ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

エリクス

【パラグラフ118→→→パラグラフ346:エリクス:(死亡・4)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



予想通り鉄の扉には鍵がかかっていた。
取っ手の脇には何故か
それも武器ではなく、一般アイテム扱いだ。深く考えない方向でストックする。
さて、お待ちかねの略奪タイムだが……。
わざわざ見張りをたて、鉄の鍵 をかけてまで隠しておいた扉の中身は何かな?
何かな?
鍵をまわし、胸高鳴らせて鉄扉を押し開ける。
……再び、蒸気のような音が甲高く響いた。



真っ暗な室内から飛び出した何かが俺を押し倒す。
辛うじて牙をかわす俺の横で、さらに何頭もの獣が隊員に襲いかかっていく。
剃刀のごとき牙の間から生臭い息を吐き出しつつ、緑色の瞳が爛々と輝く。
先程の鞭の音、罵声、蒸気のような音 ―― こいつの唸り声―― 今やすべての疑問が氷解した。
ここは宝物庫でも武器庫でも無い。
獣の檻だ。
バサゴニアの砂漠に棲む大山猫―― エリクスを解き放ってしまったのだ!!!



エリクス 戦闘力点17 体力点30


恐らく幾日も餌を与えられていないのだろう。
痩せ衰え、肉の削げ落ちた体軀は膿疱や疥癬に覆われている。
口から濁った泡を吹きながら俺を睨め付ける大山猫の瞳は、獣らしからぬ狂気に溢れていた。
こちらの体力も20点以下。じき危険水域だ。
だが、こんなときに限って、一つとして有効打が出ない。
背後で戦っている隊員達を振り返る余裕すら無い状況だ。
焦燥に駆られつつ剣を振るう。


肩にのしかかられ、幾度となく鋭い牙が喉笛をかすめ……
ようやく立ち上がったときには、戦闘比+7の有利にも関わらず6点も削られ、 体力は僅か13点
大山猫の死骸を蹴り剥がして起き上がる。
凄まじい戦いの痕跡で、部屋そのものが朱に沈んでいた。
隊員二人が喉を喰い千切られ無惨な死体となっていた。
それどころか捕虜の姿も無い。
ワインの樽をブチ撒けたような血の海が続くばかりだ。


「カッ、カイ戦士!!」
「ローン・ウルフ!!」
ほとんど同時に、副官二人の叫びが錯綜する。
床に押さえつけられたダローがエリクスの脇腹を剣で貫いていた。
そして更にその奥、螺旋階段の辺りで二頭に襲われたナインは脚に喰いつかれ、絶叫しつつも首を切り落とそうと必死で藻掻く。
どちらが先か、迷っている暇はない。
ダローにのし掛かるエリクスの死骸を引き剥がす……副官は息絶えていた。
血に飢えた牙が、既に彼の心臓まで達していたのだ。
絶望の咆哮とともに部屋を駆け抜け、ナインの援護に向かう。
生き残りのエリクスが飛びかかってきたが、いかんせん遅すぎる。
十分に引きつけ、存分に胴を薙いだ。
背骨を両断され、錐揉みして壁に叩きつけられた敵を見もせずに、ナインに走り寄る。
狙いすましたたった二回の攻撃で二頭とも屠殺する。


助け起こしたナインは、意識を失い……そのまま昏倒した。
右脚の膝から下をそっくり持っていかれており、出血多量で治療の手段も無い。
せめてこの気絶は、最期の慈悲と思いたかった。


暗澹たる気持ちで螺旋階段を昇り続け、南へ伸びるトンネルを進む。
(つづく)