地獄の新春ゲームブック対談・その1

明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願い申し上げます。
三夜連続でお届けする新春GB対談。
対談のお相手は例によってBOBちん。
第1回の話題はこんな感じ。

さてさて、どんな妄言が飛び出しますやら……。

GBチャット

朕「はしもと様(id:no45)主催のGBチャットには朕もBOBも時間が無くて参加できなかったのですが、ログを拝見して触発されたことを機に久々にGB論考を試みたいと思います」
B「ぶっちゃけ後付けでスイマセン…フヒヒ!」
朕「早速ですがGBチャットログについてBOBから一言どうぞ」
B「それぞれ喰ってきたものの違いはあると思うが…そんなお前らを愛しているぜッ!さあ一列に並んで尻を差し出すがよい!」
朕「クラウザーさんかよ!あと、可能な限りチャットの流れに沿った形で論考を進めていきたいと思いますんで、よろしくお願いいたします」
B「だが生っちょろい発言はこのストレイツォ容赦せん!同志だろうとキッチリバッチリ撃墜させて貰うんで弱凡は読むと火傷すると『忠告』しておくぜッ!」


朕「現在のGB出版の状況を中心に、GBの商業戦略、過去にGBプレイヤーだった層への訴求、GBを知らない新規プレイヤーの開拓について語っておられたようです」
B「まあその辺についてはおいおい厳しい事を言わせて貰う心算だけどな」
朕「真摯にGBの今後について議論されていたと思うけど?」
B「業界側の視点と既存のGBファンの希望がごっちゃになっていて、業界擁護の屁理屈捏ねたり御高説が鼻につくんだよな。だが一番いかがなものかと思うのは……」
朕「……と言うと?」
B「自分がプレイヤーとしてどんなGBで遊びたいか、という視点が完全に抜け落ちているんだよ!」

GBと商業戦略

朕「……ソーサリーの時も話題になりましたが…ドルアーガも売れるといいですね」
B「あー…ソーサリーね…巡回先のGBサイトで盛り上がってたのは知ってるけどな…ぶっちゃけ世間的にはどうよ?」
朕「コアなファンだけが取り上げたけど、過去に遊んでいた大多数は知らない若しくはスルーした…という事?」
B「そういう過去の読者には、タイトル変更はむしろ不親切だよな。逆に新作だと勘違いしてがっかりな人もいるんじゃね?」
朕「新版4巻のカヴァーアート辺りは良かったと思うけど…」
B「GBブームの当時、リアルタイムに遊んだ層に訴求できなければ同じことだろ。ノスタルジックアイテムとしてのアピールができていたとは思えねーし」
朕「そう言えば創土社のレーベルはどういう訳かゲームブックじゃなくてゲームノベルなんだよね」
B「『にゃんたんのゲームブック』と間違えられると困るからじゃないかなッ」(ニコリ)
朕「………………………」
B「実際ゲームのノベライズかと間違えられるかもな。GB特有の能動性が感じられる方向に転がらねーなら変える意味無くね?」
朕「まあまあ。創土社の『チョコレートナイト』刊行が無ければ今のGBファン層も撤退していた訳で」
B「創土社のGBを盛り上げるのがGBファンの責務…と言いたいところだが創土社1社に全てが懸かっている現状もどうだかな」
朕「扶桑社もFF2冊出して様子見みたいだしね…他社が参入して来ないと厳しいかも」
B「本来復刊リクエストにしたって業界への憂いではないしな。温い閉塞感みたいな微妙な空気が」
朕「その辺はもっと個々の意見が許容されていいと思うけどね…」
B「極端な話、商業的成功が見込めると思うなら何でもやればいいじゃない。現にHJ社はやってる」
朕「ハリポタやエラゴンといった児童文学とのタイアップという声もありますが…」
B「ファンタジー小説が流行ってるから…とか軽佻浮薄な視座は足元救われると思うがな!」
朕「そこまで言うか」
B「時代の流れという奴で、今はファンタジーRPGの定石みたいなものがあって、媒体によらずそこから外れた作品はまず売れてない」
朕「『コナン』や『ファファード&グレイマウザー』や『エルリック』みたいな過去の作品は、今読むと逆に新鮮に感じるんだけどね」
B「もともと幻想の産物だったものが、『○○というモンスターは○○に弱い』的な攻略情報の集積に縛られてしまっている」
朕「ファンタジーというジャンルに対する危機感はわかるけどね。じゃあその定石を押さえた作品だけを売っていけば業界は潤うのでは?」
B「俺様が最も危惧しているのは、逆に定石を知らないプレイヤーはどうしたって解けない…これはGBとしてはもう駄目だろ」
朕「タイアップも楽じゃあないんだな……」
B「ブーム当時の話だけど、同じタイアップ作品でも『天空の城ラピュタ』のGB2作品が対照的だったな」
朕「と言うと?」
B「アニメージュの付録GB『飛行石の謎』はパズーの冒険を追体験できる作品」
朕「……普通に『ラピュタ』のファンが手に取りそうな内容だね」
B「一方アニメージュ文庫から出たGB『天空の迷宮』はラピュタ内部の迷路を攻略する作品だったりとかな」
朕「それは結果的に『ラピュタ』のファンを失望させる気がするなあ……」
B「知名度さえあればいいなら、いっそのことルパンシリーズとファミコンゲームブックを復刊した方が早くね?。『コアなGBファン』なんざ全面放置で」
朕「身も蓋もない発言だなあ……知名度が商業に繋がらないならやはり萌え要素しか無いのかな」
B「例えばハルヒのGBが出たら売れるのかという話だが…のいぢ絵でエロければ買ってやってもいいッ!」
朕「最初からGBとしてじゃなく関連グッズとして売るのか…厳しい話だなあ」
B「GBチャットにしても、システム優先の話が多いよな。固いシステムさえあれば、後は知名度のある『メジャータイトル』を適当にカヴァーして馬鹿売れだぜ!みたいのが」
朕「酷いディスだ…まあ言わんとするところは分かるけど」
B「GBファンの中には、分岐する物語を楽しむストーリー派の人間もいる筈だろ?新規層にもそういう人がいることに思い至らない」
朕「ストーリー派もシステム派も、完全な二項対立ではないけど、確かに新規層のストーリーへの需要は無視されがちだね」
B「エロゲの特典ゲームブックなんかをこの俺様が欲しがるかってんだ!舐ァァめェェルゥゥなァァァ!!」
朕「おお。よくぞ言い切った。感動した」
B「いやスイマセンやっぱ超欲しいです。買い逃したんでテラフヒヒ」
朕「…………」
B「まあ兎も角、使い回せる固いシステムに萌え絵と適当なストーリー載せて売る心算なら、QBの方がよほど良心的だと思うがな」
朕「売れる売れないは別として、GBを遊ぶ側を向いた戦略では無いだろうね……」
B「ハルヒのGBも只の人間に興味はねーので宇宙人、未来人、超能力者を選んで遊べるシステムなら考えなくもないがな!」
朕「ムゥーン。あと脳トレという声もありますが……結局フーゴ・ハル御大のパズル本に一周して戻って来た気が」
B「そもそもマイナージャンルのGBで、更にブーム後追いで既存のパズル本を出して、復興の起爆剤になると思うかね?」
朕「BOBらしいなあ……でも止めないんだろ?」
B「当然。商業的に売れそうなら好きにやりゃあいい。その上で買うかどうかは個々が決める話だから」

