくる。足元をさながら蛇のように這い回る炎に照らし出された秀麗な美貌には、何の表情も浮かんでいなかった。」(襲ヶ淵毬鴉)
・「超遠距離から通行人に撃ち込まれ、瞬時に肉体を爆散させたのは、対物ライフル仕様の大口径多針弾頭弾だ。弾頭に数千発の釘矢が詰め込まれたその対人殺傷力は、最新鋭の軍用ボディアーマーでさえ易々と破壊する。」(蓮禍戮彦)
・「少女が連れていたのはチべタンマスティフという大型犬だ。鋼鉄製の首輪に彫りこまれているのは、やはり饕餮紋であった。成犬でも100kgを超える犬種の中でも、この個体は特に大きいようだったが、最初の鈍重そうな印象は、牙が長く伸び、更に筋肉で膨れ上がっていく全身を見た途端に裏切られた。」(夷隅九頭龍斎)
・「女の姿は消え失せ、代わりに男の手に奇怪な、それでいて美麗な半透明の大太刀が握られていた。黄昏の気配に溶け込む硝子の刀身は、間合いを量ろうとする者を惑わし、太刀筋に至っては読むどころか見当もつかない。どこまで逃げても世界そのものが剣となって襲いかかってきそうな脅威と、何故か泣きたくなるような夕映えの色の刃。宵闇の残光に、牙を剥く饕餮が映る。遣い手にも、先刻までの優しげな面影はなく、凄愴なまでの剣気を放っていた。」(弦月豺三)


■マスターシーン(荒山猟友会)
「古色蒼然とした洋館の一室。硝子棚には歴史上存在した武器と甲冑が洋の東西を問わず整然と陳列され、壁には燭の合間を縫って、獣の首の剥製−−ハンティング・トロフィーが幾つも飾られている。ねじくれた巨大な角を持つもの。牛刀のごとき牙を剥いて威嚇するもの。進化の袋小路に至ったかのような獣たちはその巨大さを除けば、既に絶滅したはずの先史時代の獣に酷似していた。部屋の中央には円卓が置かれ、S県S市の詳細な地図が拡げられている。円卓の周りに座した老人たちはいずれもかなりの高齢であったが、肉食獣を思わせる異様な精気を放散していた。地図上には紅白の駒が並べられているが、白い駒の幾つかは既に地図上から取り除かれていた。最も奥に座る老人が黒い駒を取り出し、地図の中央に置いた。黒い駒はチェスのナイトに似ていたが、牙を剥く狼の頭を模していた。」
 黒・零号のハンドアウトが公開された直後のマスターシーン。シナリオの黒幕の存在を印象付ける。

■マスターシーン(黒・零号)
「血の匂いに惹かれて顕現した『それ』は、体躯の巨大さを除けば約1万年前に絶滅したダイアウルフに酷似していた。タールめいた漆黒の毛皮からは霧のように瘴気と腐臭を撒き散らし、眼窩には人間の髑髏が3対埋め込まれた、破滅と死そのものが凝ったかのような異形。眼球が無いにも関わらず、背筋が凍るほどの悪意と邪気が込められた視線が、下界を睥睨していた。」
 黒・零号のハンドアウトが公開されて以降、黒・零号の登場シーン1回につき3D6人のエキストラを無差別に殺害する。この効果をPCが防ぐことはできない。また、夷隅 九頭龍斎が生き残っていれば、他のエキストラと同様、この時点で死亡する。
 なお、黒・零号は2つの【秘密】を持っており、それぞれ【秘密・壱】、【秘密・弐】と呼称する。GMは黒・零号のハンドアウト公開時にこの情報をPLに開示すること。また、【秘密・壱】の情報を持っていない者は、【秘密・弐】を調査するための条件を満たしていないものとして扱う。


