説教全裸ゲームブック作家―拓唯という作家の真骨頂―


それが、この作者の素敵なまでのド天然ぶりと、ハイテンションにかっ飛ばすオレ流のノリです。
拓唯(読みはおそらく『たく ゆい』) 先生は、昨日も触れたとおりちょいと普通じゃないところがありまして、例えばこのゲームブック、前述の展開によってどうでもいい選択肢が山のように出てくるにも関わらず、そのどうでもいい選択肢を一つ間違うとクリア不可能になります。
例えばパラグラフ163がそう。山の中を逃げ回り、どうにか病院から脱走した主人公。山のふもとで分かれ道に出くわします。
かなりの確率で読者がたどり着くだろう運命の選択肢がこれ↓


きみは、

 道を左に行ってみる            163へ
 エレベータに乗って港へ行く        115へ
 道を右に行ってみる            164へ




工工エエェェ(゜Д゜)ェェエエ工工????




こんなのありえんでしょうが普通。ゲームブック大好き少年が初めて作った手作りゲームブックじゃないですよ。天下のHJ社のゲームブックで、生死を分ける選択肢が、コレ。
すさまじいやっつけぶりです。
正解は一つきり。
間違った選択肢を選ぶと、二度と記憶喪失の手がかりを得られません。
ある程度似たり寄ったりの選択肢で、自由度が高い中でいきなりのコレ。死のパラグラフです。
つまりは、拓唯先生、明らかにゲームブックを書くつもりはないのですね。
彼の中ではすでに確固たるストーリーラインがただ一本だけ力強く出来上がっていて、それ以外はゲームブックの体裁をとるためにどーでもいいバッドエンドをくっつけただけなのです。*1



そして、この天然作者の真骨頂が炸裂するのが、ハッピーエンドを迎えられずあえなく終わってしまった場合。
バッドエンドでは、主人公が死んだり目的を果たせず終わった文章描写の後、著者のおことばなるコーナーがあります。



『著者のおことば』原文ママ



すごいネーミングです。自分で自分に「おことば」とか丁寧語使っちゃうあたり実に微笑ましく頬がゆるみますね?
しかしナニでアレな片鱗を感じさせるものの問題の本質はそこではないのです。
この「筆者のおことば」欄の中で、読者は拓唯先生から反省を強いられたり、あとちょっとでクリアだよと叱咤激励されたり、時にからかわれたりします。
それこそ『HELLSING』の平野耕太先生が同人誌で好き勝手絶頂に全裸説教マンガを描くとそれが一部のファン層*2大受けするごとく、拓唯先生は読者を自在に翻弄し、その行動にケチをつけ、説教までする独特の作風で人気を博したに違いないのでした。*3


アイデンティティ汁あふれまくりのそのおことば語録はといえば「おめでたう」「教えたげよう」「こーゆーこと」「心配はいりゃあせん」とまあどこからどこまでこんな口調。
フレンドリーといえばそんな気もしますが、80年代という背景からどうしてもアレが脳裏にちらつくんですね。
そう、『究極超人あ〜る』です。
台詞回しが実に巧みな人気作品でしたが、当時のナニでアレな人々の脳に及ぼした影響は図り知れません。
朕の関西在住の知り合い・ニートガイJ(仮名)も「そのたうり!」「バルパンサーのポーズはこうッ!」とか来る日も来る日も口走っては周囲を困惑させていたものです。
拓唯先生もアレにどっぷり嵌まっていたんじゃないかなァと、朕は微笑ましく想像してしまいます。




まあ、シリル・アビディ(格闘家)に馬乗りになった大晦日ボビー・オロゴン(タレント)ばりに好き勝手絶頂めった切りにしてはみましたが、ゲームブックそのもののデキで考えるなら、けっして悪い内容ではないと朕は思っています。


まず、サイコロをまったく使わない展開だということ。
簡単そうでこれ大変です。
ゲームブックにおけるサイコロは読者の選択肢を不自由にさせ、ある種のゲーム性をうみだします。それがないということは、つまり小説部分を何度読んでも飽きさせないよう書かないといけないということ。
拓唯先生の文章には、独特の味があります。
さんざんバッシングじみた評価を並べておいて申し訳ないのですが、朕は彼の文体が大好きなのです。
アウトローでいてどこか洒落た(くだけた)会話をすることのできる(しかも女たらしな)主人公の造形も良いですし、ハードボイルドな骨太の物語も後半にかけてしっかり盛り上がります。


そして、サスペンスが主軸になっていること。
目覚めると記憶喪失、周囲から不穏な目で監視されていて、しかも特殊な技能がある。本当の自分は何なんだ……
この緊張感あふれるロバート・ラドラム的な展開は、選択肢を選びすすめるゲームブックと大変に相性が良いわけです。
それでいて序盤の自由度はかなり高く、『ガンダム世界を一般人的にうろつく』という稀有な体験を味あわせてくれます。
総論の3を思い出してください。
ガンダムゲームブックでやりたいこと、の分類に従えば「ヘルメス迷走」はまさに「ガンダム世界の一般人」を満喫させてくれるわけです……読者のニーズがあったかどうかは、ともかく。

*1:大抵の読者は続編『ヘルメス夢幻』でそれを知り愕然とするのですが、それは次の回に

*2:BOBをはじめとする特殊な嗜好の紳士連

*3:未確認ですが、そう信じてやみません