ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

「精神の宝玉」が念バリアを破った

【パラグラフ305→→→パラグラフ153:ザーリクスへ:(死亡・13)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



『るつぼ』への道は閉ざされていなかった……
甦った希望が四肢に満ちわたり、探索への強固な意志を取り戻していく。
まさしく狼の反応が期待通りだったからか、マガーナは冷笑を浴びせ、滔々と語りだした。
「知っているか、北方人よ。ドラゴン・スクエアの『るつぼ』は、古代遺跡へ至る手段の一つに過ぎないのだ」
「しかし、賢者や魔術師連中は『るつぼ』以外の道はないと言っているが?」
「はッ!研究室に篭った学者どもに何が分かる。奴らは自分の足でタホウの地下を調べたか?『るつぼ』を探ったか?」
隣室の財宝に目を向ける。
卑しい欲に駆られての行為だとしても、マガーナは実際に『るつぼ』を調べたのだ。
「……しかし、犠牲も大きかったのだろう」
「ほう?」
マガーナが漆黒の瞳をぎらつかせ、眉を吊りあげる。
「俺の技量を買って、危険な遺跡の探索に向かわせたい……違うか?」
「まさしくその通りだ。儂も手下に命じて何度も探索させたが、喜んで『るつぼ』に下る者はごく僅かで、生存者はさらに少ない」
黙って肩をすくめる。
話の都合が良すぎるから、裏があるのだろうとは思っていたのだ。
実際の生還率は0に近いのだろう。
せいぜい、カザン・オードよりは幾らかマシという程度でないかと見積もる。
「無論、ザーリクスへの道を教える代わり、見返りとして仕事をしてもらう。力を貸せとはそういう意味だ」
「条件次第だな。聞かせてもらおうか」
用心深くマガーナの真意を探る。
こいつが一筋縄ではいかない人間なのは既に分かっていた。
他に手がないとしても、すべて鵜呑みにするわけにはいかない。駆け引きが必要だ。
しかし、話は意外なものだった。
マガーナの息子エイベクが、龍王の財宝の逸話にひかれて三ヶ月前に縦抗に入り、それきり消息を絶ったという。
「条件は一つ。息子の遺体を見つけたなら、その右手の指輪を持ちかえることだ」
「見つけたら……だと?」
「そうだ。それとも、ザーリクスを隅から隅まで探してくれるのかね」
意外と現実主義者のようだ。
悪い提案ではない。マガーナの条件に同意する。
ギルドマスターは再び笑うが、今度は、まるで狂気の縁に立たされた人間のように、異様な強さで瞳が輝いていた。
「儂の期待を裏切らないほうが良いぞ」
あの緑の宝石―― 精神の宝玉―― をかかげ、マガーナは柔らかく言った。
「お前の嘘など、お見通しなのだからな……カイ・マスター」
「この俺に脅しをかけるかよ……面白い」
怒りは当然あったが、しかし、それ以上に奇妙な愉悦が俺を楽しませていた。
ギルドマスター・マガーナ。実に油断ならない男だ。
騙し騙される関係。それも良いだろう。奴と俺、互いの利益と目的は実に明快なのだ。
『敵』であれ『悪』であれ、受けた恩には報いるのが狼の信義だった。
タホウの光を司るアナリウムが潰したロアストーン探索を、影の組織である盗賊ギルドが助けるというわけだ。
マガーナに連れられて幾つもの広間を抜け、一つの部屋に向かう。
部屋に入ったマガーナは、扉の傍らにある水晶の卓に手を触れた。
たちまち、壁の一部が奥へ引っ込み、深淵が姿を現した。
冷たくじめじめした風が吹きこみ、前にも嗅いだことのある執拗な腐敗の臭いを部屋に充満させる。
「必要なものを取っていけ……そして、行け」
風のうなりのなか、かろうじて聞きとれる声でギルドマスターが怒鳴り、ソウを連れて部屋を出た。
部屋の扉に外から錠が降りる。
・・・いよいよか。
この部屋は、ザーリクスに降りていくための部屋らしい。
テーブルが幾つか置かれ、それぞれに装備品が積みあげられている。


食料3食分  ロープ  水の入ったびん  松明  火口箱  毛布
弓  3本の矢  ナイフ  槍


繰り返しネタは飽きたので毛布には眼もくれない。
むしろ、熟練の冒険者の勘が引き寄せられたのは、水の入ったびん だった。
微かな記憶を探る。前に『るつぼ』から降下したときも、この水の入ったびん がチルの倉庫にあったはず。
期せずして同じ品が2度出てきていることに予感を感じ、持って行くことにする。
その他の品物は特に見るべき価値もなさそうだ。
「……行くか」
気合を入れ、壁の出口をのぞきこむ。
ぽっかり広がった黒い奈落をまのあたりにして、鼓動が速まった。
壁も天井も見えぬほどの濃密な闇。
風の音だけが鳴り響く空洞は、果てしなく広がる虚空そのものを覗いているかのようだ。
出口の縁には縄梯子が取りつけられていた。
念のため梯子の長さを図ることにして、ずるずると引き上げてみる。
梯子の横棒は一段につき30センチほどだが、400段引き上げた時点で、まだ梯子は闇に伸びていた。
―― さすがに調査を断念する。
穴の深さを知り、戦慄が体を震わせた。
しかし、考えてみれば当然だ。『るつぼ』からの降下では吊り篭が必要だったほどの地底に降りて行くのだから。
この足下、150メートルの奈落に古代王国シンクスの廃墟が眠るのだ。
俺は、ザーリクスの遺跡をめざし、縄梯子を下りはじめた。



通過パラグラフ:(305)→275→13→181→153  治癒術の効果:+4点   現在の体力点:33点(全快)
(つづく)