ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ260→→→パラグラフ232:ロアストーンの伝説:(死亡・8)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



最早殺気だった傭兵たちとは穏便に話をつけられそうもない。
空いた椅子に片膝を立て、太陽の剣の輝きで視界を奪う――



「うおっ まぶしっ」
脂ぎった顔の兵士が陽光を顔面で反射する。
太陽の剣と脂顔との間に挟まれた2名の兵士は、さながら両面焼きのハムエッグだ。
そして。
彼らの顔色が変わった。


ロ…ローン・ウルフだと?まさか……」
「いや、間違いない。彼は北方人だ。それにあの業物……」


あれほどの殺気が消えていき、傭兵たちの顔を覆う疑惑と不信の表情が雲散霧消した。
微かに後悔を顔に浮かべ、顔に傷のある男が言う。
「……すまなかった。あンたの勇名は遠くこの地でも轟いている」
「あ、あンたは俺の憧れなんだ!」
「おい、女給、ボサッとつっ立ってるんじゃねえ。こちらの英雄殿に冷えたビールを持ってこい、2秒でだ!!」
「まじっスか……!?」
拍子抜けして俺の口から、思わず間の抜けた声が出る。
雁首揃えたズッコケ3人組は熱心に、憧憬さえ喜色に浮かべて首がもげる程激しく肯いた。
「まじっス。俺らローン・ウルフのファンだもんで」
ファンだもんで・・・
ファンだもんで・・・
ファンだもんで・・・



いやいやいや。
いやいや。
只酒ってのは、ホンット良いですねー!6巻分も苦しい旅を続けてきた甲斐があったよ…。


それからの俺は下にも置かれぬもてなされようだった。
「先刻の無礼は勘弁して欲しい。なにぶん餓鬼の頃から傭兵稼業なもんで礼儀には疎いんだ」
「いいさ。気にしちゃあいない。いきなりで驚かせたようだし」
隊長と思しき傷のある男に答え、ビールを飲み干す。
彼らの方が年上だろうが、傭兵の世界ではそんなものは関係無い。実力が全てなのだ。
「あンたの武勇伝は、傭兵の世界でも広く知られているんだ!」
「退かない!媚びない!省みない!その破天荒な生き様!」
「俺たちにできない事を平然とやってのけるッそこにシビれる!あこがれるゥ!」
「百戦錬磨の剣士も怯むダークロードを向こう正面から斬り下げたっていうあの話は本当なのか、なあ、本当だろ?」
彼らは自分たちの話などそっちのけで様々な俺の英雄譚を聞きたがった。
ドゥレーン谷でのヘルガストとの死闘や砂漠の帝国での逃亡劇を熱心に聞き入る彼らの姿に嘘は無い。
傭兵たちは真実、俺との出会いを誇りに思っているようだった。
確かに粗野で不作法だが、只の悪漢では無い。実に気の良い連中だったのだ。
まあ傭兵稼業自体が元来そういうものなのかも知れない。
どの街へ行っても疎まれ、権力者に利用されるだけの傭兵は、余所者に過剰な反応を示す反面、胸襟を開けば純粋なのだろう。
「ビールのお代わりを我々の勇ましい友人にあげてくれ」
赤ら顔の兵士が熱心に酒を進め、女給の持ってきた追加のジョッキを高く掲げる。
「戦いの栄光のために」
「そして勝者のために乾杯!」
ビールが回るうち、彼らの口は更に軽くなり、食卓は盛りあがった。
この辺りが機会だろう。
用心深く、そしてさりげなく、最初の目的を切りだす。
「ところで、君らはこの地域に詳しいだろうが、バレッタのロアストーン なる伝説を知らないか?」
「ああ」と赤ら顔が手を振って「ありゃあ只の伝説……神話……伝説?に過ぎない」
「そうでもないぞ」
輝く面の兵士が割って入り、驚くほど真剣な顔をした。
「それは実際にあったんだ。だがずっと前に無くなってしまった。ロアストーン は魔法の力を持っている。手にすれば普通の男でも王になれる」
仲間たちはその答えに笑ったが、俺は微かな寒気を覚えた。
普通の男でも王になれる……ロアストーンの力がそうした間違った形で伝承しているなら、夢時間での妨害も頷ける。
特定の者が手にすることを嫌う集団も現れるだろう。
逆に、自らが手に入れるため、競争者を未然に排除しようとする者が現れてもおかしくないのだ。
脂顔の男は構わず続けた。
ロアストーン はかつてバレッタの王の塔にあるリリス玉座に埋め込まれていたんだ。だからバレッタのロアストーン と呼ばれる……ローン・ウルフはこの話を知っているか?」
「いや、初耳だな。もっと教えてもらえるか」
男の話は以下のようなものだった。



7つのロアストーン のうち1つは、ここ、リリス王室の宝とされ保管されてきた。
ところが、数百年前にロアストーン をめぐる戦争が起こり、サロニーのカスコー王子の手でロアストーン は盗まれた。
王子はロアストーン を黄金の王笏につけて常に前線で戦い、それが不死の肉体を与えてくれると信じていた。
無知と願望が歪められ、そのように伝わったのだ。
だが、無論、サロニー王子は不死を得た訳ではなかった。運が良かっただけなのだ。
王子はレム近くでの戦闘中に船上で殺され、ロアストーン はストーン河に沈み失われた。
しかし、話はここで終わらなかった。
ロアストーン のついた王笏が発見されたという話……殆どが作り話だ……は後を絶たない。
伝説ではロアストーン を手に入れた者がストーンランドの正統な後継者であるとされる。
この理由から、いまや権力を夢見る多くの野心家がロアストーン を探しだそうと血眼になっているのだ。


ロアストーン のことならば、バレッタの多くの学者が今も研究に身を捧げている。『ブラス街の賢者』と呼ばれる人々だ」
「……なかなか深い話なんだな。有り難う。参考になったよ」
この辺が潮時だろう。
真の目的や行き先を悟られぬよう、適度なところで切り上げ、兵士たちに礼をいって席を離れる。
恐るべき内容の話だった。
この話こそが欠けていたロアストーン の謎のピースの一片。
数多くの妨害や人々の奇妙な態度の理由だったのだ。
ロアストーン を求める者。
それはすなわちストーンランドの征服を企てる危険人物と同義でもあるのだ。
これらのことを肝に銘じて、俺はフロントに向かった。

(つづく)