ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ104→→→パラグラフ116:アモリーの貴族ローク、再び:(死亡・14)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



黒ずむ扉の向こう――
闇に包まれた空漠たるここは、途轍もなく広大で、おぞましいほど邪悪な地下寺院だった。
はるか天までそびえる水晶の柱。
水晶が放つ不気味な緑の燐光のみが、悪の気配に染まりきった空間を照らし出す。
中心部には、彫刻を施された巨大な大理石の祭壇が鎮座する。
祭壇の四囲を囲むのは、美しくも悪意を湛えた玻璃の仮面で素顔を隠し頭巾をかぶる信徒たちの大集団だった。
陰鬱な合唱するの響きが寺院にこもり、輻輳してわんわんとこだまをもたらした。
リーダーらしき人物が一歩進みでて仮面をはずす。
とたん、薄気味悪い詠唱は一段と激しくなり、情熱的に大きく波打っていく。
リーダーの顔を見た刹那、ドス黒い思いがこみあげてくる。
純然たる殺意、だった。
俺が覚えた感情にそれ以外の名称を与えるなら―― そう、歓喜と名づけることもできただろう。


刀傷だらけの悪相。
病的なまでに蒼白な顔色。
傲岸不遜な性情を現す鷲鼻と、すべてを見下す強情な顎。


サロニーの街アモリーの領主ローク。
あの日、俺を待ち伏せし、路傍の石のように良き同行人シリルスを惨殺した……あのロークだった。
奴の手で抹殺された記憶すらある。手配書によって謂れもなく投獄させられ、彼の眼前で縛り首にされた苦い記憶も。
ザカーン・キマーに告ぐ邪悪。この狼が抹殺の誓いをたてた、宿命の敵。
人として最悪の業―― セナー・ドルイドの闇魔法―― に通じる敵なのだ。
最後の邂逅からすでに4年。
とはいえ、ロークはひどく年老いていた。
漆黒の髪も今では灰色のしまが入り、重たい荷を背負うかの如く前屈みに腰を歪める。
しかし……変わらぬものも、また。
ガラス玉のような両の眼。冷たい瞳は、かつて4年前に俺を殺しにきた時と変わらず残酷で無機質だ。
喜悦が心をみたしていく。
そうだ。それで良い。
常に変わらぬ残忍な支配者であれ。
償いを与えうるに充分なほど邪悪であれ。
それでこそ、断罪の刃の重みも増すというものだ。


信徒の詠唱が耐え難いほど醜く高ぶり、ロークの絶叫が闇を穿った
「聞くがよい、苦痛の王よ!」
白髪鬼の如く、力ある呪詛のつむぐたび逆立つ髪がうねり広がる。
「汝の謙虚なる下僕ロークは、この不安定なる混沌の時に汝を召還し助力を乞い願うものなり」
「助力を乞い願うものなり!!」
「わが前に来たれ、そして征服せよ!」
「そして征服せよ!!!」
「わが前に来たりて、我らが敵の魂を堪能したまえ!」
無慈悲な一語一語が寺院のなかに反響し、追随する信徒の詠唱が不気味なシンフォニーを織り成していく。
徐々に、空間が歪んでいくのをカイの感覚で察知した。
中央にある大理石の祭碑から、不可視の力が形あるベクトルとなって強まっていく。
徐々に、忌まわしい幻影が渦を巻く、不自然に霧の輪郭が浮かび上がる。
氷のような寒気が寺院をのみこんだ。
小規模の竜巻のように壁のまわりで霧は渦を巻き、のたうちながらフォルムをしなやかに形成していく。
セナー・ドルイドによる守護神召喚の儀式。
老いたるロークの絶叫は、吠えたける風の中、かろうじて聞き取れた。


「出でよ! 出でよタガジン!」
「永遠なる苦痛の地獄より、汝を呼び出さん!」


  予知を身につけていて、メントーラの階級に達していれば、298へ。
  予知を身につけていないか、メントーラに達していなければ、116へ。


すばやく知識をあさる。予知+メントーラの階級が示すのは「場所にまつわる残留思念の視覚化」。
ここまでの流れで、すでに予感は確信に変わりつつあった。
ロークが過去に行った召還の失敗は、時宜をわきまえなかったためのもの。
しかるべき場所で――
しかるべき手順と生贄を捧げるならば――


「!!!!」
ビリビリと大気を鳴動させ、地下祭壇を飲み込むかのように噴出した濃霧が渦巻く。
誰一人顔を上げられず、ロークを含め信徒がことごとく平伏す中、渦巻く霧は大理石のブロックへ引き寄せられた。


暗くなり、凝集しながら形を変え……
なめらかな乳白色の皮膚をもち、曲刃の大刀にも匹敵する牙持つ巨大なジャッカルの輪郭が生まれていく。
おぞましき生誕と復活の儀式は、唐突に終了した。


実体化したそいつが寺院を睥睨する。
隆々と筋肉のはりつめた体は氷の光沢を放ち、蠢く鼻面からは、ひとすじの黒い煙が渦を巻く。
ロークと支持者たちは全身を投げ出して歓喜にむせんだ。
蛙のように這い蹲り、幾度となく跪拝して、食屍鬼の支配者、山犬の公子をあがめ称えた。
さもあらん。
20メートル離れたこの扉の陰から出さえ、あふれんばかりの不浄な活力と威光が伝わってくるのだ。
生き物は燃えたつ瞳を落とし、侮蔑のまなざしで信者たちに応じる。


「汝、なにゆえこの地に我を呼びだすか?」


しかしロークがもどかしく返答を申し述べるより早く、事態は急展開を迎えた。
いや、むしろ予定調和の如く、急転直下の危地が訪れた。


―― 神の獣の頭部が前触れもなくぐるりと半転し、乳白色に濁る瞳が、俺の潜む扉を瞬時に射抜く。
―― 神の力の前では、カイ・マスターの偽装など無力。


最早ロークの始末など些事にすぎない。


―― 俺は、真なる敵に見初められたのだ。



通過パラグラフ:(104)→263→116  治癒術の効果:+2点   現在の体力点:31点
(つづく)