ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ204: 黄昏界の修羅:(死亡・15)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



苦痛を激怒にすりかえ、混沌の神が迫りくる。
広大なる永劫の黄昏界(ダジャーン、その半分を灰色の腐泥に造り変えた神が――
ねじくれた両の触腕が、今まさに俺を殺さんと振りぬかれる。


カオス・マスター(重傷を負っている)  戦闘力点40  体力点58
この敵に念撃は通用しない(念波動は通用する)


幅広剣の戦力+8を加えて彼我の戦闘差は−5。
念撃(戦力+2)は無効化される。ならば念波動か。あるいは温存してきた薬か。
だが、薬は使えない。使いたくても、ここでは、できない。
探索の開幕前、ダジャーンへの失墜時に囁かれている警告があるからだ。
曰く――

『回避不能な戦闘力40の敵や――
『戦闘力30点超と2連戦とかイベントあるから――

あの警告こそ最大のヒントだった。
つまり、この『40点超の強敵』とのバトル以降に、さらなる死闘が待ち構えている。
この難攻不落とも思える壁を越えたのち……真の敵との最も苦しい2連戦が控えているのだ。
しかもだ。
今巻の翻訳者はBOB御大、俺の10巻クリア時の戦闘力・思考パターンを知悉している。
11巻での戦力増強を踏まえての発言だと、そう考えるべきだ。
となれば、実際には30点程度の惰弱な敵はでてこない。もっと恐るべき敵、戦闘力35点程度を想定する必要がある。
……結論。
この中盤のクライマックスでは、薬を使ってはならない。
無理でも正面からブチあたるのだ。



この推論は正しいようだった。
リプレイ進行を見守る(監視する)その翻訳者が、ニタリと嗤ったからだ。
わざわざクライマックス戦の監視にやってくるとは殊勝な限り。
ならば……


灰色の脳細胞を最大加速させ、カオス・マスターに念波動を叩き込む。
頭の奥が痛む。容赦なく奪われる毎ターン体力ー2と引き換えに、今や彼我の戦闘比−1だ。
不滅の太陽神カイよ照覧あれ。


腐敗と混沌を鏖殺する神殺しの刃を――


汝の忠実なる餓狼を、喉笛喰い裂く牙の斬れ味を―― ッッ!!



戦闘開幕

 ローン・ウルフ 
体力点40

戦闘比−1
(念波動使用)

 カオス・マスター 
体力点58


身を翻し、カオス・マスターの触腕をかいくぐって跳躍する。
十数メートルも伸びた一撃が、背後で轟音を巻き上げた。
墓所の屋根飾りが一瞬で溶解し、原型もとどめず灰色の噴水と化していく。
粘つく腐食液のしたたりに背筋が凍る。
さすが混沌の支配神、接触のみで物質を再構成させるのだ――



   触腕をくぐり、脇腹の同じ箇所を会心の速度で抉りぬく(乱数0)
   飛び散る腐食液をことごとく回避し(乱数8)、
   苦悶によろめいた邪神の心臓をあやまたず貫く(乱数0)。


クリティカルにつぐクリティカル。
3回戦を終えて、しかし神の攻撃に未だ衰えはない。
狼の被ダメージは念波動込みで−9点、カオス・マスターへのダメージは28点。



3回戦経過

 ローン・ウルフ 
体力点40→33点

戦闘比−1
(念波動使用)

 カオスマスター 
体力点58→27点


これでもまだ、やっと体力を半分にそぎ落とした程度ッッ……!
会心の手応えに、むしろ闘志をむきだしにして立て続けに乱数表を滅多刺す。
狼のギアはここから加速する―― ッ!!
連撃は「3」そして「2」!



  よろめいた刹那、触手が綯い合わされた掌底が俺を宙に打ち上げる(乱数3)―― ッ!
  ガハッと空気の塊を吐きだす背中を強打され、鞭の一撃で霊廟の屋根に失墜する(乱数2)


巻き上がる爆煙を圧して、混沌の哄笑がひびきわたった。
……何だこれは。
……何故噛み合わない。戦場が。俺と。
戦闘潮流が、勝機が掌から零れていく。最悪のファンブルの予兆に心が凍え、萎えてしまう。
プレイヤーに世界が牙を剥く、あの、お馴染みの、どうしようもない苛立ちがわきおこる。マズイ状況だ。



5回戦経過

 ローン・ウルフ 
体力点40→20点

戦闘比−1
(念波動使用)