ドルアーガ新版『悪魔に魅せられし者』

B「追加要素と新アイテムがあるらしい…これは旧版をコンプしている俺様でも買いだろう」
朕「表紙も変わるみたいだけど、新版に合わせたこういう芸の細かさがあると嬉しいよね」
B「俺様としてはマップの構成に大きな変化は無いと踏んでいるが……」
朕「ドルアーガでマップ概念が取り入れられて以降のGBは進行管理が複雑化していった訳だし、気になるところだよね」
B「紙媒体のゲームでありながらシステマチックな方向性を示した革新的な作品だったのは確かだな」
朕「それだけに攻略本と間違えられても手に取って貰い、裾野を広げるのが重要という意見もあるようですが…」
B「別に好きにすれば?売れてそこそこ小銭が儲かればいいがな。GB自体のファン層自体は増えねーだろって話だ」
朕「結局それだと2巻以降に続かない気が……」
B「まあその辺の商業戦略が成功しようがしまいが知ったことじゃあないけどな!」
朕「あとドルアーガファンを引き込むって…具体的にどういう試みがあれば可能なのかな?」
B「ゲーセンのドルアーガオンラインは遊ぶどころか画面さえ見たこと無いけどな!」
朕「ゲームブッカーはドルアーガファンと言うより鈴木ファンだから実現性に乏しいと思うけどね」

