ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

汚水を避けて人々が逃げ惑う

【パラグラフ31→→→パラグラフ71:石鹸の国の狼:(死亡・5)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



飛びかかってきて俺の脚を引っ張り出すシャーナジム。
ご存知の通り下は悪臭地獄。
俺はカンダタじゃあないぜッ!
1人の顎の下に爪先を滑り込ませて、喉笛を蹴り潰す。
醜い顔のシャーナジムは喉を押さえ、泥濘に沈みこんだ。
重い石の落とし戸を肩で押し上げたとき、残る1人が三日月刀を口に銜えて上ってきた。
最早生け捕りにする気も無いらしい。
穴から飛びあがると、そこは屋台が立ち並ぶ混雑した路地だった。
出口わきの柳細工の屋台に目がとまる。
積まれているのは瀝青が塗られた新品の松明の山。
これだ!!
カルトの火の玉 を取り出し、不滅の炎で松明に火を点ける。
下水道の穴に投げこんだ途端、閃光と爆発が走った。
路地の至る処で石のマンホールが連鎖的に吹っ飛んでいき、汚水の水柱が聳え立っていく。
バガ・ダルーズの澱んだ空気に含まれていた可燃性の気体が誘爆したのだ。
天から降りしきる無情の臭い雨にまかれて人々は逃げ惑い、この混乱を利して俺は水浸しの路地を走った。
臭いものを隠すには元から絶たなきゃダメ!ゼッタイ……って奴だ。
今は亡きカイの師が時折そんなことを口走っていたような気がする。


『バラキーシュ公衆浴場』


下の市場まで辿り着いた俺は素敵な看板を見いだした。



薄紅色と白の大理石の建物に入っていく。
白い長衣を着た番台風の男が奥の壁に座り、巻物に顔をくっつけて読んでいる。
北方人だとばれる気遣いは無さそうだが……
と思った瞬間、男は見てもいないのに俺の存在に気づき、ガバッと顔をあげた。
「おきゃああああッ」
男は獣のように叫んだ。
「お前はバクナーより臭いぞ!」
「ううっそ。majiで?」
「majiで!臭いから服ごと入れ!」
男は鼻孔に第二関節まで指を突っ込み、白目を剥いて悶絶した。
バクナーといえば、氷の荒野カルトに棲息する肉食獣。
凶暴性もさりながら、ある種飛び抜けた体臭が特殊な嗜好の紳士に大人気なのだ。
そのバクナーより香ばしいとは……しかも、ほんの一時間足らずの逃避行で……。
改めてカイ・マントの裾を摘んで臭いを嗅いでみる。
たまらぬ臭さであった。


入口の先は長い廊下になっており、等間隔に浴槽つきの小部屋が並んでいる。
浴槽には心地良い芳香を放つ石鹸水が絶え間なく注がれ、溢れた水は惜し気もなくバガ・ダルーズへと流れ込んでいく。
忠告に従い、浴槽の冷水に着衣で飛び込んだ。
半透明の紫がかった油を満たした陶器が置いてあったが、あえて無視した。
洗剤とかの類だろうが、カイの回復術を身につけていないため判別できない。
使用法を間違って体力が減ったら泣くに泣けない。
温かく乾燥した控え室で服を乾かす。
控え室の先は広間になっていて、井戸端会議に夢中の市民で混み合っていた。
水の乏しい砂漠にあって、これら全てが無料の施設なのだから、バラキーシュの住人が誇るのも頷ける。
耳に入る話題は新帝の話題ばかりだが、ザカーン・キマーをよく言うものは殆どいない。
成る程な……
控え室で手に入れたタオル に身を包み、混雑に紛れて気づかれずに外に出る。
折角だから、肌触り滑らか仕上げのタオル を荷物にしまった。
嵩張るためナップザック2個分のサイズらしい。

(つづく)