ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ192→→→パラグラフ185:斥候兵オデル:(死亡・15)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



ほぼ無音の吹き矢による、直上からの必死の一撃。
致死毒が塗られているであろう吹き矢を回避すべく乱数を振るものの、出た目は2だ。
ローン・ウルフは、死んだ……
普通の、あるいはこの11巻から冒険を始めたカイ戦士なら、死の運命を覆せなかっただろう。
修練を積み重ねサイアン・カイのクラスに到達した、高位のカイ・マスターでなければ。
ここまで追加で覚えたマグナカイの教えの数は「5」。乱数と合計して結果は「7」。
吹き矢の先端が皮膚に触れる瞬間、脱力して首を矢の進行方向に捻り抜く。
カイ・マスターの奥義による回避術だ。
表皮をわずかに傷つけたものの吹き矢は突き刺さることなく首の表面を滑り、地面にめりこむ。
だが、この掠り傷でさえ死を予感させるものだった。



倒れた巨木の陰に伏せるのと同時に吐き気の波が胃をむかつかせる。
喉が苦痛をおぼえるほど締めつけられて呼吸ができなくなり、脈が速くなっていく。
体 力 点 を 4 点 失 う 。


オデルがかたわらで膝をつく。
「なんの……大丈夫だ。ものの数分で治る」
「いいえ。この致死毒は解毒できません。ぬぐわないと」
身を隠すベイロンの大枝、その朽ちた幹の奥へ手を伸ばし、ひとつかみの苔をむしりとる。
「幸運ですね、ローン・ウルフ。ベイロンの大枝のカビ には毒性を中和する特性があります」
「そう、か……なら野郎は、仕掛けどころを間違った……な」
「ええ。ここの地理に不慣れなのでしょう。あとは任せてください」
首の傷を応急処置する。じきに治癒術が自動発動し、身体が恒常性を取り戻していくのを感じた。
オデルの目に仄白い兵士の殺意が灯る。
「あなたはローコンの客人だ。ここは私に任せて」
「ああ」
斥候兵の動作は迅速だった。大木の陰を利して素早く前腕に石弓をセットする。
俺の倒れた角度と動きから、既に敵の位置は割れていた。
反転、直立、同時に発射音。
石弓の無慈悲な音が尾を引き、葉ずれにかき消えた直後、甲高い絶叫がナーゴスの森にこだまする。
腹を射抜かれた暗殺者は樹上から自由落下、頭頂部から鈍い音とともに接地した。
身をかがめ、素早く接敵して生死を確かめる。
「こいつは!ふざけやがって!!」
激怒の罵りが斥候兵の口を突くのを、俺は黙って聞いていた。


 べたつく灰色の泥を塗りこんだ体を唯一覆うのは腰巻のみで、傷口から
噴きだしたドス黒い血で染まっている。鉤爪のついた手にはメレドール人
の大腿骨から粗雑に作りだされた吹き筒を握っている。


それは毒の威力を高める為に、敵の死体から作り出した呪具だ。おそらく矢もそうなのだろう。
「よくも我らが同胞の亡骸を弄び、殺しの道具に使ってくれたな!!」
激昂するオデルは、しかし本分を忘れていなかった。
すぐに冷静さを取り戻し、俺にうながされて、いっそう足を速めていく。
言われるまでもなく、この暗殺劇がローコンの軍を止めるためでないのは明白だった。
単騎で潜入して来うる潜入のプロを……この俺を殺す策なのだ。
カオスマスターに俺の面が割れているとも思わないが、ロアストーン を回収する者がいないよう邪魔をしているのだろう。
既に、数時間が過ぎている。
今朝からの換算で行くと、感覚的には真夜中だ。だが、変わらぬ永遠の薄日が、ナーゴスの森を包んでいる。
時間の流れが違うのか。あるいは天体の運行がないせいか。
このダジャーン界にあっては、そもそも昼夜の区別など曖昧なのかもしれない。
やがて、その光景が、見えてきた。
「ここがトラコス……我らの埋葬地です」
霧の中から廃墟が浮かびあがる。
薄気味の悪い発光源は、周囲に生い茂る菌類から。
まばらであるがゆえに光はかえって圧倒的な闇ばかりを際立たせ、崩れかかったそこここの石組みをさらけだす、いわば幽鬼の洞だ。
精神の力が現実を改変しうる、この異次元の界(プレーン)においては何が起こるかわからない。
悪霊の類がいるならば、マグナマンド世界の比ではないだろう。
けれど、それ以上の強い霊性も、また存在する筈なのだ。
断言できる。
マグナマンドの失われしロアストーン は、いまだ、この霊廟の何処かに眠っている―― ッ!


通過パラグラフ:(192)→146→82→178→185  治癒術の効果:+4点   現在の体力点:40点(全快)
(つづく)