ゲームブックを追体験する

ゲームブックは、ごく簡単に言えば「選択肢を選んで読み進める物語」だ。
例えば、こんな感じの文章を読んだことはないだろうか。


104

「奴を捕らえろ!」マウオクが叫ぶ。「ただし、生け捕りにするんだ!」
君は遠くのガレー船へと走った。船員たちはこの絶望的な状況にまだ気がついていない。
彼らは特使が殺されるのを見ていないし、君の危機にも気づいていない。助けを呼ぼうとすると、
一人の騎兵が君の前に分け入り、船に行く邪魔をする。
 騎兵を攻撃するか 20へ
 海に飛び込み、戦闘を避けるか 142へ
 降伏するか 176へ

(出典:『砂上の影』 ISBN:4938461153


舞台は剣と魔法の世界。不穏な隣国から派遣されてきた特使につれられ、和平交渉へと赴いたあなたは、港に降りたつなり王宮直属の護衛隊に包囲されてしまう。
「これは罠だ!」
警告を発した特使が護衛兵の刃にかかり、あなたはとっさに逃げだした。
だが、港はぐるりと包囲されている。助けは遠い……


これはゲームブック序盤の1シーンだ。スリリングなシーンに放り込まれストーリーを読み進めていくと、4行目で物語がいったん停止する。短い断章の末尾に選択肢らしきものと行き先の番号があり、今読み進めた項目の冒頭にも数字がわりふられているのがお分かりだろうか。
ゲームブックは、こうしてナンバリングされた短い断章(パラグラフ、セクションなどと呼ぶのだが)の連続で構成されている。続きを読むためにどうするかといえば、この物語に放り込まれたあなた、つまり読者自身が選択肢を一つ選んでその先の番号へ進み、話を進めるのだ。


仮に、敵が強そうなので、逃亡をあきらめて降伏を選ぶ(選択肢の3番目)としよう。
パラグラフは1から順に並んでいるので、このパラグラフ104からぱらぱらとページをめくって176まで進む。
そうすると、



176

ナップザック、武器、金貨、特別な品物のすべてを奪いとられる。さらにうしろ手に
縛られ、待ちかまえている馬車に頭から放り込まれた。
「ザカーン陛下が戦利品をお待ちだ」
なんとかして手を縛っているひもをほどこうとするが、マウオクがすぐそれに気づいた。
彼は君の腕をつかみ、針を刺した。君は睡魔に襲われ、襲われ、マウオクのいやな笑い
声も沈黙の中へと消えていく。
69へ。


いきなりあなたは囚われの身だ。丸腰でどこへ連れて行かれるのか、ゲームオーバーに
ならなかっただけマシだけど冒険の達成は困難なものになりそうだ。
げっと思ってやり直すなら、本当はズルだけど、ページをぱらぱらと戻って前のシーン、
パラグラフ104からやり直してもよい。今度は諦めず逃げて(選択肢の2)みようか……



142

海に飛び込み、息の続くかぎりもぐったまま泳ぐ。シャーナジム(引用者注:敵の兵卒)
があらゆる方向から駆け寄ってきて君の逃亡を阻止しようとする。君は一息すると再び
水の中にもぐり、13メートルほど向こうにある小船の群れへ向かった。
海水は青く澄んでいて、商船が残していったゴミが水底に光っているのがよく見える。
古い一本のいかりにはゼリーのような奇妙なしみがついている。たくさんの管があらゆる
方向につきでていて、かぎ状のへらが垂れ下がっているのだ。
何の前触れもなく、そのしみがたくさんある気官から水を吐き出して君の方に向かって
きた。しみに見えた物はブラッドラグだったのだ。君の体に食らいつこうとしている!
 動物語を身につけていれば
 ブラッドラグと戦うか
 ブラッドラグから逃げるか


逃げだせたと思ったのもつかの間、港に生息する獰猛なモンスターが襲ってくる。
あらかじめ特技選択で「動物語」を習得していればよいが、さもないと厳しい選択が……


このように読み手が自分の選択で物語を押し進めていく小説がいわゆるゲームブックだ。
読者は文章やイラストを手がかりに主人公の行動を決めていく。もちろん毎回、選択がうまくいくとは限らない。間違った選択をしたり運が悪ければ、最終章を目にすることなくゲームオーバーとなり、最初から読みなおすことだってある。