 カオスマスター 
体力点58→20点


瞬時に13点の被ダメージ追加。鮮血が墓所の屋根を染めていく。
一手ミスしただけでこのダメージ。
さすが神。黄昏界を制圧しただけあって脅威的なプレッシャーだ。
まだだ。まだ死ねない。
何より今回の探索においては、死んだところで救いがない。
すべて現状維持のまま、戦闘力点の決めなおしさえ許されず、パラグラフ1からリスタートなのだ。
大きく深呼吸する。
血の塊を吐きだし、地を這う姿勢からダッシュした。
棘めいた不快感をぬぐわねばならない。この狼の、3連撃にて。



突進の直後、これが混沌の罠だったと気づく(乱数1)。
液状化した足下に脚をとられ、転倒した狼が見上げるのは、雪崩を打つ混沌の触腕だ(乱数1)!
針山のとき刺突の豪雨が、ローン・ウルフの全身を串刺しに―― (乱数1)


「秘 奥 義 ・ サ イ コ ロ 交 換!!」


「畜生!」
ほとんど無意識、乱数表を指した直後に叫んでしまい、ほぞを噛む。
舌打ちして隣の監視役をにらみつける。
最近の倣いで、反射的に「サイコロ交換」を使ってしまった。ズル技を変更できない。
「今出た1と、次に出す乱数表の0を交換するッ!」
腹を括って宣告する。
他のズル業との最大の違い……ペナルティがここで発生する。
次に0を出して「サイコロ交換」を完了させるまで、俺はイカサマが使えなくなり……
しかも、この瞬間、最悪の戦局に突入したのだ。



8回戦経過

 ローン・ウルフ 
体力点40→4点

戦闘比−1
(念波動使用)

 カオス・マスター 
体力点58→5点


戦闘結果を見れば一目瞭然。
二度のファンブルにより、ローン・ウルフは10点の被ダメージ。
カオス・マスターへは4点しか攻撃できていない。
最後8ターン目でようやくクリティカルの「0」を出したことになり、11点体力を削って敵体力は残り5点。
念波動3回で6点のダメージを加え、狼は体力点4点の瀬戸際に立たされる――


「いいや、そいつは間違いだ」


「は?」
「7回戦目終了時、狼の体力は6点になっているぜッ!思いだせ、基本ルールを……ッッ!」
「……っ!?」
戦闘表チェックしていたBOBに突っ込まれ、ぞわっと総毛だつ。
忘れていた。
念波動のもう一つの縛りを。
「体力点が6点以下になった場合、念波動は発動できない」のだ。
8ターン目突入時点で狼は体力点6点。
すでに、戦闘比は−1ではなく−5に下がっていた。
よって、戦闘結果も以下が正しい。



8回戦経過

 ローン・ウルフ 
体力点40→6点

戦闘比−5
(念波動使用 不 可 )

 カオスマスター 
体力点58→7点


念波動を使えない分、わずかに体力温存した代わり、以降は戦闘比−5での戦いとなる。
冷や汗が滝となり顎をしたたっていく。
詰み。
ほぼデッドデンド確定だ。
この領域では狼の被ダメージが倍以上に跳ね上がる。
乱数7で、ようやく敵へのダメージ6点。被ダメージ3点という悪夢の領域なのだ。
俺の体力は残り6点。
つまり、7以下を2度出した時点で被ダメージは6点超過、狼は死ぬ。
しかもクリティカルの「0」を出せば、自動的にサイコロを交換されてファンブルになってしまう。
生存率は20%以下。
9巻でドゥームオオカミの群れに襲撃された以来の死の瀬戸際だった。


「余ヲ追イ込ンダこトにハ惜シミナい賛辞ヲ送ロウ。だガ所詮児戯。鼠ノ戯言ニ過ギヌカ」
「言ってろ……堆肥の神が」
呵々大笑するカオスマスターを見上げ、毒づく。
この状況―― 助けに入った狼自身、ローコンと変わらない風前の灯だ。
何かないか。
戦闘を中断して、原書を、ルールを読み漁る。
どこかにないのか。きっかけが。打開策が。ここからの逆転の目が。
過去の経験知を超え、未来への道を切り拓く発想と覚悟が。


―― 見つからなければ、死ぬしかない。


復讐の狼は生き延びられるのか。
果たしてこの難局、生きて、乗り切れるのか…………!?



通過パラグラフ:(204)  治癒術の効果:0点   現在の体力点:6点
(つづく)