システムとストーリーの融合……そしてクライマックスへ


こうした描写の細かさは、実は迫力ばかりでなく、そのまま戦闘シーンでの勝敗を分ける選択肢に繋がっています。
つまり文中で示唆される敵味方の兵器、兵装、長所短所をしっかり読むことで、次の選択でどう行動したらいいのか、まず回避なのか無理にでも狙撃すべきか接近戦が最上なのか、きちんと推測可能になっているのです。
選択肢のみという構成の強みがここで生きてきます。
サイコロを使うバトルならポイントの増減やアイテムの取得に一喜一憂するわけですが、この本ではそうした問題がない。
ゆえに、例えばそれこそこんなシーンもあるのです。


(パラグラフ206より引用)
 ビームサーベルのロックを解除した途端、警報が鳴った。
「なんだ!?」
マルチモードディスプレイの上で赤い表示が点滅している。
「白兵戦オートプログラム入力不完全?」

(中略)

「モデルアーマー時の軌道テストしかやっていないもの」
ビームサーベルが使えないじゃないか!」
 モビルスーツの動作は、各稼動部が複雑に連携することによって成立する。
 ただ歩かせるだけでも、バランスをとるための上半身の運動を考えるとすべてをマニ
ュアルで操作するのはとても不可能だ。

(中略)

 ところが、きみの乗るVガンダムのコンピュータにはビームサーベルを使った白兵戦
用のプログラムが途中までしか入っていないのだ。
「どうするんだよ!」
「マニュアルでやればなんとか……」
「冗談だろお……」

(中略)

――後ろか?
 ビームサーベルを構えたリックディアスがVガンダムの背中に斬りかかってきた。
 きみは、

 マニュアル操作でビームサーベルを使う     101へ
 オートにして不完全なプログラムに頼る      50へ
 前にジャンプして逃げ、ビームライフルを構える 116へ

首尾よく奪取したまでは良かったが、乗り込んだVガンダム*1には動作のための基本OSさえ実装されていなかった。
だが、今はどうにか、この厳しい状況下で追いすがる敵のエースを撃破しなければならない。
すべてはきみの判断に任されているッッ!!
……これで燃えないガンダム好きはいないでしょう。
こういう奇抜な選択肢は、サイコロを使うゲームブックではどうしたってシーン上構成しにくいはず。まさに物語のなかでパイロットと一体化し、シミュレーター的に数々の実践的な判断を下していくことになります。


また、全体を通して最大のクライマックスに至るまでは一発死が少ないのも、巧妙な作者の罠です。
物語をすすめれば進めるほど、前述した2箇所の『死のパラグラフ』がじわじわ迫って読者にプレッシャーを与えます。
読者は必死になって回避のためのヒントを入手しようとするわけですね。
そして、その死のパラグラフの恐怖を鮮明に与えるため、対人戦でもモビルスーツ戦でも、選択ミスに対するリカバリー措置が施されます。
それこそが、主人公が目にするだろう幻影の存在。
ストーリーの必然としてあらわれる幻覚に導かれることで一度目のミスを無効にしてもらえる選択肢がいくつかあり、主人公同様に読者もまたいやおうなく先へ先へと導かれていきます。


登場人物も大きな魅力のひとつです。
飄々とした80年代的タフガイの主人公に、死んだ恋人の面影を重ねて寄り添うヒロインのナオミ。
そして、ネオ・ジオンに捕まり、軌道上を周回するHLVザザダーンの中で登場するのが、シリーズ通してもう一人のヒロインとなる敵の上官の一人、ミディ・ホーソンです。
主人公、主人公を慕うヒロインのナオミ、地上で執拗に主人公を追い回した件の暗殺者。
彼女はそれらをつなぐキーパーソンという位置づけ。
少女でありながらその口調は慇懃にして傲慢、しかも野心家で、主人公を篭絡しその力を得ようとしつつも、どこか年相応の脆さを見せる――ハマーン様のイメージを一回り若くしたようなこの敵側のキャラクター造形も実に魅力的でしょう。
彼女が出てきて以降は、一気に緊迫した展開に。
船内での逃亡、ナオミをかばっての大気圏突入、そして脱出した主人公のガザCと、それを狙う何体ものモビルスーツとの激闘。
やっとの思いで撃退したその先に、表紙に描かれた最大の難関が待っています。
件の暗殺者――もう一人の強化人間の乗りこむドーベン・ウルフを相手に、バリュートを開いて減速しながらの一騎打ちとなるクライマックス……
立て続けにやってくる死のパラグラフへと、ストーリーは雪崩れこんでいくのです。
最後の最後、このシーン。
やはりというか、拓唯先生の真骨頂が発揮されています。
ギリギリまで追い込まれ、逆転をかけて敵のコクピットを狙う主人公。そこで出る選択肢につづいて、この科白。


(死のパラグラフ2より引用)

 注意!!
このドーベンウルフはノーマルバージョンではありませんので、コクピットの位置は設定どおりとは限りません。
アニメ誌をめくって設定書を探しているそこの君、無駄です。

朕のことですか――――――――――ッッッ!!!*2
初めてこのパラグラフを読んだ時、朕を襲った衝撃はあまりにも甘くクリーミーで、そのジャストな狙撃っぷりにぶっ倒れてしまった朕はきっと特別な存在なのだと、感じるわけねーだろがよォォ――――ッッ!!
モガァ――――ッッ!!!
く・や・ス・ィ――――ッッッ!!!!(思いだし地団駄を踏むこと小一時間)

*1:作中でヴァリアブルガンダムと呼称されるプロトタイプZガンダムの事です

*2:いや探しませんけれども