本文第16話より

「ホッとしたのも束の間、嶋田が窓から外を覗いて何やら異常を察知したらしい。
「まずいな、村人達に囲まれてるぞ」
 まさかと思い、おれも外を見ると、徐々に姿が露わになって来た。一人、二人、三人……次第に姿を現し始め、足音からも小屋の周囲を囲まれてるらしいことが想像できた。みんな手には武器を持っている。木刀、金属バット、ゴルフクラブ、干し草用のフォーク、草刈り用のカマ、ナタ、棍棒、ツルハシ、中には電気ドリルを持ってる者までいた。おおよそ武器になりそうな物は何でも持って利用していた。
(中略)
つまり、意思が見られないのだ。精神も肉体も強奪され、奴隷と化したゾンビ達。ゾンビになった者は、もはや人間とは言えない。人間の姿をした化け物だ。ハイチに伝わるブードゥー教の魔術により、死から呼び覚まされ、墓から這い出す生ける死人。ゾンビとは、その伝説に基づき、おれとフローラがつけた呼び名だ。既にその数は半端なものではなく、暗闇から湧いて来るように後から後へと現れ出る。想像したよりも遥かに多かった。全ての方向から無表情のまま、ジリジリと近づいて来る。」