ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ90→→→パラグラフ261:ベイロンの墓所:(死亡・15)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



足元に転がるカトラス……緋色の戦士の落し物を拾ってみる。
バランスが良い。熟練の鍛冶屋が鍛えた業物だ。
柄はエメラルドで飾られ、美しい曲線を描く刃に、火を噴く竜のモチーフが彫られている。


 その意匠を理解した途端、探索への希望がわきあがった。
 これはセロッカの幻視で見せられたものと同じ意匠―― ハアガダールの石の
城門を飾る紋章なのだ。マグナカイの力を集中させ、この疑惑が確かなことを知る。
戦士はハアガダールから来ており、最後のロアストーンとともに黒き翼で戻る先も、
はるか遠い不毛の都市なのだ。


やはり。カイ・マスターの直感は間違っていなかった。
混沌の半神カオス・マスターのほかに、真の敵は別におり―― 狼の行動を待ち構えているのだ。
その者との激突こそ、ダジャーン最後の決戦となるだろう。
なんとしてもこの窮地を生き延び、混沌たる絶望の大海をかいくぐらねばならぬ。
決意も新たに闇をにらむ。
ナーゴスの森の深部より悪夢から這い出した獣たちが満ちあふれ、現界を侵食しだす。
虚ろな譫言を呟く彼らは、その姿を与えた悪意の化身に従う傀儡にすぎない。
のたうつ異形の輪郭は幾千、幾億、那由他までも膨れ上がり、埋葬地の壁を裂いて雪崩こんでくる。
脱出路を探し霊廟の扉へ駈け戻るが、すでにそこは異界だった。
そこにあるのは、触腕を波うたせる3体の戦慄。
爛れた皮膚に縫いつけられた重装の鎧が、膨張した巨躯が、防波堤への抜け道をはばむ。



  予知または上級狩猟術または方向認知術を身につけていれば、213へ。
  いずれも身につけていなければ、この3匹を攻撃してもよい。298へ。
  あるいは、彼らの捜索を避けてどこかほかの隠れ場所を探すこともできる。55へ。


身につけた複数の教えが天佑を告げた。
ローコン・アイアンハートの大軍勢が、すでにトラコスまで5キロの距離だ。到着までの一時間が狼の生死を分かつ。
素早い一瞥で、嵐をふせぐ砦はこの大霊廟とベイロンの墓所以外にないと知る。
体力の温存を兼ね、追撃をかわして迅速に退いた。
びわれた大地を蹴り、散発的なアグターの斥候を屠りながら無傷で墓所にたどりつく。
二度目となる、盗掘殺しの扉だ。

ベイロンの墓所に刻まれた扉の文様と、右上を埋めるべき選択肢の一覧がこれだ。


さすがに逼迫したこの局面であえて罠を試す気にはならない。
空欄に解呪を描き、扉を押し開く。渾身の力ですぐさま扉を閉ざし、驚くほど近づいていた混沌の絶叫を断ち切った。
墓所の壁に埋設された緑のガラス管が灯り、おどろおどろしい陰影を投げかける。
施錠された門扉から離れ、墓所の心臓部へむかう。
小部屋には、宝玉で鋲をうたれた輝く銀の棺が眠っていた。古の統治者ベイロンの遺体をおさめた棺だ。
アイアンハートの大霊廟と同じつくりの螺旋階段が背後にのびている。



  部屋の中を調べるか。154へ。
  棺を調べるなら、66へ。
  あるいは、屋根の上にのぼり、進軍中の群れを偵察するほうがいいか。27へ。


部屋か、棺か。盗掘師の常として勘をはたらかす。
時間の制約もあるだろう、一度しか選べぬ選択だ。大霊廟では部屋に宝があった。ならば、今度は。
容赦なく銀の蓋をこじあけ、脇に放り出す。
「ほい、ちょっくらご免よ」
棺に手を突っ込み、ルパン3世よろしくベイロン卿の萎びた遺体をひょいと押しのける。
俺がメレドール人だったら、この行為だけで30回は縛り首やも知れぬ。
ま、いっか。俺の先祖じゃねーし。
遺体を包むのは、葬儀用の鎧と、ダイヤなど宝飾用の貴石だ。
色褪せた骨が、黄金の刀身をきらめかせる両手持ちの大剣を握りしめている。すべて儀礼用のレプリカで戦闘には耐ええない。


 蓋を閉じようとしたとき、剣の傍らに別のものがあるのに気づく―― 
 銀のフラスコ だ。

  ワインをいくらか口にしてみるなら、261へ。
  フラスコを元の場所にもどして棺を閉ざすなら、323へ。


「真逆……ッッ!!」
全身を悪寒がかけぬけていく。
いや、これは戦慄か。此処に来てハッパフラグが立つなどとは!?
これは墓荒らしへの罠なのか!
それとも……ッ!?



いいや。思い悩むまでもない。
選択肢が、11巻を重ねた冒険の経験知が、裏の裏まで、すべてを狼に語る。
迷うことなくパラグラフにかけた指を外し、フラスコを引っつかんで喉奥までワインを流しこんだ。
結果やいかに……

(つづく)