ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

アグターの群れが迫る

【パラグラフ196→→→パラグラフ182:混沌の申し子たち:(死亡・15)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



迷いなく、トゥク・トゥロンを追って走りだす。
戦車の脇にとどまらない理由はいたってシンプル。本文に何もかも明示されている。
曰く。
『このだだっぴろい、さえぎるものもない平原で』
『大河に向かい下り坂となり』
『川べりに近づくほど、小高く草が生い茂っていて』
まさしく伏兵を伏せておくには、橋の手前の草叢こそが絶好のポイントなのだ。
おそらくは二択の罠なのだろう。
―― 橋のトラップに気づかず戦車ごと転落するならそれもよし。
―― 不審だと気づいて止まれば、一斉にそこを囲んで虐殺するもよし。
だから正解はまっすぐ進行方向へ突き進むこと。
橋板を踏み鳴らして走りだすその時、狼は判断が正しかったことを知った。

 
 風化した橋板を数歩わたりかけたそのとき、ぞっとするような雄叫びが、 
近くの木々からこだまする。 
 


其れは悍ましくも螺旋くれた――
                        奇形の頭部と潰れた喉を持ち――
          人ならざる異形をさらす肉の塊――


爪先で反転し、冷たい畏怖に臓腑を鷲掴みにされる。
まさしく草叢から木陰から雲霞のごとく湧き出てきたモノどもこそ、字義通りの混沌だった。
伏兵―― 捻じ曲がった四肢と歪んだ体躯を震わせる、いびつな融合体の集まり。
絶望を知った者の悲鳴が背後で湧き上がる。
「アグターだッッ!!!まずい、このままでは1分持たずに全滅するぞ―― ッッ」
裏返った金切り声で叫ぶのは、誰あろうトゥク・トゥロン総司令官だ。
目を血走らせ、決死の形相で水晶の剣を抜き放つ。御者もまたそれに倣う。
「何者だ、奴らは!?」
「混沌にのみ忠誠を誓う、恐るべき半不死の下僕どもだ!死を賭して戦うしかないっ!」
戦力差にして10倍近い兵数の差だ。
隙間なく包囲され、脱出路はない。
人と獣と魚を粘泥で混ぜ合わせたような異形の敵が、雪崩をうって攻めてくる。
あるものは膨れ上がった首から上が。
あるモノは奇妙に長い二の腕から手首までの間が。
ある者は、薄膜のかかった右目以外のすべての部分が。
ことごとく人ならざる要素が混成し、まるで酸を浴びたかのように爛乱している。


「加勢してくれ!戦車を死守しなければ。さもないと全滅だ!」
肩越しにトゥク・トゥロンが叫ぶ。
理想的な姿勢で走り抜けた司令官と御者は、先刻までの印象とは違い、腕の立つ兵士そのものだった。
後続の戦車連中とは違い、彼らなら食い止められるのだろうか?
瞬間的に選択肢に目を走らせ、言葉を失う。



  トゥク・トゥロンの後につづき、ともに2輪戦車を守るなら、273へ。
  この場所に残り、橋を修繕しようと決めたなら、176へ。
  オーコールたちを見捨てて橋の向こうへと徒歩で逃げるか。10へ。


3つのうち2つが、戦場に背を向ける選択だ。
そう。
少なくとも今の俺は十全に近い状態。
体力は40点と満タン。戦闘力点も武器を佩いた現時点で27点、念撃含めて29点。
ヘルガスト級の敵と互角とまではいかないにせよ、戦闘力30点程度の敵ならフットワークも軽く立ち回り可能な体調だ。
本来なら、ここは打って出る局面だ。血を好む狼の気性から言っても。
だが、この頼りないオーコールの兵士たちが、どこまで持ち堪えてくれるのかが分からないのだ。
とりあえず「一人で逃げる」は論外。
橋を修繕するべきか。あるいは、トゥク・トゥロンと肩を並べて戦うか。
さあ……どうする?

(つづく)