ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ182→→→パラグラフ289:アグター:(死亡・15)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



1個師団にも匹敵するアグター―― 半人半獣の混沌の申し子たち―― が二輪戦車に襲いかかる。
狼の体感時間ではコンマ数秒、ゲームブッカーとしては2・3分の逡巡ののち声を張り上げる。
「そこで凌いでくれ!橋を直して突破口を作る!」
「バカな、そんなことが数分で」
「可能だから言っている。ほんの少し凌いでおけ、お前も女帝直下の手練だろーがッ!」
「言ってくれるね、お客人」
交錯する剣戟にまじって、大きく歯を剥きだすトゥク・トゥロンの哄笑が届いた。
もとより多勢に無勢、勝利は絶望的だ。
ならば脱出ルートの確保に専心する。それができるのはカイ・マスターだけだ。
戦闘の……虐殺と抵抗の喧騒すべてを脳裏からしめだす。
血に飢えた咆哮と断末魔の悲鳴を無視して、カイ・マスターの能力すべてを橋の修復にそそぎこむ。
難しくはない。
マグナカイの本質は単なる殺戮の技術ではない。
勝つべくして勝つ為の高度なインサイドワーク、すなわち叩き込まれた戦闘回避の技術が、この刹那での不可能を可能にする。

 
 君は熱に浮かされたような勢いで働き、戦車が無事に橋をわたれる 
よう橋板を敷きなおしていく。 
 ダメージの大半は表面的なものだが、一本だけ、重要な支柱である 
頑丈な梁が、本来の位置から抜き取られている。その梁が外れたまま 
では、青銅でできた二輪戦車の重みに耐えきれない。 
 死に物狂いで元の場所に押し込もうとするが、梁は断固として動か 
ない。 

  ネクサスを身につけていれば、29へ。 
  ネクサスを身につけていなければ、134へ。 
 


教えをチェックするまでもない。
マグナカイの奥義たるネクサス―― 極微細念動力を発動させる。
梁に不可視の網を絡み付かせ、じりじりと正しい位置へ引きずり込む。
あと50センチで……橋桁が強度を取り戻す……ッッ!

 
 しかしぴったりと嵌まりかけたそのとき、君の集中は静かな 
忍び笑いで破られる。 


  予知と上級狩猟術の両方を身につけていれば、92へ。 
  いずれかを身につけていなければ、316へ。 
 


新手の敵が登場したらしい。あるいは、最初からこの場に配置されていた。
蛮勇に挑まず、逃走を選択したときのために、橋のたもとに敵が潜んでいたのだ。

 
 敵対的な生き物が君の背後、橋のすぐ真下に潜んでいると 
感覚が警告する。一瞬でも隙があれば、君の足をつかみ、川に 
引きずり込むつもりでいるのだ。 

  弓を持っていて、使いたければ、296へ。 
  持っていないか使うつもりがなければ、155へ。 
 


愚かなる混沌の下僕よ。思い知るが良い。カイ・マスターの恐ろしさを。
背筋の力のみで橋の下側、梁と梁の間に体を預ける。
依然として意思の力を集中させて外れた梁を押し込みながら、狼の上体は、まったく別のモーションに入っていた。
目を瞑っていても、無意識でもできる動作。
殺意の元を探りつつ、無音でデュアドンの銀の弓 を引き抜く。
矢筒から矢を取り出し番えるまでコンマ1秒。ポインティングまでコンマ2秒。
―― 訂正、敵の殺意を測りながら、コンマ2秒動作を遅らせる。


殺意が膨れ上がった瞬間、最適化された比類のない速度で腰を捩じり、飛びかかってきていた歪んだ鼻面に鏃を押しあてる。
噴き上がった恐怖の叫喚は、一体何を悟ってのものか。
だが既に、遅すぎる。
「獣を模したのは姿だけか?」
鉤爪を振りかざしたまま凍りついた怪物にとっては、最初で最後の不覚だったろう。
背中を向けていた俺が、まさか矢を番えていたとも気がつかず――
「俺を殺したいのなら、殺意を操る術も模しておく事だ」


はるか下の川面から跳躍したアグターはゼロ距離から脳髄を貫かれ、鏃の羽を額から生えさせて落ちていった。
乱数表さえ要求されず、ただ1本の矢で敵を制してのけたのだ。
もっともこの程度の屠殺、カイ・マスターにしてみれば児戯に等しい


ガコンと、足裏が確かな感触を伝えてきた。橋げたは元に戻った。あとはトゥク・トゥロンを呼び戻すだけだ。
素早く欄干からよじ登る。

(つづく)