ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

デスマスクを割られ落ちていく

【パラグラフ313→→→パラグラフ343:大いなる翼:(死亡・5)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



今しも翼を広げ、深紅に染まった空から将校の乗ったイチカーが舞い降りてくる。
奴隷がロープを投げてイチカーを繋留し、甲高い鳴き声を上げ、翼を羽ばたかせて巨鳥が巣に戻っていく。
好機だった。
あとに残された見張り1人を始末できれば自由の翼が手に入るのだ。



・吹き矢筒と眠り矢をもっていれば、325へ。
・吹き矢筒と眠り矢をもっていなければ、282へ。


実に間が悪い。
前の冒険では入手していた矢筒がこんなところで役立ったのか。あとは近づくしかない。
小塔から小塔へ飛び移り、身を隠して進む。
宮殿と乗降台を結ぶ板まであと30メートルというところで、遮蔽物が途切れた。
見張りの気を逸らそうとカイの念力移動を使い、腰の革袋に意識を集中させる。
革袋は落下し、中身の金貨が弾けた。
床板に散らばり、遙か地上にも金貨が撒き散らされる。
絶望の叫びをあげた見張りは残った金貨を拾いだした。
速やか板を渡った俺は、せめての慈悲に苦痛の無い一撃で見張りをダジャーン――バサゴニア人の死後の世界へと送った。
亡骸から金貨8枚 真鍮の笛を入手する。
背後でドラッカーの怒号が上がった。
無数の足音が入り乱れ、俺は巨大な黒鳥の巣へと駆け込んでいく。



鞍頭に手を掛けた瞬間、刃の鋭さを備えた鉤爪の一閃が疾った。



狼の身体能力でイチカーの攻撃を辛うじてかわす。
続けて鋭く曲がった嘴が、橙色の太陽を捉えつつ頭上10センチ足らずを薙ぎ払った。
剃刀のような鉤爪、大剣のごとき嘴。
本来イチカーは野蛮で悪意に満ちた生物なのだ。
そのとき、瑪瑙のメダル が光りだす。
ルアノンで斃したバラカの私兵団の隊長がこのメダルを身につけ、イチカーを操っていたことを思いだした。
瑪瑙のメダル にはイチカーの気性を抑える力があるのだ。
「お前に危害を加える心算は無い。力を貸してほしい」
カイの動物語で意志を伝えると、冷酷な巨鳥の目の奥で、何らかの変化が生じた。
を信頼して鞍に手をかける。
今度は抵抗しないイチカーの鞍に跨り、軽々と飛び乗って手綱を引く。
ドラッカーの一隊が乗降台に雪崩れ込んできたとき、翼を広げたイチカーが舞い上がった。
……それは残酷がゆえに優美なる飛翔だった。
翼の一振りで塵芥のように吹っ飛んだドラッカーが櫓からほぼ一掃される。
虚空に谺する絶叫と悲鳴。
残った襲撃者の1人はデスマスクを鉤爪で両断され、衝撃で折れた首を振り子のように揺らしながら虚空へと放り出された。
速度が上がり、顔を叩く風圧にようやく慣れた時、帝宮の黄金のドーム群が、ビーズのように小さくなっていった。
下界は黄昏の陽に覆われ、黄金と深紅の残照がダハール山脈に沈もうとしている。
遂に……
遂に帝都バラキーシュを脱出したのだ。

(つづく)