■クライマックスフェイズ
「大規模廃棄物処理場。円形のコンクリートの壁に囲まれたすり鉢状の空間は、さながらコロッセオを思い起こさせる。無数の塵芥と瓦礫が敷き詰められた不安定な戦場を、真夜中の月が冷たく見下ろしていた。」
 モノビースト『黒・零号』及び生き残っている六人衆との戦闘を行う。なお、このシナリオでは、自ら脱落することはできない。 
 この戦場を“コロッセオ”と呼び、戦場表の平地として扱う。後述する“井戸の底”が出現条件を満たした時点で、GMは複数戦場管理用のバトルシートを用意すること。


■結末
 “コロッセオ”での戦闘にPCが勝利した場合、黒・零号の死骸から無数の光球が立ち上るのを見る。鬼火の如きそれらは、ゆらめきながら月へと昇っていく。その後生き残ったPCは、それぞれ『黒・零号の血肉』を手に入れることができる。これはプライズとして扱う(特殊な効果はない)。
 “井戸の底”での戦闘にPCが勝利した場合、周囲を覆っていた濃霧が薄れ、半ば水没し廃墟と化した高層ビル群が遥か遠くに見える。と同時に、異形の群れに囲まれていることにも気付く。
 生き残ったPCたちはモノビーストの包囲を突破し、この異界から脱出を図る事になるが、それはまた別の物語である。
PCが敗北した場合、モノビーストの棲む異界への『門』が創造される。創造された『門』が開いた後の世界は、降臨した獣相異形の神人たちにより還元・再創造される。大自然の脅威と肉体言語が全てを支配する、原色の歓喜と悲鳴に満ちた太古の弱肉強食の世界へ。


●5.0 NPCの運用指針
■六人衆の行動
 全員がPC1の【居所】を知っているものとして扱う。また、一度戦闘したPCに対しては、生き残った六人衆が【居所】を調査し、情報共有する。
 各サイクルの3、6、最終ターンに登場し、PCたちを攻撃する。【秘密】を積極的に公開し、戦闘の勝利を狙うが、P1に死亡相当のダメージを与えることは避ける。
 僻生 玄蕃は第1サイクルの3ターンに登場する。
 襲ヶ淵 毬鴉と軍荼利は必ず同時に登場し、ダメージを負っているPCを優先して攻撃する。
 蓮禍 戮彦と夷隅 九頭龍斎、羆屠丸は必ず同時に登場する。夷隅は戦闘に参加しない。羆屠丸はPC1がいれば、優先して攻撃する。また、【かばう】を使用し、蓮禍を防御する。  
 弦月 豺三と紅髏姫は必ず同時に登場する。ただし、他の六人衆が全員メインフェイズの戦闘で敗北するまでは戦闘に参加しない。また、PC5がいるようであれば、優先して攻撃する。


■黒・零号の行動
 2サイクル終了後もしくは、六人衆を4人以上倒していればその時点で顕現する。
 各サイクルの3、6、最終ターンのいずれかに登場し、PCたちを攻撃する(六人衆の生き残った人数により、最大3回シーンプレイヤーとして登場する)。また、必ず1回はPC1を攻撃する。 
 なお、顕現した時点で六人衆の持っている情報はすべて共有しているものとして扱う。
 攻撃パターンは以下のとおり(【疾風】によりファンブル値は3に固定)。
・【八雷】+【覚悟】(プロット値6→7、射撃戦ダメージ1)
・【修羅】+【長肢】+【獣化】(プロット値6、間合2→3、接近戦ダメージ1→2)
・【天狗】+【長肢】+【獣化】(プロット値6、間合0→1、接近戦ダメージ6→7)
・【天狗】+【長肢】+【覚悟】(プロット値6→7、間合0→1、接近戦ダメージ7)
・【長肢】+クリティカルヒット(間合1→2、接近戦ダメージ4)
 

●6.0 NPCデータ
●六人衆
 このシナリオの腹心。「殯ノ宮 はふり」を除く全員が一般人エネミーとして扱う。
 荒山猟友会の『黒・零号計画』成就のため、実行部隊として虐殺の限りを尽くす。

