あいかわらずの拓唯先生


さて、前回の考察が長すぎたのでここでおさらいをしておきましょう。
といっても拓唯先生についてですが。
つねに凡人を(この場合ガンダム好きのチビッ子を)置いてきぼりにして斜め上にかっ飛んでいく拓唯先生らしさとは次の3つ。

・説教クサイ
・分岐をみとめない
・読者をからかうのが大好き

あらためて並べるとものすごい天然風味ですが、とにかく一作目を稀代の珍品にしたてたこの三つの特徴を思いだしつつ、『ヘルメス夢幻』の1ページ目を開いてみてください。
やはりゲームブックだから自分も遊びたくて仕方ないのか、冒頭からあふれんばかりの稚気が2箇所も見受けられますッ……。
冒頭には「The Story of ヘルメス迷走」という前作のあらすじが書かれていて、さすが新規の読者に対するアフターケアもばっちりだなと感心しつつ読んでいくと、すぐ下にソレが。




あろうことかハッピーエンドにいたるルートを完全ネタばらし。最悪です。
しかもあらすじの方も、よく読んでみれば相当がっちりと上記パラグラフに沿っていて、自由に選択できた物語の大部分が排除されています。
つまりは拓唯先生、「このルートに従った物語だけが俺のストーリーなんじゃあああーッ!!」と本宮ッ面で読者に大喝しているわけです。いや、何弁で主張してるかは知らないけど。鳥坂先輩風かもしんないけど。それは正直嫌だと思ったけど。
なけなしの小遣いで一作目を買っただろう少年少女を愚弄するにもほどがあります。
しかも仮に2冊目から手にしていた場合、一冊目を解いて進める楽しみがこの時点で失われてしまう、恐るべきトラップ。


あ、あァァァんまりだァァアァ――――――――ッッ(エシディシっぽく全身をくねらせ、力の限り号泣しつつ)。



相変わらず無人の野を疾走するがごとき先生のお茶目さは、もう一つこのゲームブック最大の特色を作り出しています。
それがかの有名な、『死のパラグラフ』。
該当箇所を引用してみましょう。



死のパラグラフについて

 生存確率が4分の1以下のパラグラフをこう呼びます。
 つまり、5つの選択があったとするとそのうち正しい選択はひとつしかないのです。
 この本には死のパラグラフが2つあります。
 しかし安心していただきたい(下線は引用者)。死のパラグラフを切り抜ける
ためのヒントもちゃんとあります。運良くヒントを手に入れた場合、そこに書かれている
パラグラフ番号をしっかり覚えておいてください。後できっと役に立ちます。

安心していただきたい……偉そうですね? さすがは作者様。
しかもご自分で説明されたとおり、このヒントはまさに偶然でしか手に入らないのでした。なので、事実上ファーストプレイでのクリアは無理です。必ず死にます。
 ですが……
 こうしたお茶目プレイの数々が、実は思いがけぬ形でこのゲームブックを傑作たらしめているのです。