ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【永き眠りからの目覚め――狼の胎動:(死亡・12)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



エルジアンの真実の塔は暗く閉ざされていた。
議場に集まった最高評議会の面々も一様に悩ましげに顔を曇らせる。
ダナーグの悪夢から帰還を果たしたものの、今の俺は、ここエルジアンで足止めを食らっている。
理由は幾つかある。
燎原の野火の如く、ダークロードの戦禍は拡大しつつあった。
ヘルジェダドの新たな大君主ナーグは決然として開戦し、電撃的な初期の侵攻で既に複数の国家が蹂躙された。
マグナマンド全土の人類種を敵に回し、遂に巨悪が全てを呑み干さんと牙を剥いたのだ。
多くの国は守勢に立たされ、更にダークロードのお零れを預かろうと、かつての同盟を破る裏切者国家も現れた。
―― その筆頭が、砂漠の帝国バサゴニアだ。
ダークロードの悪は北方の太陽の国ソマーランドを核とするラストランド諸国同盟に抑えつけられてきた。
それがここにきて、ソマーランドは西のダークランドと南のバサゴニアからの侵攻を受けることになったのだ。
ソマーランドの南部であるルアノン地方陥落の知らせは俺を動揺させた。
そもそも……ロアストーンの叡智を身につけたところで、それが何になるというのか。
探索の過程で、長らく胸に封じてきた疑問が再浮上する。
確かにカイ・マスターの叡智はいや増しただろう。
だがそれが何の助けになるというのだ。
戦場を離れ、故国を守る誓いさえも疎かにしてまで、探索を成し遂げたところで何が残るのか。
未だ残る17柱の闇の半神たちを滅ぼす力など、本当に手に入るのか。


「今は待つのだ、ローン・ウルフ……」
その夜もまた、焦燥に駆られ繰り返される俺の疑問に答えられず、最高評議長リモアが苦悩に顔を歪めていた。
第二の師にして、カイ・マスターの良き盟友でもあるリモア卿。
彼も決断を下しかねていた。
デッシ魔法国とソマーランドの間には、侵攻するバサゴニア帝国が立ち塞がる。
故国ソマーランドへ戻るためにエルジアンを発ってしまえば、もはや連絡をとりあう術は無いのだ。
次のロアストーン探索へ向かうべきか――
探索のことを忘れ、ソマーランドの防衛とルアノン奪還に向かうべきか――
沈黙が広がっていく。
……重苦しい議場の停滞を破ったのは、夜の静寂を破る轟音だった。
古マギの賢者たちが一様にざわめきだす。
「何の音だ?」
次第に近づいていく羽虫めいた単調な振動音。
古マギ人やバケロスの使う飛空船の騒音とは違う。
俺は、この振動に聞き覚えがある――
議場を飛び出し、いまや知悉した螺旋階段と回廊を駆け上がっていく。
発着場のある屋上へと飛び出し、息を呑んで振り仰ぐ。
快晴の夜だった。
林立するエルジアンの尖塔群が満天の星を射抜き、淡々と深紅の輝きを放って空を刺す。
そのなかを、星々を遮り、流線型の飛空挺が発着場へ舞い降りてくる……
「バネドン!!」
「6年ぶりの再開だな、ローン・ウルフ!」
轟然たるエンジンの軋みに掻き消されまいと大きな声が降ってきた。
タラップから青い衣を纏う魔術師が身軽に飛び降りる。
忘れる訳もない。
長きに渡る盟友―― カイ大虐殺から10年もの付き合いになる魔術師バネドンが、飛行艇スカイライダーでデッシを訪れたのだ。
「どうしたんだバネドン。ソマーランドは、陥落したルアノンはどうなった」
「積もる話は後で。ローン・ウルフ……いえ、ローン・ウルフ元帥殿、まずはこれを」
「……元帥だと?」
訝しむ俺の前に傅き、一通の書状を差し出す。
蜜蝋の印璽は我が主君、ソマーランドのウルナー王その人のものだ。
興奮の細波を覚えながら封を切り、書状を読む。
ウルナー王自らの命令。
それは、マグナカイの探求を最優先任務とせよ、という命令だった。
ルアノンで重い敗北を喫したにも関わらず、国民の不屈の意志も、軍の士気も損なわれてはいないと言う。
「……カイ修道院復興の希望がある限り、我々は敵に頑強に抵抗し続けるだろう」
書状はそう結ばれていた。
「私とスカイライダーは今や君の指揮下にある。君は王室領の国軍指揮官となったのだ」
「俺が、元帥?国軍指揮官……だと?」
国王から授かった二つの白金の勲章は、カイ・マントと同じ濃緑色をベースに燃え上がる太陽を意匠化したものだった。
カイ・マントの胸に勲章を留める。
ウルナー王の自署による書状と元帥の地位は、思いがけず俺を高揚させた。
一方でバネドンはリモア卿らと話しこんでいた。
同じ魔術の使い手として、バネドンは古マギ人から高い尊敬の念を勝ち得ている。
「ローン・ウルフがタホウに向かう為の準備は整っていますか、リモア卿」
「数人の者を露払いに送り込んだが、万全ではないな」
「では、私が来たことに意味があったようですね。探索には私が付き添います」
トラン魔法使い協会のジャーニーマスターとして、バネドンは2年近くタホウに滞在していたことがあるらしい。
タホウのロアストーン があるとされる『坩堝』についても知識を持っている。
『坩堝』こそはタホウの地底に眠る古代都市への入り口なのだという。
かくて全ては整った。
「出立の準備をするのだ、ローン・ウルフよ」
厳かにリモア卿が告げる。




【アクション・チャート 恐怖のるつぼ】  ローン・ウルフ 13人目(12度死亡)


能 力 値   .


