ウェルカム トゥ ファイト・クラブ

諸君 ファイト・クラブへようこそ
ルール第一:“クラブのことは口外するな”
続いてルール第二:“クラブのことは口外するな”


朕(エドワード・ノートン)は保険会社に勤めるヤング・エグゼクティブ。ここ数カ月は不眠症に悩み、さまざまな病気を抱える人々が集まる「支援の会」に通い始め、そこで泣くことに快感を覚えるように。ある時、やはり「支援の会」中毒の女、マーラ(ヘレナ・ボナム・カーター)に出会い、また出張先の飛行機ではBOB(ブラッド・ピット)という男性とも知り合う事になる。そんなある日BOBは、朕に「自分を力いっぱい殴れ」という。さてと、ファイト・クラブごっこの始まりである。





小さな一回分パックの人生旅
砂糖もミルクも一回分。バターも一回分
ままごとのような機内食
一回分のシャンプー液。一回分のうがい液
一回分の石けん
機内で出会う人間は 一回分の友達
離陸から着陸までの時間を共にする


(中略)

B「“非常口の横の乗客は 緊急脱出の際―他の乗客に手を貸す。それが行えぬ乗客は他の席に移るように”…」
朕「責任重大だな」
B「席を代わる?」
朕「人を助けるなんて 自信がない」
B「上空9千メートルで緊急脱出?助かるわけがない」
朕「そうだな」
B「なぜ酸素マスクをつけるか知ってたか?」
朕「呼吸のため?」
B「酸素でハイにするのさ。乗客はパニックで―大きく息をする。酸素の作用でハッピーになり―運命を受け入れる。これ見ろよ。これが時速千キロで海面に不時着する時の表情か?」
朕「面白い解釈だ…それで何を?仕事だよ」
B「仕事を聞き 興味あるふりをしているわけか」(座席の下に置いたあったブリーフケースを取り出す)
朕「朕と同じ型だ」(ブリーフケースを開くと 中にはピンク色の石鹸が入っている)
B「石鹸だ。石鹸の製造と販売。文明度を測る物差し」(名刺を渡す)
朕「(名刺を見ながら)BOB…」
B「ガソリンと冷凍オレンジ・ジュースでナパーム弾を作れる」
朕「知らなかった」
B「家庭にある物で どんな爆弾でも製造できる」
朕「本当に?」
B「その気になりゃね」
朕「BOB “一回分の友達”の中で 君は今までの最高だ」
B「……?」
朕「飛行機では すべてが一回分」
B「そうか。なるほど。頭がいい」
朕「どうも」
B「それで 何か得が?頭のサエだよ」


(中略)


B「誰だ?」
朕「BOB?」
B「だから誰だってんだ?」
朕「飛行機で同じカバンを持ってた男だよ。頭のいい奴だ」
B「お前か」
朕「公衆電話から掛けたが 誰も出なかった」
B「いつも自動コールバック式でね。それで?どうした?」
朕「実はとんだ災難で…」


(中略)


B「世の中には眠っている間に ナニを切られた奴もいる」
朕「そうだな。だが いろいろと迷ったあげく―ソファを買い ソファの問題は一生解決したと思ってた ステレオだって自慢の品だったし 服もパーフェクトな一式を揃えていた」
B「全部パアか?」
朕「全部消えた」
B「仕方ない…“デュヴェ”を知ってるか?」
朕「ふとん?」
B「正確には毛布だ。だが なぜその名を知ってる?生存のための必需品でもないのに 皆が知ってる。それはなぜか?」
朕「…消費文明の世の中だから」
B「そう 我々は消費者だ。ライフ・スタイルに仕える奴隷 殺人 犯罪 貧困 誰も気にしない。それよりアイドル雑誌に―マルチ・チャンネルTV デザイナー下着 インポ薬 ダイエット食品」
朕「ガーデニング
B「何がガーデニングだ!タイタニックと海に沈めばいいんだ ソファなんか忘れちまえ。パーフェクトを目指すことなんかない 頭を切り替えて自然な生き方を。おれにはそう思うがお前には悲劇か」
朕「いいんだ たかが“物”だ」
B「金を掛けた モダン・リビングがパアだ」
朕「幸い保険を掛けてた…何だよ?」
B「お前は“物”に支配されてる」


(中略)


