ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

バレッタまでは2日の道のりだ

【パラグラフ319→→→パラグラフ134:バレッタ丘陵を越えて:(死亡・7)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



鶏の声が黎明を告げ、目覚めた俺が窓から見下ろすと、シリルスは既に旅支度を済ませて中庭で待っていた。
やはり老人の朝は早いと見える。
「いい天気です」
早速カイ・マントを纏い下りていくと、上機嫌なシリルスは細い樫の杖で空を指した。
「夜までにはハーフウェイ旅館に着けるでしょう」


俺とシリルスを背に乗せた駿馬はクォーレン市内の細い通りを西へひた走る。
城市を抜けると後はどこまでもなだらかな丘陵地帯―― 肥沃なバレッタ丘陵だ。
老人の重みを感じつつ、俺は昨夜の会話を思いだす。
「……ロアストーン の在処をお教えすることはできませんが、それが出来る人物を知っています」
シリルスの言葉に、カイ・マスターの本能が真実を嗅ぎ取る。
只の伝説だと口を濁したバレッタのロアストーンが実在し、しかも、それは軽々しく口に出来ないものらしい。
その曰くを知り、ロアストーン を手にするためには、シリルスとともにバレッタへ向かう他ないのだ……


午前中、葉も黄色く色づいた樹木の覆う丘陵地帯をどこまでも走り続けた。
丘の頂上では霧がでているが、ときどき霧のあいだから陽射しが零れ、緑の沃野を照らしだす。
道すがら、シリルスはこの地域の伝説・歴史について語り、時間は瞬く間に過ぎていく。
ストーン河に面する肥沃な国々は戦乱で荒らされ、征服の野心を抱く各国の公子に分割占領された波乱万丈の歴史を持っていた。
リリスはマガドールと戦争を行い、デルデンはサロニーと、そしてサロニーはスロビアと……
戦禍が絶えることはなく、人々は死に、国土は冷酷に分断された。
終わることなき石匠たちの戦争は、いつかストーンランド諸国を、傭兵と屍肉漁りの鴉ばかりが潤う地に変えてしまったのだ。
この豊かな景色からは思いもよらぬ血塗られた戦史。
それがストーンランド諸国の歩んだ道程だった。


午後も半ばとなり、前方に小さな村が見えてきた。
道端に馬車が止められて人々が集まり、村全体に祝祭めいた華やかな空気が満ちている。
通り過ぎようとしたとき、馬車の1つに張られた貼り紙に目が行った。



弓技大会
参加費―― 金貨2枚
一等商品―― デュアドンの銀の弓


賞品には惹かれたが、いかんせん今の俺は上級武術を選んでいない上、弓自体持っていない。
名残惜しく思いつつ、大会は諦め、さらに馬首を進めていく。
さらに1キロほど進んでいくと、一部が崩れ落ち廃墟となった城のある谷へ下りていく急な小道が見えてきた。
「タウナー城です」
目の上に手を翳して谷間を見やり、シリルスが答える。
「あそこは巡礼の地になっています。あそこから湧き出すタウナー水 には大変な効能があるのです」
袋からガラスびんを取りだし、シリルスが問いかけてくる。
「行かれてはどうですか。タウナー水 は貴方のような戦士にとって役立つことでしょう」
ガラス瓶を受け取りはしたが、暫し考える。
治癒術が働いているから、それ程必要に迫られている訳でもないのだ。
そもそも、作者様がただで薬をくれるとも思えない。
ジョーンズ教授向けの罠とかで死なされても困るし。
取り敢えず麗しの古都バレッタに到着してしまいたいのが本音だ。
「……まあ、先を急ぐとしよう」
「そうですか」
シリルスはあっさり折れ、俺たちはじきにタウナー谷を越えた。


軽快な蹄の音と頬をくすぐる風。
バレッタ丘陵の旅は何とも長閑な光景ではある。
もっとも、昨夜が殺伐すぎたのだが。
街道は樹木の茂る丘を曲がりくねって登りだし、次には南へ向かってクォール河へと注ぐ鮭の棲む急流が流れる谷へ下っていった。
シリルスは転た寝と鼻歌を交互に繰り返しているようだ。
街道沿いには香わしい花が咲き乱れ、絶えず聞こえる鳥の歌声。
さながら夢の景色だ――
リリスにも死と無縁なところがまだあるのだと実感しますね」
「……まったくだな」
シリルスは取りだした長い陶器のパイプを燻らせ、目を細めた。
「ああ、今やこんな平和は珍しいものになってしまいました」


丘の頂上へ辿り着き、シダや蔓草のまとわりつく森の中の修道院跡を横目に通り過ぎる。
やがて、街道は石の橋の入口を半円状に取り囲む丸太小屋の集落へと再び下りはじめた。
関所があり、左右に頑丈な塔が聳えて周囲を睥睨している。
「デンカ料金所です」
シリルスはなぜかくすくす笑ったが、その理由はすぐに判明した。
「門番があなたの兄弟でもない限り、通行には金貨3枚 が必要になります―― 実は、番人である弟のエズモントと再会するのは一ヶ月ぶりなのです」
―― 成る程、『兄弟でもない限り』、か」
「今日に限っては通行料は金貨ではなく、クォーレンの最新ニュースになるでしょう」
集落に入ったところでシリルスは小屋の1つ2つを指さし、それぞれパン屋と酒場だと説明した。
「酒、パンともにリリスでは最高のものです。私の名を言えば、貴方はまるで王侯のようにもてなして貰えます」


長旅のあとで腹も空き喉も渇いているので、無料の飲食物に心惹かれた。
 酒場へ入るか、185へ。
 パン屋へ入るか、287へ。
 シリルスとともにデンカ料金所へ向かうか。89へ。





狼の脳裏に警報が鳴り響いたのは、このときだった。



通過パラグラフ:(319)→5→210→134  回復術の効果:+3点   現在の体力点:11点
(つづく)