ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ1→→→パラグラフ176:グレイゴール皇子:(死亡・13)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



ダナーグ探索より2度目となるタレストリアの首都ガーセンで船を乗り継ぐ。
戦争の最初期に蹂躙されたのがこの地だった。
ゼグロン将軍が仕掛けた電撃戦で、無数の民がドラッカー諸国の労働力―― 奴隷階級―― となり囚われた。
タレストリア・パルミリオン同盟軍はガーセン北方での決戦にすべてを賭けたが、三日三晩雪崩をうって迫る敵の物量に押され続けた。
だが四日目の朝、思いもよらぬ援軍がゼグロンの命運を絶った。
これまで頑なに孤立を守ってきたボー王国の山の民が、ついに自由国家に与したのだ。
オジアの拠点都市ザナールを陥落させた同盟軍は、ゼグロンの敗残兵を追ってブラックシュラウド街道を追撃中だ。
こうした各地の戦況を調べつつ、エル公国へ向かう。


公都ハムボールドでは、古マギらの根回しにより、街の古びた一角でグレイゴール皇子が俺を待っていた。
皇子もまた素性を隠すため伝令の服を身に着けている。
「ようこそ、ローン・ウルフ。卿のうわさはかねてより耳にしている」
胸の上に斜めに手をあてがった皇子と、エルの礼式にのっとって挨拶を交わした。
考えてみれば、今では俺もソマーランド軍指揮官の一人であり、このように相応の扱いをされてしかるべきなのだ。
「皇子自らの援助、感謝いたします」
「機密と迅速性こそが任務成功の鍵だと古マギたちに釘を刺されていてな」


潜入の計画を練りながら、エルを脅かした戦争について聞く。
2年前、ハマーランドはエル公国を裏切り、ドラッカー軍が北の都市ルオミを制圧した。
住民は虐殺され、神聖なルオミ寺院も略奪されて火にかけられた。
最近になり、この古代寺院にルオミのロアストーン があったことを、皇子は古マギから聞かされたという。
一度は国境の町セザまで退いた皇子だったが、つい先日、レンシアのサーナック王と団結してルオミを奪還した。
ハマーランドのシンザール男爵と配下のドラッカー軍は戦に破れ、50キロ後方のセザまで退いている。
「ルオミまでは私の軍に同行してはどうか」
「感謝します、皇子」
グレイゴール皇子は、新たな変装も用意してくれていた。
『エル公国斥候兵』と知られ、ヘルスワンプに接する過酷な領土で任務をこなす、優秀な国境警備兵の服装だ。
これなら軍に混じり、あるいはエル公国を一人で旅していても怪しまれることはない。
皇子の随員と共にハムボールドを離れ、北へ向かう。
奪還されたばかりのルオミは、戦果に沸く一大野営地と化していた。
あらゆる家、小屋、居酒屋、さらにあらゆる建物までが兵士と武器で満たされ、喧騒が路上にあふれだす。
サーナック王との会談を終えて戻ってきた皇子が、地図を広げて二つの案を示す。



「明朝、私たちの軍は国境の町セザに総攻撃をかける。ここでシンザール男爵を破れば、ブロール川をわたり、モガドールの森から北へ抜けるルートが開かれるだろう」
もう一つは、西のピルシへ向かいセブ・ジャレルという男を捜すこと。
セブ・ジャレルは王室に忠誠篤いレジスタンスのリーダーであり、ハマーランドの侵攻以来、ドラッカーを翻弄しつづけているという。
「彼ならば、地獄のヘルスワンプとゴースト島の境界を抜けて北のトーガールへ至る道を知っているはずだ」
皇子の話を聞いているうち、腑に落ちない疑問がわきあがった。
グレイゴール皇子は一つの可能性を避けている。
最速かつ最短の、もっとも単純なルートを。
「ゴースト島を北へ抜けるのがもっとも早いのではありませんか?」
「……ローン・ウルフ」
おぼろな室内の明かりの中、勇猛で知られる皇子の顔が青ざめるのを、俺は、たしかに見た。
「卿が私の部下ならば、厳命を下してでもゴースト島を迂回させるだろう」


「あれは呪われた島だ。あそこに踏みこんで生きて帰った者は、ただ一人しか存在しない」



「殆どの者が消息を絶ち、かろうじて戻った者もみな気が触れていた。卿の名声を知ってなお勧めることのできないルートだ」
「その一人とは」
もの思わしげにグレイゴール皇子はこちらを見やり、小さく口を吊り上げた。
「その者こそ私が進めるガイド―― セブ・ジャレルだよ」
セザへ向かうかピルシを目指すか。片方は戦争への道であり、片方はダナーグに匹敵する沼沢地への道だ。



ピルシへ向かうか。176へ。
グレイゴール皇子と共にゲザの戦いへ向かうか。308へ。


―― 悩んだ末、ピルシへの道を取る。
このシリーズで鉄火場を無傷で進めるはずがない。
賢明なる読者諸氏はお気づきかと思うが、マグナマンドの創造主であるところの英国人は手加減を知らないドSなのだ。
STGの最終面よろしくボスラッシュになるのは火を見るより明らかだった。


「そうか……卿と肩を並べて戦えないのは残念だが、幸運を祈りたい。この指輪が、卿の身元を保障するだろう」
出立の直前、グレイゴール皇子はさらなる贈り物を俺に授けてくれた。
皇室のしるしが刻まれた印章つき指輪 だ。
エル皇室と直接の結びつきを示す指輪は、レジスタンスに接触する時などに役立つだろう。
埃っぽい道を蹴立てて馬を走らせていく。
探索の旅の始まりだ。

(つづく)