ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ1:闇からの跫音:(死亡・12)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



「落ち着いたか、ローン・ウルフ」
「……ああ」
大丈夫だと首を振って頷き、懐かしいバネドンの居室を見渡す。
スカイライダーの船長室は、バサゴニアでの戦いの日々を思い起こさせた。
あの時、俺はまだ未熟なカイ戦士に過ぎず、20歳にさえ達していなかった……
「昔を思い出していただけだ。話を聞こう」
感傷を振り払う。
……いまや、次なる探索の旅は、始まったのだから。


テーブルに着くよう促され、塩漬け牛肉とソマーランドの果物を取り揃えた豪華な食事を口にしながら近況を聞く。
ダークロードとマグナマンド自由国家との争いは、恐るべき事態を迎えつつあった。
「『太陽の時代』に入って以降、最大規模の侵略だ。大君主ナーグの統率力はダークロード全軍の末端まで行き届いている」
「バシュナを滅ぼした、かの戦い以来か」
「事態は最悪だと言っていい。動員された軍事力はカイ虐殺時のそれを上回る」
「それ程とは……」
「噂では、ナーグはダークロードの2柱を斃し、完璧に支配権を握ったという。これ程組織だった全面戦争はその為だ」
バネドンの話に絶句する。
過去にも、ダークランドの支配権を巡り闇の半神たちが争ったことはある。
最強のバシュナが斃れ、龍神ザガーナが滅ぼされ、その度に20柱のダークロード諸侯はヘルジェダドの玉座を争うのだ。
だが……
20柱それぞれが全く異なる存在だと言っても、彼らは同じ暗黒の創造主に仕え運命を同じくする者なのだ。
その同胞を滅ぼしてまで大君主の座を奪ったものなど、いまだかつて存在しない。
……モズゴールのダークロード・ナーグとは、それほど危険な半神なのか。
「敵の侵攻は速やかで、我々はほぼ1日ごとに1つの街か村をダークロードに奪われつつある」
語りながら、揺れるランプの下でバネドンは地図を指差した。
アナーリ共和国の一点、タホウ市の南方にあるナバサリをバネドンが丸く囲む。
「だが同時に、ローン・ウルフ、いまやマグナマンドに知れわたった君の名声がダークロードと戦う者へ勇気を与えているのだ」
「……俺もウルナー王の書状には奮い立ったよ」
「兎も角、タホウ市に向かう前に、敵の罠が無いかどうか確かめねばならない」
アナーリ共和国の評議会に通じた友人らがナバサリには多くいる、そこで侵攻の様子を確かめるのだ、そうバネドンは語った。
ちらりと船窓から夜の大地に目をやる。
今しもズラン山脈を飛び越えてデッシ魔法国を離れ、鈍い振動とともにスカイライダーが夜空を滑っていくところだった。


船内のハンモックで微睡み、翌日にはカクシュ帝国の領土を通過してヤジョー街道からナバサリへと接近していく。
バネドン自らが舵を握り、大きくバンクしてシャー河を見下ろしながら、燦めく星型の建物の屋根へと帆船を横づけする。
スカイライダーから降り立つと、鮮やかな緑と黄色の絹で織りあげられた光り輝く長衣の一団が姿を見せた。
歓待に現れたバネドンの友人たちだ。
彼らの多くはナバサリの高官たちで、アナーリを取り巻く極めて深刻な戦況をつぶさに語ってくれた。
―― この国は、ダークロードとバサゴニア軍から同時に侵攻を受けているのだ。
最初に北部の都市レサがジャークの軍勢によって壊滅させられた。
二日後には北東の町ジーラがバサゴニア軍によって蹂躙され、アナーリ街道を避難する人々は虐殺と略奪の渦に飲まれた。
更に3日後にはタホウの西に隣接するスロビアの国境都市、ロブカがダークロード・ナーグの軍に包囲された。
チューダス河を巡るこの攻防は真夜中を待たずに終わり、夜明けには焦土と堆い骨の山が残されるばかりだった。
いまや、タホウ市目指し、3方面から大軍が侵攻しつつあるのだ。
「何故……」
思わず疑問が零れる。
確かにアナーリは戦略上重要な国家の一つだろう。
だが、共闘するバサゴニア軍とダークロードが同時に攻め込むほどの拠点なのだろうか。
ナーグ軍と合流せずとも、バサゴニア軍は十分な脅威になりうるというのに。
より敵対的なデッシやソマーランドに軍事力を割かず、ロアストーンの眠るタホウへ全面的に進軍してくる……
ダナーグでの唐突なオジア軍の侵攻と被さり、この事実は俺の胸に重くのし掛かった。
「スカイライダーで向かうのは賢明ではない」
高官の一人は、そう教えてくれた。
スロビアの首都スーエンティナは、クラーンによる空からの攻撃で陥落させられたのだ。
その為、タホウはこれを教訓として対空防備を固めた。
市内の塔という塔に重弓手が詰めているという。
「タホウ市には滅多に飛空挺は訪れないし、スカイライダーが敵と誤認される可能性は高い」
俺とバネドンは長い熟考を重ねた末、空路を断念せざるをえなかった。
スカイライダーはこの地に預け、馬でタホウ市へ向かうのだ。
バネドンは甲板長ノルリムを呼びつけ、重々しく告げた。
「2週間たっても私たちから知らせを受け取らなかった場合、お前はデッシへ帰還するのだ……」


「ローン・ウルフが探索に失敗したという知らせを、古マギたちに伝えるために」


その晩は高官たちの案内で一泊し、明朝、用意されたアナーリ産の白馬に跨って城門を出て行く。
早朝の寒気に、ぞくりと身震いがした。
遂に……
ここから、タホウのロアストーン を巡る冒険が始まるのだ。

(つづく)