ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ289→→→パラグラフ114:メレドールへ:(死亡・15)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



万一に備えて水しぶきをあげた獣の死を見届け、橋の上に這い上がる。
「おォい、橋が直ったぞ!今すぐに――
声をあげかけ、絶句して、続く科白を失う。
橋の下で奮闘していたのはどれ程の時間だっただろう。いや、それでも5分はたっていないはず。
その5分が、致命的な結果を生み出していた。
二輪戦車の周囲の攻防戦は、もはや一方的な虐殺そのものだった。
50を超える混沌の下僕たちに対し、立って生きている猿の戦士らは僅か3人。
トゥク・トゥロン指揮官と、その御者。
そして、もう一人の護衛兵。
その他は全員、死体すらも解体され、その肉片は草原にバラ撒かれていた。
「遅かったのか……」
追い詰められたトゥク・トゥロンと護衛兵たちは、辛うじて隊伍を組んでいる。
殴打されて変形した二輪戦車を盾代わりにうまく並べてバリケードを作り、橋への侵入を防いでいるのだ。
指揮官の剣が軽やかに跳ね上がり、今しも戦車を飛び越えようとした有翼の豚じみた獣を空中で屠殺する。
トゥク・トゥロンの顔がちらりとこちらを向いた。
剣を振りまわして敵を牽制しながら、はっきりとは聞き取れないまま何かを叫ぶ。



  トゥク・トゥロンの叫びに耳を傾けるなら、254へ。
  オーコールと護衛を見捨てて、橋の向こうに逃げるなら、10へ。


「何だ、どうしたら良い、トゥク・トゥロン!?」
唇を吊り上げた猿の指揮官の横顔に、今度こそはっきり死相を見た。
鋭い声で、彼が橋を渡った向こうの丘陵を指し示す。


「急げ!この戦いは負けだ。行ってくれ、お客人……俺たちのために、振りむかず行くんだ!行け!狼!」


逡巡するまでもない。指揮官の判断は真実正しかった。
辛うじて残った2人の護衛兵も、一人は左手のみで戦っており、折れて使い物にならない右手がぶらんと揺れている。
獰猛なる巨馬オニパさえもが息絶え、いまや橋の袂はまさしく修羅場と化していた。
「………………………………」
お互いに、骨の髄まで戦士なればこそ。
あえて言葉は交わさず、トゥク・トゥロンの作った時間を最大限利用して、全力で橋を渡りきった。
背後を見ずに。ただ、無人の橋を走り抜けていく。
最初の丘の頂に達して、ようやく振り返った。
万が一にもトゥク・トゥロンとその部下が勝利していることに一縷の望みをいだいて。

 
 しかし、希望は無残に砕かれる。橋の上で生き残っているのは、 
ごちそうを楽しむアグターの残虐な灰色の群ればかりだ。 
 


アグターどもは兵力、と言うにはあまりにも単純な動物にすぎないらしい。
オニパとオーコールの戦士団を圧殺した後、その死肉を前にして俺の追撃を忘れたようだ。
むしろ……好都合だった。
正直、今更何がしかの感慨がある訳ではない。
俺の行くところ、常に味方が死んでいく。俺を生かし、より多くの生命を救うために。
親交を深めるほどトゥク・トゥロンと長い旅を過ごした訳でさえないのだ。
もとより既に心は死んでいる。
ひたすらに繰り返す死別だけが、カイ・マスターの宿業なのだから。
ほんの少し、目を閉じる。
オーコールの村で盛んにゲップをしていた月並みな指揮官、トゥク・トゥロンの猿顔を思いだしてから。
束の間の気のいい仲間たちの記憶を削ぎ落とし、メレドール目指して再び探索の旅路を歩きはじめた。

(つづく)