・戦闘力点31(17点+2+2+10)  ・体力点29(22点+4+3

・金貨17+15枚(8巻までの48枚のうち、15枚を革袋に追加、残りはデッシに預ける)


マグナカイの教え(階級:プリンシパリン)   .


・動物コントロール 念波動 ・念波動 ・治癒術 ・上級狩猟術

・方向認知術



習得した伝授のサークル   .


・光のサークル(体力点+3



装備(武器 2つまで)   .


矢筒と矢(矢筒1つに6本まで)   .



・ソマースウォード(戦闘力+10)

・デュアドンの銀の弓(弓の射撃ボーナス+3)



・矢筒:有(1つ)   ・矢:残り6本


特別な品物(12個まで)   .


ナップザック(8個まで)   .



・水晶の星型のペンダント

・銀の兜(戦闘力+2)

・盾(戦闘力+2)

・鎖帷子(体力+4)

・カルトの火の玉

・ダイアモンド

・火種×3





・濃縮アレサー(一時的に戦闘力+4)

・アレサーの実(戦闘力+2)

・ラウンスパーの薬(体力+4)

・食料×1



修道院に置いていくもの   .


・エデの薬草(体力点+10) ・レンダリムの万能薬(体力点+6)×6

・ラウンスパーの薬(体力+3) ・特別なラウンスパーの薬(体力+5)

・アレサーの実(戦闘力+2)×2

・ガロウブラッシュ(眠り薬) ・バシュナのナイフ

・パッド入り鎖帷子(体力+2) ・幅広剣×2

・ダイアモンド  ・ルビーの指輪  ・瑪瑙のメダル(ポケットにしまう)

・力の鍵  ・銀の笛  ・プラチナのお守り

・火種×1  ・通行証  ・灰色の水晶の指輪

・ラウンスパーの薬(体力点+4)

・アレサーの薬(戦闘力点+2)

・オキシデン・チンキ(体力点+2)




準備は速やかに整った。
持っていくべき装備と不要な物を取捨選択し、金貨の枚数を決定して――
今こそ未知の脅威に備え、狼の牙を研ぎ上げる時だ。
我知らず武者震いが込み上げた。
何故だろう。まるで、遥か以前からこの日に備えてきたかのような気がするのだ。



―― 当時、まだマグナカイシリーズの正確な巻数さえ知らず ―― 
―― 店頭に置かれた文庫より一回り大きなサイズと、不吉なまでに多用された黒一色で統一された装丁と ――
―― 燦然と輝く「ゲームブック最優秀賞受賞」の文字に胸を躍らせていたのだ。 ――
―― いつかはこの話の続きが読めるのだと――
―― 大人の事情など知らず、無邪気に、無心に喜びを抱いて待ち続けていた――


気づいた時、俺は真実の寺院の頂、飛空船の発着場に立ち尽くしていた。
諦めて、猶諦めきれず、見果てぬ願いを抱きつづけた夢の続きが。
遙かな未来への途が、今、この手の中にある――
「どうしたんだ?ローン・ウルフ…変な奴だ」
「そうですよ、狼!」
スカイライダーの乗降台に足をかけたバネドンが振り返って笑っている。
甲板の上では人懐こい髭面を歪め、小さな樽のような体躯を揺すって甲板長のノルリムが嬉しそうに笑いかけてくる。
誇らしげな顔でリモア卿が俺の背を押し出す。
砂漠の帝国でともに戦った懐かしい顔ぶれが、早く冒険の旅に行こうとこの俺を誘う。
だというのに……
一体どうしたというのか。
気づけば、その顔がやけに滲んで見えるのだから。


……まるで、20年もの間、この再開を待ち焦がれていたような気がする・・・・・・


不覚にも焦点を失った眦をカイ・マントでぐいと拭う。
真っ直ぐにに顔を上げ、優美な帆船のクルーたちに向かって犬歯を剥いて嗤う。
「ようこそ、狼元帥殿。またスカイライダーに貴方をお迎えできて光栄です」
「20年ぶりの再会だな、ノルリム」
「おやご冗談を。バサゴニアでの冒険はほんの6年前ですよ、狼」
タラップが外され、最高評議会の面々がこちらを見上げている。
「コー・スカーン、イシールとカイの神々が暗黒の世界へ旅だつ貴方を守ってくれますように」
「ああ。探索を成し遂げ、必ずやカイを復興させよう」
俺が誓約を新たなものにすると爽やかな一陣の風が吹き渡り、無数の篝火が眩い黄金の輝きで発着場を染めあげた。
もはや迷いはない。
スカイライダーがデッシの夜空へ高々と翼を広げ、飛翔していく。
凍りついていた俺たちの未来を――最後のカイ戦士の物語を――今こそ完結させるために。
遂に、真の探索が始まりを告げるのだ――




(つづく)