ゲームブックのざっぱな歴史

ゲームブックブームが子供たちと書店を席巻したのは、80年代なかばです。
火付け役は社会思想社から出たスティーブ・ジャクソン(英)の『火吹き山の魔法使い』だと言われています。
この作品は緻密なファンタジー設定とゲームシステムの面白さ(戦闘の楽しさ)で、全世界でブームをおこすきっかけとなりました。
日本では、この海外からの流れとファミコンゲームブックの登場がブームに火がつきます。
手軽さと値段の手ごろさ、ゲームを『持ち運べる』楽しさが受け、ゲームブックは当時のガキ・ジャリをメインターゲットに爆発的に流行していきます。
TVゲームのソフトに比べてそれなり気軽に買えたのも良かったんでしょう。
TVゲームに比べれば親の目だって厳しくなかったのではと、この辺は想像にかたくない感じです。
だいたい一冊400円が定番。ちょっと装丁やギミックに凝った本は580円で、それで高っけーとか口走っちまう、そういう微笑ましい時代です。
不況しらずのバブル景気にも乗っかってか、ゲームブックはまたたく間に量産されていきます。



小説とゲーム、どちらの部分がクローズアップされたかといえば当たり前のようにゲーム部分でした。
新しい玩具を手にした時のワクワク感みたいのはたしかにあって、各社とも様々な工夫を凝らしています。
綴じ込みで大きな地図を入れたり、迷路のシーンだけ黒い紙を使ってダンジョンの雰囲気を再現したり、袋とじの中に迷路や謎解きを作ったり、果てはページを水で濡らして浮き上がる地図を読み取らせるなんて仕掛けもありました。*1



この新たな読書形態に注目したのは子供ばかりじゃなく、乱歩賞作家の岡島二人や鳥井加南子、あるいは山口雅也などメジャーな推理作家もゲームブックを書いています。*2他にもアニメの脚本で知られる山口宏など、さまざまな分野からさまざまな人がかかわってきています。
また、この時期、ゲームブックを取り扱う大手の出版、東京創元社によるゲームブックコンテストが行われ、公募作品の中から受賞した作品が発刊されるなど、ゲームブックをブームで終わらせまいとする努力や試みも見られます。
絶頂期にはサラリーマンが立ち寄るJR駅構内の本屋でも売っていたぐらい、ゲームブックは世の中に氾濫していました。



ブームの収束は92年ごろからでした。
なので、ゲームブックブームは期間で言えば7〜8年、かなりのムーブメントだったことが分かります。



収束の理由は判然としません。粗製濫造による質の低下、という主張もあれば、TVゲームの浸透が進んでゲームブック離れが起きた、という主張もあり、ゲームシステムが面倒になりすぎたとか、89年の消費税導入が安価な値段で売っていたゲームブックに打撃を与えたとか、諸説入り乱れた状態です。
はっきりしているのは、この後、ぱったりとゲームブックが途絶えてしまうこと。
待っていた新刊のスパンが長くなり、そのうち刊行予定のリストが減り、そうして、細々続くこともなく、市場そのものが文字通り消滅してしまうのです。
本を売る側にいたわけではないので売れ行きはわかりませんが、最大手の一角だった東京創元社からゲームブック市場から撤退し、FFシリーズ(後述)を翻訳出版していたもう一つの大手、社会思想社が倒産してしまったことを考えれば、やはり売れなくなってきていたのでしょう。
その後も、97年ごろに小学館が『ポケットモンスター』『ラングリッサー』『鉄拳3』などのゲームブックを出し、テレビ朝日から「X−FILE」のゲームブックが98年ごろに出てはいますが、これらはほとんど単発で市場の復活には至りませんでした。



そして現在。
死んだと思われていたゲームブックですが、2001年12月に創土社から鈴木直人氏の新作『チョコレートナイト(ISBN:4789301125)』が発売され、その後、創土社から刊行ペースはゆっくりながら、ふたたび息を吹き返しはじめます。
創土社の担当である酒井氏はゲームブックを読んで育った世代ということで、ゲームブックに対する思いいれの深さが昔のファンを呼び戻しつつあるようです。

*1:水で濡らすのは『魔獣王国の秘剣(ISBN:4576861069)』。「魔法の粉」という煽り文句で、地図上部の粉(印刷されたシミ)濡れた指をつけ、白紙を撫でると迷路地図が浮き上がるという仕掛け。むろん仕掛けは濡れると浮き上がる地図の方にあるんですが、実に秀逸なアイデアでした。

*2:特に岡島二人の『ツァラトゥストラの翼』(ISBN:406184671X)は名作←コメントでご指摘いただき修正しました。『クラインの壷』じゃありませんでしたッ(割腹)