ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

カオスマスターが狼を睨む

【パラグラフ40→→→パラグラフ204: VS カオス・マスター:(死亡・15)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



トラコスの闇を切り裂く軌跡を描いて、二条の閃光が錯綜する。
霧の立ち込める廃墟がカイ戦士に味方していた。
『鼠』を潰すのに夢中なカオス・マスターは、一騎打ちとあって油断しきっている。
かまうものか。
カイ・マスターの存在こそがイレギュラー、貴様の命運を穿つ楔だッッ!!
2メートルはあろうかという長尺、アイアンハートの幅広剣 を抜き放ちざま一閃させる。
常人では片手で持つことすら困難。ましてや居合など―― だがカイ戦士の絶技が神速の抜刀を成し遂げた時、その重量ゆえの超加速、砲弾のごとき破壊力はドラゴン殺しに匹敵するッ!
100年の長きを大霊廟に眠っていた刀身に、いまだ褪せぬ『不死殺し』の理力がみなぎっていく。
しかも大剣を振るうは『神殺し』の二つ名を持つカイ・マスター。最後のカイ戦士なのだ。
これで斃せねば、誰が混沌を止められよう―― !!


深々と、刃が、混沌の胎内を抉り穿つ―― ッ!


戦慄はいずれのものか。
カオス・マスターか。狼か。見上げるローコンか。硬直しきったメレドール兵か。
俺ではない。
なぜなら、すでに俺は完璧に予測しているからだ―― 奇襲の一撃が失敗することを。


 すばやく幅広剣を引き戻し、カオスマスターの心臓に狙いをさだめる。しかし
攻撃を繰りだす瞬間、カオスマスターは……(中略)……体をひねる……(中略)
……鋭い刃は敵のわき腹におそるべき深い裂傷を与えるが、心臓狙いの一撃は
はずしてしまう。


「己エェェ、一騎打チト称しテたバカッたカ、たワケガぁぁ!!!」
「お前らの戯れなど知ったことか。大口開けて土埃相手に転げ回っていたくせに、よく囀るデカブツだ」
「何者カ。余ノ名ヲ知り、余ノ神気ヲ浴ビテなゼ平然ト立っテイる!」
最前の一撃がエーテル体にまで傷を与えたのか、カオス・マスターは棍棒を取り落とす。
神殿の柱にも等しい重量が大地を揺るがし、轟音をまきあげる。脇腹を押さえ、神が煩悶する。
致命傷を与えた。にもかかわらず……
俺の額に、脂汗がにじんでいた。
おそらくは神としての権能が、不意打ちからの即死攻撃をかわさせたのだ。
そのことが意味するものはただ一つ――


「最後のカイ・マスター、ローン・ウルフ。覚えておくがいい腐敗の主よ。我が名こそ貴様の天敵――
内心の怖れを包み隠してことさらに嗤ってみせた。
カイ・マントのフードを押し下げ、唇を歪めて犬歯を剥きだしてやる。
―― 神殺しの男の名だ」


―― 避けがたい死を賭した、捨て身の総力戦!!


痛みはすみやかに激怒へと変わり、そして、カオス・マスターは復讐に燃えた
絶叫をあげ、血まみれになった巨大な手で君を圧死させようと迫ってきた。

  カオス・マスター(重傷を追っている)  戦闘力点40  体力点58

 この敵に念撃は通用しない(念波動は通用する)。
 アイアンハートの幅広剣 は魔法の武器であり、この戦いの間中、
君の戦闘力点は8点高くなる。


心胆寒からしめる驚愕の現実がさらけだされる。
おそらくは11巻発売当時、英語圏において、数多のプレイヤーを……
平行世界の狼をただ一砕きで鏖にしたであろう、絶対不可避のイベント戦、腐海の支配者たる混沌神のステータスを。


カオス・マスター(重傷を負っている)  戦闘力点40  体力点58


重症を負って、なお、彼我の戦闘比−13なのだ。
これを絶望と言わずしてなんと呼ぼうか。
この俺がなしとげた、全巻踏破による教えのサークルボーナス(光・火・精神)+装備での戦力アップ……
さらに戦闘比を押し上げる唯一の希望、戦闘力点+8もの破壊力を誇る神殺しの大剣を手にして、なお戦闘比−5
『11巻はバランス崩壊』と囁かれるのもむべなるかな。
この神殺しイベントが、ゲームブック中盤、不可避のルート上にあるのだから。
人が抗いうるレベルでは最早ない。勝機の片鱗すらない。正気ではありえない壊滅的な戦力差だ。
しかも、だ。
ここでは一切の手抜かりがない。10巻のデーモンロード戦のような、『体力点○○点以下で勝利扱い』の表記もない。
この俺の狼なら即死こそナイが、しかし途方もなく条件は不利だ。
戦闘比−5のレベルでは、無条件のクリティカル(乱数表0)で、敵には9点のダメージしか与えられない。
つまり豪運に恵まれたとしても最速7ターン、超長期戦を迫られるのだ。
ありえなさすぎる。
なるほど、海外の有志が編纂公開を進めるWEBサイト『PROJECT AON』にて謝罪が表記されるだけはある。
明らかな作者の手落ち。この巻から遊びだす初心者を忘れきった設定だ。
すなわち、それは。
全巻通して冥府魔道を戦い抜いたカイ・マスター、すなわちこの俺への、最大の挑戦にほかならないっ!!
混沌の汚泥にまみれたアイアンハートの幅広剣 を、再び、血振りをかねて大上段に振りかぶり、咆哮する。


ここに死闘が開幕する。


英国在住の作者、全能神ジョー・デバーからの挑戦、しかと受け止めた。
散って逝ったカイ・マスターたちの無念。
20年の時を超えたそのすべて、この俺が晴らしてくれよう―― ッ!!

(つづく)