■僻生 玄蕃(ひがのう げんば)
破戒槍。長大な七支槍を自在に操る豪快な巨漢。
脅威度1
【生命力】3
特技 体術/《手錬》、《怪力》、《意気》、《異形化》
秘密 【亡者】【英雄】

■襲ヶ淵 毬鴉(かさねがふち まりあ)
燔祭者。無口な麗人。絶えずジッポライターを弄んでいる。
脅威度1
【生命力】3
特技 器術/《火術》、《拷問術》、《用兵術》、《異形化》
秘密 【亡者】【英雄】

■軍荼利(ぐんだり)
襲ヶ淵 毬鴉の操る蛇を思わせる生きた火炎。従者として扱う。
脅威度1
【生命力】2
特技 器術/《火術》、《遁走》、《召喚術》
忍法 【爆破《火術》】【鳳凰《火術》】【六方《遁走術》】

■蓮禍 戮彦(はちすか りくひこ)
詛撃手。対物ライフルによる遠距離支援を行う長身痩躯の男。
脅威度1
【生命力】3
特技 戦術/《砲術》、《野戦術》、《見敵術》、《異形化》
秘密 【亡者】【英雄】

■夷隅 九頭龍斎(いずみ くずりゅうさい)
狗匠。巨大なチベタンマスティフを連れた盲目の美少女。
本人はエキストラ扱い。

■羆屠丸(ひとまる)
夷隅 九頭竜斎の操る体重150kg級のチベタンマスティフ。従者として扱う。
脅威度1
【生命力】3
特技 体術/《走術》、《鳥獣術》、《異形化》
忍法 【接近戦攻撃《走術》】【かばう】【自動反撃】

■弦月 豺三(ゆみはり さいぞう):狂絢士。魔仭“紅髏姫(くろひめ)”を所持する優男。
脅威度3
【生命力】6
特技 体術/《拷問術》、《刀術》、《隠形術》、《毒術》 、《記憶術》、《異形化》
秘密 【亡者】【英雄】

■紅髏姫(くろひめ)
弦月 豺三と行動を共にする和装の美女。硝子の大太刀へと姿を変える。
脅威度3
【生命力】6
特技 体術/《衣装術》、《刀術》、《香術》 、《対人術》、《九ノ一の術》、《憑依術》
秘密 【魔仭】【忍者狩り】

■殯ノ宮 はふり(もがりのみや はふり):死罠。かつて比良坂機関機関に所属していた天災級迷宮職人にして六人衆唯一の忍者。既にS県S市から撤収しており、このシナリオには登場しない。

■黒・零号(くろ・ぜろごう)
 このシナリオのボス。渡来人カテゴリのエネミーとして扱う。
 荒山猟友会が召喚を企てるモノビースト。古来より数多の名で崇められてきた獰悪なる巨神ウプアウト=マナガルム*1。恐るべき速度領域に棲み、絶望と恐怖を喰らう貪欲な顎そのものである。
脅威度6
【生命力】20
特技 体術/《手錬》、《飛術》、《怪力》、《見敵術》、《死霊術》、《異形化》
忍法 【修羅《怪力》】【天狗《飛術》】【彼岸:妖術】【八雷《死霊術》】【獣化《異形化》】【長肢《異形化》】【覚悟《異形化》】 【疾風】
【奥義】不死身《生存術》、クリティカルヒット《拷問術》、範囲攻撃《毒術》、完全成功《第六感》


●7.0 エニグマデータ
■【偽装】S県S市
 人口120万人の政令指定都市。複数の高速道路が通過し、周辺各地の鉄道路線が集結する交通の要衝。(【戦力】防衛機構:脅威度3)

■【偽装】六人衆
 秘密結社・荒山猟友会に所属するハンター。全員が武器に饕餮紋(とうてつもん:古代中国において神話上の魔獣を意匠化した紋章。殷王朝において青銅器の装飾に用いられた)を刻印している事で知られている。(【戦力】待ち伏せ:脅威度2)