魔人竜生誕

朕「特撮物を意識した現代伝奇GBという『魔人竜生誕』ですが…ぶっちゃけどうですか」
B「あえて特撮物にする必要は無い気もしたが斬新なアプローチだと思った。欲を言えば『伝奇』じゃなくて『伝綺』としていただきたかった」
朕「割に遊びこんで全ルート踏破したけど、淡泊なストーリーだなという印象が」
B「それが問題。導入部からパラグラフ1まで読んだ時に、先の展開に期待できない」
朕「引きや掴みが弱い…ということかな?冒頭の出だしも確かに地味だね」
B「いわゆる名作とされるGBは、最初の掴みが明確な訳よ。そうだな……適当に思いつくゲームブック挙げてみるよろし」
朕「そう言われましても…ドルアーガ3部作、ソーサリー4部作、ネバーランド3部作、ローンウルフシリーズ、ファルコンシリーズ、ドラゴンファンタジー、『ドラゴンの目』…」
B「ファルコンは微妙に違うけど、他は大体当て嵌まる…魔力の杖3部作、ブラッドソードシリーズ、ザナドゥシリーズとかもそうだな」
朕「というと?」
B「パラグラフ1の時点で、物語の『終局的な大目標(クリア目標)』と『最初の小目標(スタート時の行動指針)』がプレイヤーに明示されているんだよ」
朕「例えばドルアーガだと、具体的にどういう形なの?」
B「『大悪魔ドルアーガを倒す(大目標)』ために『1フロアづつ塔を上がっていく(小目標)』ことが、最初の時点で作者・読者双方の共通認識になっている」
朕「ムゥーン。ローンウルフに当てはめるなら、『虐殺された仲間の敵討ち』のため、まず『戦場を抜け、王宮へ向かう』ことが目的な訳だ」
B「スタート時に、どういう傾向の話で、何がクリア目標となり、どう行動すべきか、それが全部伝わらないと感情移入も難しいし遊びにくいってことだ」
朕「…成程」
B「あと全体のストーリーも各話完結に拘り過ぎて、起・承・結でスケール感に欠ける」
朕「作者としては、モチベーションは個々のプレイヤー任せなのかな?」
B「先に世界設定だけガッチリ作ってストーリー走らす大塚英志流のラノベならそれでもいいかもな。けど読者=プレイヤーになるGBだと厳しいだろ」
朕「ときに3人のパートナーから1人を選ぶのはファルコンシリーズ5巻の『死にゆく太陽』を思い出すね」
B「ファルコンシリーズにはそれ以前のGBでなされた試みが概ね網羅されてるしな」
朕「『死にゆく太陽』だとパートナーによって難易度も変わったりするんだけど、『魔人竜生誕』もそれなりに再読性を重視したストーリーな訳だね」
B「単発作品で再読性を持たせるにはシステムによくよくの工夫が必要になってくるんだけどな」
朕「ふむ」
B「城塞戦車ドルアガノンを攻略したら次にタワー怪獣ドルアガノンが待っていましたみたいな……そんな再読性」
朕「ケイブンシャの方のドルアーガ外伝かよ!微妙に黒歴史扱いされているアレ」
B「タワーの中身は同じですんで、ぶっちゃけ3回読み直してくださいフヒヒ!」
朕「(無視)……そこでこのGBの最大の特徴『フラグマトリクスシステム』ですが……」
B「あー…実は俺様一度計算ミスで全ルート踏破は挫折したんだよな」
朕「ちなみにデザイナー様のサイトでは『うっかりさんがいるものだな』とのことですが…」
B「カァーッ!遥かな高みからのお言葉、心に突き刺さりますな!T&Tソロアドベンチャーでも作ってろ!」
朕「滅多な事を言ってはなりません!巡回先GBサイト様では大概『その辺も含めて高評価』と仰っているのだから!」
B「まだわかんねーのかママッ子野郎のペッシ!」
B「俺様たち地獄を攻略してきたゲームブッカーはな!業界背負った面で「高評価」「高評価」って大口叩いて仲間と心を慰めあってるような負け犬どもとは訳が違うんだからな…」
B「5年ぶりの新作だろうと「撃墜する」と心の中で思ったならッ!その時既に行動は終わっているんだッ!」
朕「まあまあ…確かにプレイヤーのミスを誘発するシステムの完成度が高いとは思えないんだけど…」
B「パラメーター変動システムは『ドラゴンスレイヤー』で実装済みだろ。ファルコンシリーズのように3キャラ分の分岐は可能な訳だし、ぶっちゃけシステムの存在意義が見出せねー」
朕「まあまあ…デザイナー様には一応拘りがあって次回作も導入する心算な訳だから…」
B「只の指セーブ禁止システムに落ち着いちゃっているよな。デザイナー本人がテストプレイで必要以上にガチバトルを繰り返した結果辿り着いたとしか思えねー」
朕「デザイナーでさえプレイ中に死ねる難易度ってことか…何か自罰的なシステムだなあ…そもそもプレイヤーにメリットはあるの?」
B「メリットは感じられないし、ぶっちゃけ難易度に逃げた分取っ付きも再読性も悪くなってるよ。結局3ルートでクリアして終わりだしな」
朕「それはストーリーの問題であってシステムとは関係無いのでは?」
B「大いにある。例えばFFだと何回か戦っていくうちに運点の使い方を覚えるだろ?システムに習熟する程遊び方の幅が広がり、より深い達成感を得られるから飽きない」
朕「プレイヤーからのフィードバックがあるのがFFが広く受け入れられた理由の一つだろうね」
B「でもフラグマトリクスは罰する為だけのシステムなんだよ。プレイヤーの自発性や遊びを促す部分が皆無。計算ミスをしなくなったら、レベルアップしたって喜ぶのか?」
朕「まあ……そうね」
B「取り敢えず言うだけ言ったが、ぶっちゃけ次回作も楽しみだ!必ず『買う』と宣言しておくぜ!」
朕「その前に魔人竜を全ルートクリアしなさいよ……」