ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ153→→→パラグラフ138:奈落への糸:(死亡・13)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



古代都市ザーリクスを目指して、縄梯子を下っていく。
奈落への下降は遅々として進まず、絶え間ない危険をはらんでいた。
深淵を吹き過ぎる風はどんどん強く、そしてどんどん冷たくなっていく。
縄梯子は煽られてよじれ、降りていくにつれ指の感覚がなくなり、腕力(かいなぢから)が奪われていく。
単調な作業は、しかし唐突に中断された。
前触れもなく突風が吹き、大きく弧を描いて宙に振りだされる。
いきなり体のどこかが衝撃を感じた……闇の中、見えなかった岩の張りだしに叩きつけられたのだ。


 衝撃のあまり、縄梯子を握っていた手が離れてしまう。


「!!!」
瞬時に死の危機が俺を見舞う。
しかも乱数表は恐るべき3択だった。高確率の即死フラグを含んでいるのだ。



「乱数表」を指せ。上級狩猟術かネクサスのいずれかを身につけていれば、その数に3を加えよ。


・0から1なら、195へ。
・2から6なら、332へ。
・7以上なら、81へ。


だが、マグナカイの教えは確実に俺を護り、さらに乱数表は「7」だった。
紫電のごとき素早さで梯子の横棒を握りなおす。
そのまま、ぶつかったばかりの縦抗の張りだしに片足を引っかけ、不安定に回転する体を固定した。
螺旋の力が弱まり、怒った大蛇のように捻じれていた梯子の状態が復元するのを待って、さらに闇を降りていく。
下りながら、るつぼについての説明を思いかえす。
150メートルの縦坑を下った先に地底の遺跡が眠り、目指すタホウのロアストーン もそこにあるのだ。
「!?」
危うく足を踏み外しかけ、すんでのところで停止した。
今度は慎重に足元を探る―― 無い。次の横棒が無くなっていた。
どうやら、縄梯子の終端までたどりついたようだ。
ようやくザーリクスに到着したらしい。
ほっと安堵しつつ、腕の力でさらに縄梯子を降りていった。
最後の一段に掴まり、懸垂のようにだらりとぶら下がる――


接地の感触は足裏に伝わらず、吹き上げる強風が全身を揺さぶっていた。


全身を悪寒が襲い、死に物狂いで縄梯子を這い上がる。
・・・正直に言おう。
強風で煽られて落下するのは、既にこの狼の予測の範囲内だった。
あるいは闇の中で、飛行するタイプのモンスターが襲ってくる可能性もありうると思い、警戒していた。
だが、まさか。
『縄梯子の長さが足りず、遥かに地底まで届かない』などという、悪夢のような展開が待っているとは・・・。
何段降りてきたかも分からず、残り何メートルかも分からない。
狼の五感すら拒む漆黒の闇が、歴戦のカイ・マスターをうろたえさせる。
周囲にも真下にも、足がかり、あるいは手がかりになるものが存在しないのだ。
縄梯子は虚空で途切れていた。
かろうじて左方18メートルほど離れた地点に、張りだした岩棚の輪郭が見えるばかりだ。



・ロープを持っていれば、7へ。
・深さを測るために何かを落としたいのなら、261へ。
・梯子を大きく揺すり、左の岩棚めがけて飛びつくか。38へ。


さらに、選択肢を目にして歯噛みする。、
水の入ったびん にばかり気をとられて忘れていたが、マガーナの部屋にはロープ もあったはずなのだ。
迂闊にもロープ を持ってきていない……縄梯子に結び、さらに下ることもできただろうに。
まずは深さを測ることにする。
飛び降り可能な高さであることを願いながら、ルーン硬貨を一枚、宙にはじいた。


3秒後、澄んだ音が返ってくる。
―― 少なくとも9メートル。
安全に飛び降り可能な高さではない。
足でも挫けば、それだけで死に直面することになりかねない。
残された道は一つだった。
振り子のように、ゆっくり体を揺すり始め、大きく慣性をつけていく。
暗闇のなか、今にも千切れそうなおぞましい軋みをたてて、スイングする縄梯子が速度を上げていく。
狭い岩棚に着地するには、飛びだすタイミングが完璧である必要があった。
岩に叩きつけられ、跳ね返って落ちれば、それこそ一巻の終わりだ。


乱数表は……「8」だった。
どうやら幸運がついているらしい。さらにマグナカイの教えの力が跳躍を滑らかにする。
上級狩猟術で鍛え上げられた敏捷性を発揮し、猫のように音もなく四肢で着地し、衝撃と勢いをたやすく殺す。
掠り傷一つ追わずに身を起こし、カイ・マントの埃を払った。
瓦礫のちらばった岩棚に沿って道を下り、青とも緑ともいえぬ仄かな燐光の輝きを放つ、渦まいた霧の中へ潜っていく。
霧を抜けると、地底の空洞が広がっていた。
ここがザーリクスのどの辺にあたるのかは分からない。
人工物の痕跡は見当たらず、『るつぼ』の地下空間なのかも分からない。ただ前進するのみだ。
空洞はそれほど広くなかった。
壁面にはいくつもの深い溝が刻みこまれ、まるで洞窟全体が、巨大な鉤爪で滑らかな岩から掘りだされたかのようだ。
隅の方に小さなボロ屑が落ちている。
近づいていった俺は、不意に理解した―― これはボロ屑なんかじゃあない。
人間の死体―― 正確にはフリーズドライされたその残骸だ。




・その死体を調べたいなら、186へ。
・死体は無視して、部屋を調べるなら、51へ。


(つづく)