■【偽装】荒山猟友会
 旧日本軍との関係が噂される非合法武装集団。モノビーストなる異形の獣を狩る事を目的にしている秘密結社だが、その実態は謎に包まれている。(【戦力】指揮官:脅威度2)

■【偽装】傾国たる贄
 ある一族は、数世代に一人、傾城とも言うべき美貌と天上の芳香を放つ者を生むという。(【戦力】蟲弾:脅威度1、PC1にバインド)

■【偽装】大量虐殺
 たちこめる死臭。視界を塗り潰す血色の泥濘。凄惨な殺戮現場には、想像を絶する狂気と破壊衝動の爪痕が残されていた。(【戦力】黒の闘気:脅威度2)


●8.0 特殊な条件設定
■獣罠の街
 1サイクルは通常シーン表を使用する。
 ただし、シーン表の7か11が出たら下記のシーンとなる。
認知心理学的迷宮の袋小路に迷い込む。このシーンに登場するものは、「戦術」分野からランダムに特技一つを選び、判定を行う。失敗すると行方不明の変調を受ける。」
 2サイクルは都市シーン表を使用し、以降は6の目が出ても、上述と同様の効果が発生する。
 3サイクルは出島シーン表を使用する。3サイクルは12の目が出ても、上述と同様の効果が発生する。

■“井戸の底”
 「どこまで広がっているのかわからない広大な湖。その漆黒の鏡のような水面は、触れれば確かに水であるにもかかわらず、黒大理石のように硬く、その上を歩くことができる。灰色の濃霧に鎖され、音の無いこの世界では、全ての生命が死に絶えているようだった。」 
 特殊な条件を満たした場合(黒・零号の攻撃でPC?の生命力が0になった場合)にのみ現れる第2の戦場。この戦場に参加するには、黒・零号の攻撃で生命力が0になっている必要がある。
 戦場表の極地として扱うが、PC?及び黒・零号はこの効果を受けない。
 この特殊な戦場に参加したPCの生命力及び変調は全て治癒しているものとする(アイテムは補給されない)が、PCが“井戸の底”から現実世界の“コロッセオ”に移動する事は、いかなる手段を用いてもできないものとする。また、“井戸の底”で戦闘から脱落したPCは必ず「死亡」する。
 また、“井戸の底”において、黒・零号の外見のみならず、使用する奥義、秘密及び生命力以外のデータはPC?と同じものに変化する(PC?が一般人であれば、一般人のルールで扱う)。
 更に、PC?が結んでいるプラスの感情の数が、PC?の達成値に加算され、マイナスの感情の数が黒・零号の達成値に加算されるものとする。
 黒・零号の生命力は“コロッセオ”にいるモノビーストの本体と共有し、いずれかの戦場から脱落した場合、残り一方の戦場からも脱落する。


●9.0 特殊な背景設定(※本シナリオでのオリジナル設定である。GMはPLにその旨説明すること)
■ハンターとモノビースト
 都市には獣が棲む。人のみを喰らい眼に見えぬその獣は、文明が勃興した遥か古代より、石造りの都の闇を己が狩り場としてきた。サルがヒトになった時失った獣性と、サルの脳には収まり切れず溢れ出した悪意とが、凝って獣の姿をとったかのようなヒトの写し鏡。満月の夜をおいて傷つけることすらかなわない不死不滅の存在。ソロモンの知恵も指環も持たぬ人類にとって、それは唯一無二の天敵かと思われた。
 しかし、獣にあえて立ち向かった者たちがいた。肉親や友の屍山血河を越え、人としての生を捨ててまでその身に取り込んだ異形と異能とをもって獣を討つ彼らを、人々は畏敬しつつも人ではないものとして忌避した。 
 そして現代。底無し沼のような都会の闇。膨れ上がり腐臭を放つ、人々のドス黒い欲望。我が物顔に餌を貪り喰い、跳梁跋扈するモノビースト。もはやその献身を称える者も傷を癒す者もなく、孤独を理解する者すらもいない世界。それでも彼らは、命を懸けて人知れず戦い続ける。

