ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ
【パラグラフ120→→→パラグラフ350:ボナターの最期:(死亡・15)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。
死刑囚たちの確実な死を確かめ、鮮血に塗れた斧を手にゆらりと立ち上がる。
自然と哄笑が喉を突き、仇敵を追い詰める鬨の声になった。
「ボナタァァァーッッ!!」
「ひっ、ひぃぃ!」
すっかり震え上がった声で、恐怖にうめきながら蜘蛛さながらの這うような足取りで逃げていく。
不意に気がついた。
ボナターはホールの最奥部、影の門へとまっすぐ逃げていく。
裏切りの魔法使いは封印された鉛の箱を抱えこみ、走りながら熱に浮かされた手で錠前をいじりまわしている。
突如として蓋が跳ね返り、中に納まる最後のロアストーン が輝かしく燃えたった。
目も眩む憤怒が、カイ・マスターの脳細胞を沸きたたせた。
この期に及んでなお――
魔法使いボナターは諦めていない。あれだけ大口を叩きながら、狼からロアストーンを奪い、再起を図る心算なのだ。
決して……
絶対に逃すわけにはいかないッッ!!
本能の赴くまま加速。
ビチチッと音を立てて脚の腱が断線していく。構うものか。奴を殺すのが先だ。
痛みなど、奴に虐殺された500人のカイ戦士の無念を思えば、蚊に刺された程にも感じられない。
必殺の意志が、裏切り者を一刀一足の距離まで追い詰める。
「クソ、糞ッ、何故だ、何故だァァ!!何故儂ばかりが狙われねばならんァァ!そ、そうだ!このロアストーンをやろう!じゃから見逃してくれェェ」
「今更命乞いなんぞ誰が聞くものかよ。屑が……死ね」
死刑宣告を吐き捨てるとともに跳躍しようとした刹那、脳裏の警戒信号が瞬き、その場に固着する。
「気がついたようだなァ〜!貴様を全方位から狙っているのは6000億発もの光弾!一歩でも動けば、即座に貴様は消し炭よ〜!」
「なん………だと」
「莫迦めが!この儂が無駄に命乞いの真似などするものかァ〜!貴様が油断しきっている間に、呪詛の詠唱を完成させていたのよォォ〜!」
「部下に戦わせ、俺の戦闘力を分析した結果がこの手か。成程、これなら俺を殺れるかも知れん。いずれにせよ、魔術師らしい卑怯な手を考えたものだ」
「脳味噌筋肉の戦士ずれには理解できまい!幾重にも策を弄し、戦う前より勝つべくして勝つ!それが魔術師の本懐!卑怯は褒め言葉よ!」
「………ボナター」
「どうしたァ〜?儂も無慈悲ではないのだぞ?無様に這いつくばり命乞いをしてみせるがいい。犬死にしたカイ戦士どものようになァァ〜?」
「………………テメーだけは許さねえ。殺す」
「負け犬の遠吠えはいつ聞いても気持ちいいものよのォ〜!さて、楽しかったお喋りも終わりだ!6000億の星々の光に灼き尽くされて死ねェェい!真・魔○光殺砲!!!」
凱歌とばかりに耳障りな金切り声を上げ、ボナターが至近から俺の胸を指差す。
青い炎の指輪が脈動し、世界が蒼穹の一色に塗り潰される―― 。
だが。
ボナターが見落としている事がある。
俺が避けていたのは―― 発射される前からだ。
そして、ボナター本人にも知覚できていないだろうが、術者が発射命令を出し、実際に光弾が発射されるまでには、極僅かなタイムラグがあるのだ。
いかな光速の呪弾とはいえ、肝心のボナターが速度で俺を凌駕しない限り、俺を捕捉するのは不可能に近い。
更にもう一つ、ボナターが忘れている事がある。
俺とて、無駄話の合間に何もしていなかった訳じゃあない。
狩猟者は殺気を操る。
熟練すれば、薄く周囲を覆うように分散させていた殺気を、一点に集束させる、というような芸当も出来るのだ。
例えば、俺の初動の直後に、俺のいた地点に濃密な殺気を集束させる事も。
ひとたび殺気に惑えば、見たいものしか見えなくなるのは、人も獣も変わらない。
結果、ボナターが狙うのは、俺の駆け抜けた背後となるのだ。
とは言え、6000億発の全弾を回避するには、間合いが近すぎた。
とるべき行動、活路はただ一つ。
全ての光弾の着弾予想地点を読み切り、重要臓器と血管に命中する軌道だけを避けるッ!
都合4500億回もの超々高速回避。
常人を超えたカイ・マスターにして、度外れた無茶なのは百も承知。
だが。
ここで背を向けることは、嘲られ、傷つけられた同胞たちの誇りが許さない。
だから。
無理だろうと不可能だろうと。
それでも、やるんだよ!
