ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ
【パラグラフ53→→→パラグラフ107:かくて狼は舞い降りた:(死亡・15)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。
「すばらしい!」
サーナック王は目を輝かせた。
「余の軍にも、そなたのような兵士がいてくれることを切に願うぞ」
「恐縮の極み」
サーナック王に促され、二人の王とともに、現状知りうる敵の配置図を頭に叩きこむ。
間もなく、斥候兵の灰色の制服の代わりに、隠密用の黒い服と焼いたコルクが手元に届いた。
顔と手を黒く塗りつぶし、夜陰にまぎれるのだ。
「深入りは禁物だぞ、ロルフ」
「御意」
「セザまでは遮蔽物のない単調な平野だ。慎重にな」
皇子の気遣いに感謝しつつ、宿営地をはずれ、今日一日行軍してきた埃っぽい街道の近くまで兵士に付き添われた。
そう。
明日の会戦を控えたセザ西方の大地は、見晴らしのよい開けた平野なのだ。
しかも今夜は煌々と冴える月夜。
並の斥候兵では敵陣にたどり着くことさえできまい。
護衛の兵士は、合言葉は「幅広剣」だと告げた。 帰還したときは、この合言葉を使わなければならない。さもなければ歩哨が―― 宿営地の周辺部は衛兵に守られている――君を敵の1人だと間違えるかもしれない からだ。
やけに分かりやすい合言葉だ。まあいい。
ドラッカーどもが跋扈する驚天動地の拷問王国へ、ご一名さま、ごあんなぁ〜いってな(山田康雄っ面で)。
ちなみに拷問王国ってのは訳の間違いでも何でもない。
連中に容赦なくこき使われている奴隷は、戦場で死ねる確率が高いだけ幸運なのだ。
身を隠すのは膝丈程度の草のみ。
カイの教えすべてを駆使して気配を殺し、影を隠し、幽鬼のごとくセザを目指す。
セザの町へ入っていく街道と腐臭を放つどぶ川が交わる石橋まで20メートル足らずまで近づいた。
この先はさらに慎重を要する。
というのも、橋にはバリケードが築かれ、ドラッカーの守備隊らしき尖った黒い兜が月光で輝いているからだ。
蛇の身ごなしで進み、すばやくどぶ川の流れる深い溝へと滑りおりて石橋の下に姿を隠す。
片耳を湿った石に押しあて、橋上のジャーク語を盗み聞いた。
相変わらず醜く耳ざわりな言語……だがその声の主に気づいた瞬間、緊張が全身を貫いた。
流暢な声の主は『人間』なのだ。
怪物の共通言語たるジャーク語をこれほど滑らかに話す人間は、ごく少数のエリート階級に限られる。
すなわち、血に飢えた狂戦士として知られる傭兵民族ドラッカーの内でも特に選び抜かれた最精鋭――
死の騎士が、橋の上で歩哨を務めている―― ッッ!
およそ、過去に戦ったドラッカーの騎兵や百人長など比較にもならない。
瘴気に満ちたダークランドで、死に至る試練を乗り越えたわずかの生き残り。
それこそがドラッカーのエリート部隊、死の騎士なのだ。
絶対数の少なさゆえ、噂でしか知りえない彼らが、なぜ、ここにいる―― ?
盛大な水しぶきが、俺の思考をさえぎった。
隠れているアーチのすぐ傍らに、落下した槍が泥濘を貫いて直立している。
なんの因果か―― いや理由ははっきりしている―― このタイミングで死の騎士が手元を狂わせ、槍を落としたのだ。
うなり声で悪態をつきながら、重いブーツの足音が橋を渡り、岸辺を降りてくる。
なんという運命の神の気まぐれか―― !!
太陽の伝授のサークルを修めていれば、13へ。
この伝授のサークルを修めていないなら「乱数表を」指せ。
隠蔽術を身につけていればその数に2を加えよ。
0から6なら、107へ。
7以上なら、338へ。
「……巫山ッ戯んな!」
思わず本に唾飛ばして怒鳴っていた。
よりによって「太陽の伝授のサークル」だと!?
太陽の伝授のサークルには「隠蔽術」の習得が必須だが、このクソの役にも立たない教えを狼が習得することはありえない。
ゆえにこの選択肢は、きわめてリスキーな状況に追い込まれたことを意味している。
ボーナスなしの素で7以上を要求されるとは。
悪魔的天才デバー御大による心温まる歓迎を罵りながら、乱数表に手を伸ばす。
滑らかな動きでペンを閃かせ……
乱数表に突き立ったペンの先、出目の「5」が、嘲笑うかのように俺を迎え入れた。
(つづく)