B「ひとつ頼みがある」
朕「いいとも」
B「おれを殴ってくれ」
朕「何?」
B「力一杯おれを殴ってくれ」
朕「君を殴るのか?」
B「頼むから」
朕「なぜだ?」
B「殴り合いの経験を」
朕「でも なぜ?」
B「本当の自分が分かる。男は傷痕がなきゃ。さあ早く殴れ」
朕「君はイカれてる」
B「いいから早く殴れ」
朕「本気なのか?」
B「殴ってくれ。誰も見てないよ」
朕「力一杯殴るのか?」
B「そう」
朕「どこを?顔か?」
B「どこでも…」
朕「こんなのバカげてる…」


(中略)


土曜の夜のなると朕らには―
大勢の同士がいることを発見した
以前は 北欧家具を磨いて―
怒りやストレスを発散させていた
保険金で新しいアパートだって買えただろう
だが すべてが灰になっても 朕は平気だった


男たちの願望を 朕とBOBが実現した
皆が望んでいたことに 発散の場を与えたのだ


勝敗は関係ない
言葉を必要としない世界
恍惚状態で発せられる 声援は意味不明だった
戦っても 何も解決しない
それが悪いか
“自分が救われた”という感覚


聞こえるのは叫び声と はじけるパンチの響き
血を吐く声
生きていることを実感できた
でもそれは実際に ファイトをしてる間だけ
すばらしいファイターが よそではまるで別人
あそこにいる時の 面影はない


人を見る目が変わってきた
“こいつはファイターかどうか”
ジムに通ってるアホども!
広告のモデルが理想の男だと思ってやがる


B「“いつか死ぬ”ってこと恐れずに心に叩き込め」
朕「君のこの痛みが?」
B「すべてを失って 真の自由を得る」


B「気が済んだか?サイコ・ボーイ」
朕「美しいものを壊してやる」


朕「ファイト・クラブは君だけのものじゃない」
B「分かってないな。誰のものでもないんだよ」


B「頭を入れ替えるんだよ。人生 友情 おれとお前 根本から考え直すんだよ」
朕「どういう意味だ?」


朕はずっと眠っていたのか?
BOBは朕の悪夢なのか?


(中略)


B「約束を破ったな 彼女とおれの話を?」
朕「BOB どういうことだ」
B「お前は簡単な約束を破った」
朕「なぜ皆 人違いを? 答えろ!」
B「…掛けろ」
朕「答えろ なぜ人は 朕を君だと?」
B「分かるだろ」
朕「分からない」
B「なぜ 朕とお前を混合するのか」
朕「分からない」
B「考えろ なぜだ」
朕「それは…」
B「言えよ」
朕「朕たちは一人?」
B「その通り」
朕「でも なぜ?」
B「生き方を変えたくても 自分一人じゃ無理 “こうなりたい”と思う理想像がおれ。理想のルックス アレも強い。頭が良く有能で お前と違って自由だ」
朕「まさか…ウソだ」
B「誰だって独り言を言い 自分の理想像を頭に描く お前は勇敢に突っ走った。時々 お前は自分に戻った。時には―傍観者だった。お前は少しずつ人格を変え BOBになった」
朕「…あの家は?」
B「お前の家」
朕「君にも 仕事が…」
B「不眠症のお前が 夜働いた」
朕「…彼女とは?」
B「やったのはお前だ。彼女には同じ」
朕「そんな…」
B「あの女は問題だ。知りすぎてる 計画の邪魔にならないよう 始末しよう」
朕「何だって? 君は正気か?君はイカれてる」
B「イカれてるのはお前だろ。くだらん話はよせ」


(中略)


朕「頼む やめてくれ」
B「おれたち二人で始めたことなんだぞ」
朕「朕は降りる」
B「“朕”って誰だ?お前はもう存在しない」
朕「妄想の声だ」
B「お互いにね」
朕「幻覚なら追い払える」
B「本当か?」
朕「もうお前なんか…」
B「お前がおれを創った。その責任を取ってもらおう」
朕「分かったよ ちゃんと責任は取る だから この計画は中止してくれ」
B「おれがいつドジった?すべておれの力だ おれはやり遂げる。お前は喚いて抵抗するだけ。いずれおれに感謝する」
朕「BOB 今までのことには感謝する。だが やりすぎだ」
B「あのくだらん暮らしに逆戻りしたいのか?イヤだね」
朕「…朕を乗っ取る気か」
B「もう後戻りはできない。爆破まで残り60秒」
朕「落ち着け これは妄想だ。お前は幻だ 銃なんか持ってない。銃は…朕が持ってる?」
B「銃なんか持ってどうする。自分の頭に銃を?」
朕「朕の頭 ?朕たちの頭だ」
B「面白い それで? ブランド・ボーイ。おれとお前だぜ 友達だろ?」
朕「BOB しっかり聞けよ」
B「聞くよ」
朕「朕の目は開いてる」

長い。