ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ51→→→パラグラフ96:バガ・ダルーズ:(死亡・5)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



筋斗を切って飛び退り、片手で格子戸を跳ね上げた。
深呼吸一つで躊躇わず飛び降りる。
滑りやすい壁の梯子に手を掛け落下の勢いを殺し、敏捷に着水する。
腐臭が濃密になっていく――
腰まで汚水に浸かったとき、不安が現実になったことを知った。
バラキーシュに至るまでのガレー船に、年老いた船乗りがいた。
全身から曰く言い難い悪臭を漂わせた老船乗りは、仲間から『悪臭』という捻りの無い渾名を奉られていた。
その昔、無実の罪で捕らえられた彼は、実に一年もの間、帝都バラキーシュの下水道『バガ・ダルーズ』に監禁されていたのだ。
帝都バラキーシュの地下を縦横に張り巡らされた下水道。
その巨大な迷水路には、帝都のあらゆる汚濁が流れ込んでくる。



俺の立ち尽くすこの場所こそ……『バガ・ダルーズ』だった。



突然木の裂ける音がし、叩き破られた格子戸が肩に落ちてきた。
この不運で体力点を1点失う……軽い打ち身程度の怪我だ。
ここは3つの下水道の合流点だった。
マオウクの手下が梯子を下りきる前に逃げねばならない。
カイの追跡術のおかげで、それぞれが北・南・西へ延びていることが分かった。
汚水と塵芥は下流である北へ向かい、最終的には海岸に流れ出て、付近の漁村の生活環境を不快なものにしている。
逆に南は都市の中央部に遡る。
無数の迷路のどこかに出口も見つかることだろう。
西へ向かう正面の道は、最も汚れが少なく、臭いもあまりしない。
『悪臭』が語ってくれた話を思いだす。
帝都バラキーシュへはグランド・マダニと呼ばれる全長60キロにわたる水脈が、ダー河から新鮮な水を運んでいる。
その結果、帝都の住民はバサゴニアの他の都市の住人が決して得られない潤沢な水の恩恵に与っているのだった。
西の下水道はその水源へ向かっている。
まさしくアンダーグラウンドの追跡劇と言う訳だ。
同じ悪臭に苦しむだろうマオウクを想像して心を慰めつつ、俺は南へ向かった。
都市の中心に向かい、この5巻でしか入手できない貴重なエデの薬草 を手に入れること。
当初からの目的を胸に秘め、汚水を掻き分けて歩き出す。

(つづく)