ヘルメス迷走を追体験する


では、ゲームブックを始める前に余計なことを忘れましょう。
せっかくZZワールドで楽しむのです。勉強やら家事やら面倒くさい日常を締め出します。

本文内のイラストを描かれるのはMADS氏とうらべ・すう氏(故人)。
特にうらべ・すう氏はご存知の方も多いでしょう。ホビージャパン本誌の投稿者出身で、ヘルメスシリーズのほかHJ社の雑誌イラストやカードゲームのイラストを多く手がけ、独特の絵柄に惹かれたリスペクター多数という方です。

やたらカッコイイ表紙で気分を盛り上げ、ページをめくって『はじめに』を読みましょう。
以下引用。


 この本の主人公は、自分に関するすべての記憶を失
ってサイド6にほうり出された『きみ』です。パラグ
ラフを読み進めるうちにあなたは、白紙であった男の
内面をあなたの色に染めていくのです。

『白紙の男の内面をあなたの色に!!』
すごい決め打ち科白。いきなり読者の心を魅了しまくりですね。
さぁ、期待に胸膨らませてページをめくります。
最初に目に飛び込んでくるイラスト……それは……


















 


全裸でした――――――!!!!!!!!!!!!
よりにもよって、主人公はマッパでスタートですッッ!!!! 現実はかくも厳しいッッッッッ!!





まぁ、この冒頭はただの夢シーンなわけですが。
ざっぱに言えば、『ZZガンダムゲームブック』を期待する人の夢を粉々に打ち砕き、しかるのち拓唯先生味*1に練り直すのが『ヘルメス』3部作の基本構造と断言して差し支えありません。
なにしろ、「はじめに」の煽り文句にあったように主人公は記憶喪失の青年。
記憶を取り戻すためにサイド6内を駆け巡る(だけの)物語ですから。
へ? モビルスーツ
あぁー。リック・ディアスとかマラサイとか? 


……あんまり出てきませんね。いたかなぁ。


その代わり、サイド6に住む人々の赤裸々な生活多め。むしろてんこ盛り。
公園で目を覚ますと家なき人*2の集団が回りにいて「おー、起きたな、新入り」と慣れなれッしくも声をかけられちまったり、野宿がいやで宿に泊まったら金が尽きてしまい、なし崩しに働くことになって市場まで買出しに行かされたり、気晴らしにパブで遊んであっという間に金が尽きたり。あげく、昼日中から公園でボーっとしていると、子供を遊ばせている母親たちから不審な目で見られたりなんてプレイもできます。
とにかく斬新かつ度肝を抜く物語。
こうしていくつかシーンを抜粋した朕の手がショックで震えるほどの大胆さです。
未だかつて、かくも日常の手垢にまみれたゲームブックがあっただろうか。*3
なにせ主人公、記憶を失い、変な病院(たぶん黄色くて鉄格子がはまってる)に閉じ込められた状態でスタートします。
コネなんかどこにもないわけで、ガンダムはおろかモビルスーツだって乗れやしません。物語の雰囲気はわりかしハードボイルドしてますが、病院を脱走した後の主人公は、金もなく、その日その日を生き延びるため職探しにあけくれるのでした。
……いや、冗談じゃないんですよ。
嘘つくなって感じのストーリーですが、マジです。これ本編です。*4
こうしてガノタの期待をよそに、自分探しと名を偽ったリアル求職(&メシ確保)の切実なシムピープルプレイが延々続きます。
失った記憶も、なぜか身につけている大藪ばりの徒手格闘術の理由も明かされぬまま、変わり映えのしない生活ばかりで発狂寸前に*5なってくるころ、ようやく主人公は記憶を取り戻し、ついには念願のコクピットに乗りこんで、イラストに描かれる雄姿も凛々しいまま声高らかに心の中で叫ぶのです。


(パラグラフ208より引用)

 スクラップの間を走り抜けて背後の暴発から逃げな
がら、きみは破壊の快感に酔いしれた体が、興奮から
さめていくのを感じていた。
 ――思いだしたぞ……俺はヘルメスだ。パンドラの
箱を持つヘルメスだ――

















・・・・・・。
・・・。
プチモビですけど、ソレ。



襲ってきた悪党(武装はしているが生身)をプチモビのアイアンフィスト(鉄拳)と作業用トーチで蹂躙するわれらが主人公。
……非道です。
容赦なく悪党の背中をレーザーであぶって悲鳴に聞き入っています。
さすが『ボーン・アイデンティティ』、工作員としての記憶と血がよみがえって以降は天晴れな活躍ぶりですッッ。
血湧き肉踊る鬼神の如き大活躍ッッッ!!! 
・・・・・・・・・・・・・・ごめん、いま嘘ついた。
朕は汚い大人でした。*6



ここまでの講義を読んだのなら、微妙な虚脱感が皆さんの心を包んだんじゃないかと思います。朕も同じ症状です。
あらゆるガンダムゲームブック中、プチモビに乗って暴れまわる主人公は彼だけですよ。
なんか没った宣伝文句みたいだな。
『プチモビに乗りたかったらHJのゲームブックを!』
インパクト薄っす――――――。




まぁでも実際、このイラストなんかレアなカットだと思います。
参考までに数えましたが、全イラスト37枚中メカが書かれているのはこれを含めて二枚きり。
もう一枚は主人公をかくまったジュドーの妹リイナがジャンク屋で黒服にいじめられているシーンの背景です。こっちも多分プチモビ。
というかこの非道シチュエーションで(´Д`;)ハァハァ萌えるBOBは本当にどうかと思います。
本編ではさらりと流されているのですが。



というわけで、『ヘルメス迷走』は全裸に始まり求職に明け暮れる異様なノリで突き進むゲームブックなのですが、ここまでは単なる序章。前菜どころか、スプーンとフォークを並べた段階に過ぎないのでしたッッ。
そこ、うんざりしない。こっから重要。テスト出ます。むしろ出していただきたい。
このゲームをキワモノのガンダムゲームブックたらしめる最大の要因は別にあるのでした。
それが……

*1:クセのある独特の風味

*2:いろいろアレなので、爽やかに表現しています

*3:いやない。

*4:家なき大人と挨拶をかわすのはパラグラフ32、買出しに行くのはパラグラフ98。パブで遊ぶのはパラ132。不審者扱いされるのはパラ117。ほら、全部あるべ?

*5:主に読者が

*6:年齢?ああ、17歳です。