ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ258→→→パラグラフ239:coup de grace:(死亡・13)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



ソマースウォード を持ってきてないのは計算済み。
……だがこの予定調和は高くついた。
ザカーンの手にした死の球の周囲が陽炎のようにぶれ、不可視のエネルギーの矢が左腕を掠める。
辛うじて勘で直撃こそかわすが、5点のダメージ を負わされ、体力点は20点を切った。
嘲るようにザカーン・キマーが哄笑を放ち、薄い唇を引き攣らせる。
「無様だなローン・ウルフ。うぬが余の前に膝をつくこの日が、バサゴニア帝国の覇業の始まりの日となろう」
「ほざけ……ダークロードの遣い走り風情が」
罵り返し、地を転がって跳ね起きる。
左腕の感覚は失われていたが、それを気づかせるつもりはなかった。
ここに来てはじめて理解する。
ザカーン・キマーの尋常ならざる力の源泉は、ダークロード・ハーコンに与えられた力の遺品、「死の球」によるものだったのだと。
「狼の名にかけて、この都から生かして還すつもりはない。ここが貴様の墓標だ、ザカーン」
「痴れ言を。手も足も出ない癖によく吼えるものよ。大言壮語もあと数秒だ、野良犬」
「そう思うか?本当にそう思っているのか?」
牙を剥き出した狼の嗤いを顔に張りつけ挑発した。
「いいことを教えてやるよ、ザカーン・キマー」
「ほう?」
「ハーコンも死に際に、貴様と同じことを言ってたぜ。道理で口から死臭がする訳だ」
ザカーン・キマーの顔がみるみる怒りにドス黒く変じていく。
砂漠の皇帝は忘れてはいなかったのだ。
俺との、そしてソマーランドとの確執の端緒となった、屈辱的な砂漠での―― 自国での―― 敗北を。
この機に乗じて素早く次の手を……



・精神の指輪 を持っていれば、188へ。
・バシュナのナイフ を持っていれば、79へ。
・これらも特別な品物をどれも持っていなければ、20へ。


選択肢を目にして硬直した。



・バシュナのナイフ を持っていれば、79へ。


「何だと……」
既刊8巻を含めて、ここまで明確にバシュナのナイフ が求められたことはない。
その出自については何よりも俺が知り尽くしている。
ダークロード・バシュナ復活の媒体となる祭器に過ぎず、ただの短剣以上の殺傷力はないのだ。
にもかかわらず――
恐らく通常は、あるいはこの巻から遊びだしたプレイヤーは、確実に精神の指輪 に流れることだろう。
しかし、だからこそ。
狼の勘が勝利のイメージを幻想していた。
ここは8巻を通し抜いた狼しか選択し得ない最適手。
これを選ばずして未来はないっ!


バシュナのナイフ をベルトから引き抜くと、邪悪な刃は激しい唸りをあげた。
ザカーンの瞳が恐れで揺らぐ。
君の選んだ武器がザカーンを取り巻く力の障壁を貫くことに気づいたのだ。


勝利を確信する。
まさしく、死の球がダークロード・ハーコンに授けられた邪悪の精髄ならば。
バシュナのナイフ こそは更に起源を古くする、二十柱のダークロード最強のバシュナに由来するのだ。
同質の邪悪なればこそ……太陽の剣さえ撥ねのける<反=生命>の死域の結界が、防ぎえない凶刃となりうるのだ。



・ザカーンめがけナイフを投げつけるなら、239へ。
・白兵戦に持ち込みたいのなら、10へ。


全身が粟立つのを感じ取る。
ただ死の球に抗うだけの力ではない。
この選択肢――
ザカーン・キマーを圧倒し、ただ一撃で殺し得る可能性を秘めていたっ!!
狼の『決意』と『覚悟』は定まっていた。
恐れから立ち直ったザカーンが再び死の球に視線を落とす。
短い詠唱で、あるいは思考するだけで殺意そのものを障壁となす漆黒の金属球が震動する。
だが遅い。
既にこの俺は、ノーモーションでバシュナのナイフ を投げ放とうとしているのだ。
ゲームブック業の使用が不可能なラストバトル。
賭けうるものは己が命のみ。それで十分だ。
ただ一度、ただの一閃。
それで邪悪を滅ぼすのならば。
5以上の出目で……確率5割で打倒するものならば、出して見せようッ!
迷いはない。
死を賭して乱数表を指す―― ッッ!






運命の投擲が、カイ・マスターの手から放たれた。
正確無比な戦士の一撃が、怨嗟の蒼い焔を巻き上げ、ザカーン自身の影のように迫る。
ザカーンの顔が初めて、そして最期であろう表情で強張った……避けられぬ死を悟った者の無念と恐怖が。
乱数表の数値は「7」。
運命の女神が微笑み、人知すら超えた善と悪の激突に審判を下す。
もはやこの俺が手を汚すまでもない。
ドス黒く濁った真の邪悪に、この俺が触れるまでもない。


邪悪は、邪悪によっても滅びるのだ――


まごうことなくバシュナのナイフ はザカーンの障壁を突き破り、柄の根元まで心臓を貫いた。
衝撃でザカーンの体が僅かに浮き上がる。
握り締める死の球から力が失われ、掌から零れ落ちる。
怒ったような音を立てて死の障壁が閃光を放ち、あちこちに火花を散らして崩れていく。
バラキーシュでの誓いから6年……
狼の復讐の一つが果たされる。
腐り切った権力の夢に酔い、多くの人々の命と、己の人間性の最後の一片までも売り渡した真の邪悪が、ここに最期を迎えたのだ。
死に顔を見るまでもなく、俺は背を向けた。
「永遠の黄昏界(ダジャーン)へ堕ちな、ザカーン・キマー。貴様にはお似合いの地獄だ」
「ローン・ウルフーッッ!!」
断末魔の呪詛は、ザカーンの口から迸った鮮血に塗れてくぐもった。




通過パラグラフ:(258)→210→79→239  治癒術の効果:+3点   現在の体力点:23点
(つづく)