ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

紙一重でアカタズの牙をかわす

【パラグラフ3→→→パラグラフ340:暁の跳躍:(死亡・14)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



手なずけたクロクマを森に還してから半時もたってはいない。
風上から、熟練の野伏でなければ気づき得ない僅かな匂いが漂ってくる。
その正体を悟った瞬間、戻ってきた恐怖が胃の中に固い結び目を作った。
これは、犬の獣臭―― ッッ!!
何かを考えるより早く、戦士の体が抜群の反応をみせる。


 本能的に地面に伏せると同時にねじれた灰色の残像が弧をえがいて頭上を飛びこえ、
頭から下ばえに激突する。


脳震盪を起こしたアカタズに素早く止めを刺す、
この野犬は単に抜け駆けを試みた最初の一匹にすぎないと本能が警告していた。
下草を蹴って駆けだしつつ、カイ・マスターの気配の網を四囲に張り巡らせ――
森のこの地域、周囲一帯を完全に包囲されている。
クロクマは、アカタズを撃退したときからこの展開を予期していたのだろう。
一度目の襲撃を撃退されて怒りに目が眩み……
それ以上に流しすぎた人間の血と、仲間であるはずの野犬どもの大量の血に食欲を誘われて……
いまや、この一帯のアカタズすべてが、この俺を狙って迫りくるのだ。


 密生した藪と原林をまっすぐ突っ切っていくが、身の毛もよだつアタカズの
咆哮がどんどん大きくなってくる。しだいに松林はまばらとなり、腰の高さまで
絡みあう下生えの茂みを突破すると唐突に森はとぎれ、険しい峡谷の崖っぷちへ
君は飛びだす。


「なっ、何ィィ!」
バネのように足をたわめ、強靭な脚力で踏みとどまる。
ほんの5メートル足らずしかない断崖のへりで横滑りしつつ、反転してかろうじて滑落を免れた。
眩いばかりの曙光に照らされた大峡谷。 
モガドールの森まで一望できる絶景を楽しむ猶予などない。
はるか下を泡立ち渦巻く激流が、絶壁にぶつかりながら蛇行して流れていく。
高さは30メートルもあろうか。途方もない原生林が、まるで忍び返しのように小さな棘となり、対岸に聳え立っている。
うなり声が、危険なほど近くで轟いた。
「来たな石潰し共が」
罵って唾を吐き、踵を反転させて二十もの飢えた戦闘犬と視線をぶつからせる。
じり、じりと迫る野犬たち。
ほんの5メートル四方の舞台。そこが、アカタズ共にとっての処刑場らしい。
いや解体ショーの実演場か。
手傷を負った俺にとどめを刺そうと、野犬がさらに近くまで忍びよってくる。



  立ち止まってアタカズと戦うか。81へ。
  峡谷へ飛びこむことで戦いを避けるつもりなら、340へ。


「ふふん」
見え見えの2択を突きつけられてせせら嗤う。
ぱっと見、選択肢は一つきりに思える。
30メートル近くの飛び降りは、マグナマンド世界では即死に直結しかねない。
ならばまだしも、アカタズの群れと死闘を繰り広げるほうが良い……
逼迫したこの状況は、そう思わせるための展開なのだ。
だが、より深く考れば話は違う様相をおびる。
そもそも、別に戦うなら戦うで不自由もないし、この俺に比肩しうる35点超の戦闘力点をアカタズが持つとは思えないってこと。
むしろここは世界を織り成す創造主の意図を正しく読みきる能力こそが重要だ。
アカタズに勝ったところで報酬はゼロ。そこは間違いない。
運が悪ければ、また小競り合いで小さな傷を増やす可能性もある。


ならば。
冒険者らしく、刹那に身をまかせたっていいじゃない。
いかにも夢・冒険していますと言わんばかりのこの空気感。
野犬に追いつめられ絶体絶命? うむ、なんという素敵アドベンチャーか。
まあ最悪、この崖下へのダイブが巧妙に仕組まれたジョー・デバー御大の罠である危険性は否めない。
次のパラグラフへ進む行き先がありませんでしたアッー!……的な例のアレだ。
だがこの展開、即死はありえないと断言する。
マグナマンドは、自殺に等しい滑稽な即死エンドを用意するような、そんなヤワな世界ではない。
あくまでヒロイックな展開こそローン・ウルフ世界の要諦。
ならば……決断はただ一つ。
気分はジョーンズ博士だった。それかジョン・マクレーン。1作目の。まだフサフサだった頃の。
到底成しえない賭けに身をゆだねるエクストリームな高揚感。
ふるえるぞハート!燃え尽きるほどヒート!刻むぞ血液のビートッ!
ケダモノどもにニヤりと笑いかけ、飢えた牙の群れが突進してきた瞬間、背後の奈落へ身を躍らせる――



通過パラグラフ:(3)→31→340 治癒術の効果:+2点   現在の体力点:34点(全快)
(つづく)