ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ200→→→パラグラフ206:緋色の戦士:(死亡・15)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



大霊廟の天蓋を抜ける円形の桔上げ戸から、灰色の光が柱となって頭や肩に打ち寄せる。
カイの感覚は燃えたつよう。
目を閉じていても、今の俺ならばロアストーン の存在を視覚化できるだろう。
屋上へ飛びだした刹那、雷鳴と思えた音の直後に断末魔がこだまする。
声には、聞き覚えがあった。
臓器を抉り出された苦悶の絶叫は、護衛の斥候兵オデルの声だったのだ。
オデルの恐怖と苦痛が鋭敏になった感覚を鷲掴みにし、俺自身の憤怒が力を与える。


 激怒に駆られて穴にとびつき、屋根の上に体を引き上げるが、そこには
ロアストーンだけではなく、予想外の敵が待ち構えている。


それは違う。
たとえ本文にどんな記述があろうが、俺はこの場所に敵がいることを予見していた。
屋根からつきだす大枝に、夜藍色の翼を畳んだ怪鳥が止まっている。
その背中には緋色の鐙。
そして、今しもそこから闘気をまとって降り立つのが、華美を極めた深紅の戦士だった。



その敵は、朱に染め抜かれた戦士だった……


  兜も……
                 

光沢のにじむ銀鎧をおおう、絹のケープも……


                  騎乗する獣の鞍も……


        鋲を打たれた長靴さえも……


   無数の返り血を吸った鞘走る曲刃のカトラスさえも……


すべてが、血の色の赤に塗りこめられている。
表情は見えなかった。両の瞳以外を兜が覆い隠す。
面頬には、宝石が象嵌された炎を吐いて咆哮する竜が意匠されている。
「………………」
巨鳥の鞍から縄梯子をおろし、まるで俺などいないかのように、平然と戦士が降り立った。
着地の衝撃が、絨毯さながら屋根にたれこめた濃い霧をかき乱す。
押しよせた霧が流れさると、まさに戦士の足下に、金色の炎で満たされ白熱する2つの水晶球が転がっていた。
あれこそマグナマンド最後のロアストーン だ……っっ!


 身をかがめた戦士がロアストーン に手を伸ばすのを見て、恐怖のあまり胸がむかむかする。

  弓を持っていて、戦士を攻撃するなら、32へ。
  武器を抜き、敵がロアストーン を奪う前に攻撃をしかけるか。274へ。
  ロアストーン に触るなと命じるなら、136へ。


この刹那より、カイ・マスターの理性はすべて失われた。
尋常ならざる強敵であることは一瞥でわかる。説得や脅迫が通じる相手でないことも。
ならば。
10余年を経て、独力にて練り上げてきたカイ・アーツ。
この特化しきった内なる声の命ずるままに、ただ木っ端微塵に敵を殲滅するまで、誅滅するまでだ。
意識よりなお早く狼の両手がデュアドンの銀の弓 を引き絞る。
外しようもない、ゼロ距離からの乾坤一擲。
だがしかし。



 緋の戦士が手袋をはめた手でロアストーンをつかもうと屈んだとき、
弓を引き絞る。しかし、戦士が重厚な鎧に覆われているため、これほど
至近距離だというのに、鎧を貫通させられると確信できるところが
ほとんどない。


  面頬に向かって矢を放つなら、76へ。
  のどに向かって矢を放つなら、151へ。
  胸に向かって矢を放つなら、333へ。


ならばどこでも同じ。
面頬の先、くりぬかれた右の眼窩。思考と同時に矢を放つ。
戦士が動いたのは殺気と同時だ。
いや、後の先か。リリースの寸前、さっと目深に顔を傾け、補強の入った頭頂部で矢をそらそうとする。
「破ッ!」
呼気があふれ、冷気を裂いて矢が吸いこまれる。この一射、決して外すわけにはいかないッ!



 乱数表を指せ。
 射撃に関するボーナスを持っていれば、すべて加えよ。


  0から4なら、249へ。
  5から8なら、171へ。
  9以上なら、113へ。


成功をイメージ、無心に乱数表を突き刺す。
……結果は「9」。
まさに意をとらえた一射、クリティカルな攻撃だった。
当たるべくして当たった必中の一撃が、目の下3センチの板金をえぐり穿ち、絶叫とともに深傷を負わせる。


だが、緒戦から大きなハンデを負ったにも関わらず不屈の精神ゆえか、敵は意気軒昂だった。
鮮血をまきちらして、己の顔面から矢を捻りとり――
しかし、弓を担いだ俺は既に一撃の圏内にあり、腰だめの斧をふり抜いているッ!
大人が全力疾走で8歩半の距離。
戦闘において超常者たるカイ・マスターの歩法にあっては、膝をつきあわせて正対しているのと変わらない。
常人であれば筋肉と毛細血管が断裂する速度で腕を振り抜き、彼我の間にある空気の壁を切り裂く。
超高速のスイングからインパクトの寸前に極限まで脱力し、斧の重さそのものに委ね、そのまま叩きつけるッ!
攻撃までの即断と攻撃そのものの速度が、戦士を驚愕させる。
戦士は曲刀の下げ紐に結ばれたビロードの袋にロアストーン をすくい入れ、同時に罵りを浴びせながら、かろうじてカトラスの抜刀が間に合った。
必殺の一撃を凌いだものの、緋色の戦士は大霊廟の斜めの天蓋に背中から叩きつけられる。


 おそるべき手練だとわかるが、受けた矢傷によって彼はひどく弱っている。
 攻撃は鈍くふらつき、この優位を存分に生かすことができる。

  緋色の戦士  戦闘力点25  体力点30

  敵の体力点を20点以下に減らすことができたら、ただちに、306へ。
  20点以下にするまえに敵を倒したら(つまり自動的に死亡させたら)、123へ。



(つづく)