ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

ヘルガストは邪悪な杖を掲げた

【パラグラフ277→→→299:絶体×絶命:(死亡・3)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



滝壺を背負ったキャンプ跡は凄惨な虐殺の現場と化した。
黒い杖が掲げられると、渦巻きを象った先端に青白い鬼火がまとわりついた。
杖から撃ち出された邪悪な雷光が提督の盾に当たり、破裂音が渓谷に谺する。
狂乱する馬を抑えこみ、さらに2人の部下が突撃していく。
「容赦するな、道を切り拓くのだ!!」
馬に拍車をくれ、檄を飛ばす総督の前に回り込む。このままでは全滅だ。
「奴らは不死者だ、普通の武器では傷つかない!!」
「なんだと!?」
ライガー提督の顔に衝撃が広がる。その時、再び黒い杖が輝き、爆発が背を襲った。
シダの群生する斜面を転がり落ちる。
立ち上がろうとしたが、衝撃で膝はがくがくと砕け、五感が痺れていた。体中が鈍く重い。
剣戟、絶え間ない爆発、四方から谺するヘルガストの嘲笑……全てが俺を恐怖に絡めとリ、満足に動くこともできない。
俺は甘かった。驕っていた。自分が強いと思っていた。
武器も念撃も効かない相手に囲まれて、未熟な俺ごときに何ができるというのか……
その肩をがっしりと掴まれる。
「何をしている、ローン・ウルフ!あの悪魔から逃げるのだ!」
「しかし、提督……俺は……」
「君の死がダークロードの勝利なのだ、忘れたのか!!奴らを喜ばせたいのか!!」
総督の力強い叱咤で、ようやく足に力が戻ってくる。
見上げると、2人の部下はヘルガストに追い詰められていた。明らかに防戦一方だ。
ヘルガストが彼らを殺すのに夢中になっている間、樹木の茂る丘の中腹を踏みしめ、必死になって逃げていく。
俺が生き延び、ソマースウォード を手にすることこそが勝利……言い訳でも欺瞞でもなく、その目的達成のため、一秒でも長く彼らが生き残ることを願った。


街道を避け、険しく木の生い茂る山腹を6時間休まず走り続ける。
挫けそうになる俺を、何度となくライガー提督が励ましてくれた。
既に若くはなく、騎士の重い鎧を着ているにもかかわらず、彼は弱音一つ吐かなかった。
夜までに王都ハマーダルに続く唯一の西の通廊、ターナリンの入口に辿り着いた。 
黒き月の時代に掘られたとされる山腹のトンネル。
幅も高さも30メートル近くあり、峻厳なハマーダル山脈の尾根の下を65キロにわたって貫き、王都に通じている。
いつもなら交易商たちの荷馬車が行きかい、賑やかしいはずの地下通廊。
だが、なぜか今日に限っては松明が揺らめくばかりで、トンネルの中は足音一つ聞こえない。
沈黙。
顔を見合わせるライガー提督と俺の表情は、同じ結論を物語っていた。
確かにこの6時間、俺たちは超人的な努力で十数キロを走破した。しかし、ヘルガストは最初から待ち伏せしていたのだ。
それがどういうことか。
仮に俺が追っ手だとしても、同じ手を打つ筈なのだ。




―― ヘ ル ガ ス ト は、 既 に ト ン ネ ル の 中 に い る――
(つづく)