ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ185→→→パラグラフ42:古の霊廟:(死亡・15)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。


ダジャーンを巡る探索の旅も、佳境に入りつつあった。
忘却界(リンボ)の底まで続きそうな、暗く怨念の沁みついた古代の大霊廟が視界の全てを塞いでいる。
渦巻く瘴気が墓地の外壁から浸み出している。
積み上げられた石造物がのたくる枝や根にからまり、いたるところで瓦解している。
そして、確かに感じるロアストーン の気配。この見捨てられた地から、カイの叡智の結晶を奪回しなければならない。
決意もあらたに油断なく斧を握り、重心を落として腰だめで前進した。
オデルにつづいて、壮大な霊廟が影を投げかける壁の裂け目から、瓦礫の上によじ登る。
湿っぽい灰色の壁に身を預け、オデルが薄闇に目を凝らした。
「ここがセドロンの納骨堂。あちらが老王カロンの寝所です。そっちはジュイラーの地下聖堂になります」
ブーツから抜いた投げナイフの切先が、霊廟を一つづつ示していく。
「あそこがベイロンの墓所。まあ、こうして実在の霊廟を我々が目にするのも100年ぶりなのですが」
「なんだって?」
「カオス・マスターとその眷属により、我々は100年にわたり遠ざけられていたのです。ローコンは父祖の地を奪回し、栄光を取り戻すと誓っています」
ようやく、この地――メレドール人にとって聖地にあたるだろう埋葬所が荒廃していた理由を知る。
戦略上は重要でもなんでもない霊廟に、彼らが重きを置く訳。
女帝セロッカがローコン・アイアンハートの助力を取りつけたのに、実際には単騎で潜入しなければならない訳。
ひときわ強く、ナイフの先が墓所中心部の広大な建造物を指す。
「ローン・ウルフ。あの大霊廟にこそ、アイアンハート一族の血統が埋葬されているのです」


 無気味な建造物を凝視すると、強烈な感覚が体にショックを与えていく。
 霊廟は堂々たる意匠だが、それでも、恐ろしい壮観は、君を鼓舞する類の
ものではない。衝撃は別の理由からだ。
 アイアンハートの大霊廟のどこかにナイゼーターの最後の2つのロアスト
ーン があると悟り、心が燃えあがる。

  300へ進め。


「オデル。俺はあの墓を調べなきゃいかん。ついてきてくれるか?」
「私は入れません、ローン・ウルフ」
オベルは眉をひそめ、神経質に周囲の霧に視線を投げた。
「私はアイアンハート一族の血統ではない。扉を抜けて進むなら、あなたは一人で行くしかない」
この返答は予測の範囲内だった。
しがらみのない俺と違い、オデルにはメレドール人としての伝統や誇りもあるだろう。
一族の戒律を破らせることはできないと感覚が教えてくれる。
「分かった。だが俺には他に手がない。戻るまでの間、ここで見張っててもらえないか」
「‥‥」
熟考ののち、オデルはしぶしぶと言った表情でうなずいた。
「しかし、捜索はすみやかに。混沌が間近まで迫っています。メレドールの血が、そう感じるのです」
「承知した。互いに、互いの最善を尽くそう。護るべき世界と、同胞のために」
「ええ。ご武運を、ローン・ウルフ」
決意とともに微笑みをかわし、膝まである霧の中をかきわけて突進していく。
すぐに、哨戒にあたるオデルの姿は闇に呑まれた。
大霊廟の青灰色の正面が迫ってくる。
数段のステップを駆け上がり、彫刻を施された、眼前にそびえたつ巨大な扉を見つめる。
施錠された扉には、特殊な仕掛けが施されている――


 入口は重い金属製の錠前で施錠されており、黒く塗りつぶされた
表面は彫りこまれた正方形で4分割されている。3つにはシンボルが
描かれており、1つは空白だ。
 基本的なカイの教えが、このシンボルこそ開錠の暗号だと告げる。
空っぽの正方形の柔らかい表面に、正しいシンボルを書くことで入口
は開くだろう。
 配列を慎重に検討せよ――


まあごくごく当たり前の話だ。
盗掘除けのため、歴代の貴族、王の墓所には、すべて同様の仕掛けがあるのだろう。
アイアンハートの大霊廟もまたしかりだ。
しかし、ただの盗掘除け程度なら―― 本分末尾の、この選択肢は出てこないはずだ。



  方向認知術または予知を身につけていれば、116へ。
  どちらも身につけていなければ、25へ。



予知の力が、カイ・マスターに告げる。





 カイの感覚が、入口を守るのは強力な呪文だと告げる。
もしも間違ったシンボルを空の正方形に刻んだ場合、強烈
な魔力の一撃を喰らうはめとなる――ここでの失敗は、
すみやかな死を招くだろう!




生死を賭けたパズルだ。
正しい配列を完成させなければ、扉を操作する者は死ぬ。カーレの北門も吃驚の殺人アトラクション、という訳だ。
とはいえ……(選択肢は上記の4つの図形参照)
さすがにこれは『ナイ』だろう。間違えようがない。
問題が初歩的すぎるのは、デバー御大の優しさなのだと思う。
一応、本場英国でもっとも売れたゲームブックシリーズな訳だし。
お子さんが遊ぶ想定だって必要だろうし。
ま、ガキが遊んだ場合、そもそも11巻のウルトラ難易度に号泣すること請け合いだが。


機械仕掛けの巨大な扉が、ブーンと振動をたてて開いていく。
悪夢そのものの闇があふれだす。
神経質になりながら、一切の光源がない内部に踏みこみ、進んだ。
カルトの炎の出番だと思うのだが、本分の狼はまっすぐな通路をズンズン進み、もう一つののっぺりした巨大な扉にたどりつく。
今度は自動で扉が開いた。
数十年ぶりに気密が破れたため、奥の空間から吸いだされた湿ったうねりが渦を巻き、侵入者をあおって流れ出ていく。
音もなく松明が灯り、史上はじめて、アイアンハートの聖所内部がAON人の前に姿をあらわした。

(つづく)