ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ330→→→パラグラフ114:辺境地獄の最前線:(死亡・15)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



肝心なのは、警戒する斥候兵たちを刺激せず、誤射させず、しかし俺の存在を伝える方法。
となれば、最適は1つ……念話だ。
ヨーコールやセロッカと会話した時と同様に精神のチャンネルを開き、字義通りの声なき声をかける。
”メレドールの戦士たちよ、聞こえるか。ローン・ウルフだ。遅くなってすまない”
俺の念話に対し、3人中2人は無反応だった。
精神感応力がないらしい。
だが一人がびくりと身をこわばらせ、首を回して周囲を油断なくうかがいだす。
「姿を見せるんだ!」
いや、大声あげるなっての。
感応力のない他の2人がビビッちゃうだろーが。
”今からゆっくり、茂みから出て行く。緑のカイ・マントが目印だ。間違って攻撃しないでもらいたい”
「ああ。分かったから、ゆっくり出てくるんだ」
両手を開いて高く上げ、茂みの葉を揺らしてのんびりと歩いていく。
反応は劇的だった。
念話に応じた奴以外が、自動人形のように腕を伸ばして反転したのだ。
極限まで引き絞られた矢の先端をのぞきこむハメになる。
「射つな!そのまま待て!」
テレパシー能力を持つ兵士が鋭く仲間に告げ、遮るように割って入った。
……いや、マジで危ねーって。どんだけ警戒してんだよ。
作者が殺す気ならあっけなく即死フラグですよ?
「このお方が客人だ」
「ああ。念話で驚かせてすまなかった……」
「……」
「…………」
「いやその、弓危ないんで、下ろしてもらいたいんだが」
「…………」
「……………………」
「分かった分かった。俺のマントの懐を確認したまえよ。黒曜石の印章 が入っているから」
黒曜石の印章 だと!?」
ああ。その通り。
あんたらが猜疑心いっぱいだって聞いて、セロッカから預かってきたんだよ。
とまでは本文で言ってないぽいけど、とにかく黒曜石の印章 は斥候兵の手に渡った(特別な品物から消去する)。
「間違いない。女帝セロッカの証だ。遅かったなローン・ウルフ。話は聞いている」
「ああ。橋でアグターどもに襲われた」
「……では、トゥク・トゥロンは」
「死んだ。俺をかばって」
淡々と告げる。
表情には出ないものの、メレドールの戦士たちは何がしか心を動かされた様子だった。
「なら足を失ったわけだな。我が馬に相乗りするが良い」
風変わりな毛足の長い乗用馬に近づく。
まあ肉食獣が起源らしかったオニパに比べれば、ずっと馬に近い生き物だ。
鞍の後部座席にまたがり、ようやく息をつく。
なかなかハードな……展開だった。
予言に始まり、いち早くの混沌の強襲、そしてメレドール人との一触即発。
まったくダジャーンは罠だらけであることよ。
厳しいのは戦闘だけじゃあないな。


曲がりくねった丘沿いの道を競走馬の速度で馬が走りだす。
生き物のもつれあった毛皮が快適で、流れる景色がかすむほどの勢いで丘陵を後にしているにもかかわらず乗り難さを感じない。
稜線が茶色や黒にくすんで消えていく。
代わって、巨木の立ち並ぶ堂々たる森林地帯が迫ってきた。
太古の樹林めざし、逆落としのごとく落ち込んでいく狭い小径をたどっていく。
馬での旅はほんの1時間にも満たない感覚だった。
なじみある領域に戻ってきたメレドール人らの足取りがゆるくなり、すぐに開けた野営地にたどりつく。
丸太と土でできた歩塁は堅牢な造りになっており、戦争技術の高さがうかがえる。
何百ものメレドール人の兵士が、壁の内側で野営し、歩哨たちが巡回していた。
誰もが警戒をおこたらず神経質にあらゆる物陰を調べている。
スライド式の、車輪のついた巨大な木材のバリケードが、唯一の入り口を守っている。
入り口を抜けて野営地の中心部で馬を降りた。
彼らに案内されて、いくつも立ち並ぶ丸太小屋の1つに向かう。


どうやらこの次元、ダジャーン界において、まるで幾つもの異なる領域を巡りながら支配者と対面していくのが任務であるかのようだ。
クゼノスでは、「見守り手」ことシナイと。
ヴォザーダでは、「女帝セロッカ」と。
そして、この地メレドールでは、「ローコン・アイアンハート」という訳だ。
鋼鉄の心臓を持つ男。
名前からして生粋の戦士であることが伺える。
俺も同じ戦士なればこそ、共感できる部分も多いだろう。期待しつつ、幕営の紗幕をくぐりぬけた。

(つづく)