―― 旋回。
―― 旋回。
―― 旋回。
―― 旋回。
―― 旋回。
消失。
超高速の領域での、文字通り一歩間違えれば死に至る不可視の舞踏。
致命傷にならない攻撃はあえてかわさず、斧を持たないもう一方の腕で正中線を庇いつつ、光の奔流を突破する。
―― 体力点を5点失う。
「ボナタァァァーッッ!!」
咆哮とともに血煙を纏って跳躍、魔術師へ肉薄する。
ここまですべては本文中の記述そのままだ。死刑囚を鏖殺して次のパラグラフに飛んだ瞬間、体力−5のペナルティ。
狼の体力点は残り17点。
しかも、そのまま戦闘突入とは素敵過ぎる仕掛けだ。
……なんという悦び、だろう。
マグマのように熱く、ドス黒く粘りつくような歓喜と殺意が込み上げてくる。
久しく忘れていた、狼の本来の姿。
ボナターは俺の気配の変化にまだ気づかない。原形をとどめないまでに引き裂かれたカイ・マントだけを見て驚愕し、次の攻撃呪文を放つ体勢に入る。
ここが勝機だった。
裏切り者ボナター 戦闘力点30 体力点21
この敵には念撃も念波動も通用しない。
戦闘に勝ったら、350へ。
今度こそのラストバトル。そして十分すぎる数値を誇る敵だった。
念波動・念撃いずれも通じない。
これもまた初心者殺し、中級者殺し、地獄の11巻のトリを務めるにふさわしい最強最悪の敵だ。
残された最後のエデンの果実。アレサーの実 に躊躇なくかぶりつく。
彼我の戦闘比を−3から−1に押し上げる。
慎重に狙う初撃。
完璧中の完璧、クリティカルの「0」。
続け様に2撃目を振り下ろす――乱数表の「2」。
そして、万感の思いを込めた、とどめの、一撃。
集中して落とした一撃は乱数表「7」。
そして同時に、老魔術師の呪詛が完成した。
俺の肩口に氷の華が裂き、手から斧が滑り落ちる。
「ギィィアアアァァァヤァァァア!」
惨たらしい絶叫がサンダイ寺院を震わせる。
顔を醜く歪めたボナターの右腕は、肘の真上でブツンと断たれていた。
噴水の勢いで、汚らわしい鈍色の血流がホールを汚す。
「魔力の暴発……だと?」
呆然としつつボナターが激痛に喘ぐ。
「終わりだ。ボナター」
「まだだ!まだ……終わらんぞォォェ!」
ボナターが弾かれたように反応し、ぎらつく眼で俺を睨み据える。
「片腕を失おうと、儂の呪詛はあと108式まであるぞ!対して貴様はどうだ!両腕とも使い物にならんではないか!」
「ああ………もう必要ないんでな」
「つまり………どういうことだってばよ!?」
と言わんばかりの顔をするボナターに淡々と告げる。
「死んだ500人のカイ戦士、その数だけ、お前を分割しておいた。さっきの暴発も、切断された魔術回路から魔力が漏れたせいだろう」
「ウソだ、嘘だ、やめ、ヤメロォォォ!!!」
「信じるか信じないかはお前の自由だが。魔術を使えばそれだけ肉体の崩壊は早くなる」
残された魔術師の左腕が、一瞬だけ淡い燐光を帯びたものの、ずるりと肩の真下から滑り落ちていった。
「ヒィ、ヒハハァァ、ンギィィィ………!」
「どのみちお前の処刑はとっくに終わっているんだぜ……拷問はまだ始まったばかりだがな」
苦痛と絶望に苛まれ、果てしなく煩悶するボナターと相対したまま、俺は呟いた。
数分が数時間にも感じる。
俺自身、苦痛と消耗とで、意識が朦朧としていた。
ボナターが大口をあけて必死に何かを訴えている。
泣いているのだろうか。
懸命に哀願しているのだろうか。
分からない。
耳が遠い、よく、聞こえない。
……それでも。ああ。たった一つだけ、クリアなことがある。
ボナターに届いているのかどうか。罅割れ、自分の声とも思えぬ声で、告げる。
「いつもの台詞で締めるつもりはない。黄昏界に落ちた挙句のザマがこれなんだから」
こ……ロ……セ……だろうか?
殺してくれと、泣いて頼んでいるのだろうか?
「貴様が正気のうちに教えておこう。拷問の正式名称は『微塵斬り』だ。センスには少々欠けるが、な」
「……っっ、ン……ッッ!!」
「3日間、動かないでいられれば、切断面が癒着して生き延びられる。カイ修道院の初歩の修行と同じだ。ただ動かないでいるだけだ……単純な」
単純で下らない復讐、だろう? なぁ?
通過パラグラフ:(84 戦闘)→120(戦闘)→350 治癒術の効果:1点 現在の体力点:11点 |
(つづく)