■荒山猟友会
 昭和初期、荒山巌なる人物が国内のハンターを糾合して作り上げた日本初の全国組織。彼らの活動は満月の夜の狩りにとどまらず、モノビーストの発生原理の研究にまで及んでおり、当時としては非常に先鋭的な組織であった。
 終戦後解体され、各地に潜伏した彼らだったが、秘密結社として研究を続けている。また、かつて帝国陸軍と密接な関係にあったことから、未だに政財界との強力なコネを有しているという。
 彼ら自身が既に“人に仇為す獣”である以上、ハンターとの対立は避けられないが、比良坂機関と鞍馬神流の忍びの二大流派もまた、彼らを世の秩序を乱す輩として敵対している。斜歯忍軍は二大流派との抗争を避けるため表立って荒山猟友会と同盟を結ぶことはないが、その“研究成果”と引き換えに様々な便宜を図っているという。

■六人衆
 荒山猟友会の擁する実行部隊。夷隅九頭龍斎と殯ノ宮はふりを除き、モノビーストとの戦闘において一度死亡し、荒山猟友会の技術によって蘇生させられた死者である。
 生前の記憶と戦闘技術は保持しながらも、人間性や倫理観は完全に欠落しており、時として単なる戦闘機械にとどまらない凶暴性と残忍性を発揮する。
 夷隅家は犬蠱の法なる術を伝える忍犬遣いの家系である。代々の後継者は九頭龍斎を名乗っており、当代は十六代目にあたる。当代は盲目ながら歴代最高の狗匠と謳われ、手づから育て上げた羆屠丸は、現世に孵ったばかりのモノビーストであれば単独で仕留めるという。
 殯ノ宮家は迷ノ宮家の遠縁にあたる迷宮職人の家系である。戦国の世より、各地の大名に乞われ難攻不落の処刑装置たる魔城を造り上げてきた一方で、仕掛けの秘密を知る者として処分される寸前に回避し逃走する術を練り上げてきた歴史を持つ。維新後、比良坂機関の保護下に置かれたものの、一族の芸術家気質と極度の不戦主義は変わらず、先代当主の嫡男・はふりが出奔するに至り、一族の元々乏しい結束は後継者を失った事で完全に瓦解した状態である。

■傾国たる贄
 ある一族は、数世代に一人、傾城とも言うべき美貌と天上の芳香を放つ者を生むという。その芳香は人獣の区別なく酔わせ、古代においては神への供物とされ、時代が下ってからは生ける秘仏として崇められてきた。しかし、真に力を秘めているのはその一滴が王国に等しい価値を持つ血肉そのものである。人外の者たちにとっては、『傾国たる贄』の黄金の血肉を喰らえば、その妖力がより強力に、古の純粋なものへと昇華するのだという。
 現代では『贄』の存在は比良坂機関によって隠蔽されてきたが、終戦前夜、軍の要請によりモノビーストの召喚実験が行われ、失敗にこそ終わったものの、そのデータは秘密結社・荒山猟友会に引き継がれた。
 荒山猟友会は、S県S市において『贄』を餌に、通称『黒・零号』として知られるモノビーストの召喚を目論んでいる。


●10.0 今後の展開
 GMはPLが望むなら、本シナリオに続き、荒山猟友会を敵手としたキャンペーン・セッションを行ってもよい。六人衆の残党が生き残っていれば、決着をつけるためPCに再び挑んでくるだろう。また、忍びの五大流派も、荒山猟友会の“研究成果”と引き換えに秘密裏に様々な便宜を図っており、PCが対立せざるをえないような使命が与えられることも十分に考えられるだろう。

 

*1:ウプアウトはエジプト神話の軍神・冥府神、マナガルムは北欧神話の巨人の子。ともに狼の姿をとるとされる