ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

ダークロードの攻城兵器が迫る

【パラグラフ342→→→パラグラフ220:天鵞絨の戦場:(死亡・13)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



燃え上がる建物の正面入り口にたどり着いたとき、既に2階は地獄の業火に飲まれ、崩落寸前だった。
風に煽られて火勢は増すばかりだ。
煤によって顔も制服も完全に黒くした兵士が階段の下で蹌踉めき、俺の腕のなかに崩れる。
「隊長が上に……」
焼けつく熱気を吸いこんでしまい、喉に火傷を負った彼は嗄れた声を出す。
「ちょうど屋根に火がつく直前、兄弟を助けようと登っていって」
「………そうか」
初めて使う教えの向上に幸あれ――
ちょいとばかりクレイジーなパワーを身につけたこの俺のネクサスを喰らうが良いぜッ!


ネクサス―― マグナカイの精神系奥義のひとつ。
野獣を凌駕する身体能力を持つカイ・マスターだが、それだけが俺を超人たらしめている訳ではない。
頭蓋が沸騰するほどの極限までの精神集中が、今しも超常の力の扉をこじ開けようとしていた。
数秒にも満たない、だが永劫にも思える時間が流れ―― いつしか意図せず雄叫びを上げていた。
決して不断ではない意識の流れを束ね、轟々と燃え盛る火勢へと叩き込む。
狼の咆哮が紅蓮の城塞に響き渡った。


 高められたカイの力を、階段の頂上を呑み込む炎に集中させる。
 2・3秒もたたずに炎は弱まり、安全に二階へたどりつくことができた。
 隊長は兄弟の上に覆いかぶさり、雨のように屋根から流れ落ちてくる火のついた破片から
弟を守っていた。
 ただちに彼を足の方へ引っ張り、負傷した弟を家から運びだすのを手伝うよう合図する。


一応それらしく解説すると、マグナカイの奥義であるネクサスの本質はいわゆる念動力だ。
念動力と言えば、岩を動かして敵にぶつけたり、自分を飛行させたりと便利な使い道がありそうだが、ネクサスはそこまで豪快な能力ではない。
カイの創始者たちは、この能力をよりミクロな世界へと発展させた。
例えばこうしている間にも、念動力の微細な「網」が俺の全身をくまなく覆い、熱気や有毒な煙から保護しているのだ。
複雑な錠前へと作用させ、咬み合った機構の摩擦を弱め、僅か数ミリの距離を動かす―― なんて事もできる。
高位のカイ・マスターともなると、まあ俺のことだが、今回のように「建物全体をネクサスの網で覆い、炎を受け流したッ!」とか出来ちゃう訳だ。


両手を伸ばして不可視の網を手繰り寄せ、2階の炎を消し止める。
その間に兵士たちを2階へ向かわせ、弟をかばって倒れていた隊長を外へ運び出す。
と同時に、屋根が崩壊し―― 繰り返すようだが、そこまで豪快な能力ではないのだ―― 建物は完全に炎に包まれた。
「あなたは命の恩人だ」
荷馬車に弟を運ばせながら、隊長がしきりに感謝する。
「今から北門の戦いに戻るのだが、合流してはもらえないか?共に戦えるならこれほど光栄なことはない」
「悪いな。俺も急ぐんだ」
「ならば、せめて名前だけでも」
流石に片頬がひくつく。
「名乗る心算はない。貴様らアナーリ共和国の敵だよ。評議会公認のな」
「……」
理解できずにいる兵士らを捨て置いて先へ急ぐ。
感謝される謂れはない。ただの狼の気紛れに過ぎない。
もとよりアナーリの連中には恩義もなにも感じてはいないのだから。


しばらくのち、西門にたどりつく。
ここから戦況が見渡せるかもと思い、人間の残骸がブッ散らばった階段を胸壁へ登っていく。
この一角はあの不快な霧も薄く、黒々とした濠へ向かって進軍するドラッカー連隊が確認できた。
連隊は、後ろから攻城兵器をずるずると連れてくる。
お定まりの残虐絵巻だ……沸騰した油の大鍋や、どろどろに溶けた鉛を城壁の上に浴びせるクレーンなど。
当然、巨岩を撃ちこむ投石器や攻城塔も忘れてはならない。
鈍重なゴーカスと丈夫でしなやかな筋肉をもつズルが、馬の代わりにこれらの兵器を牽いていた。
遠方から目を戻した俺の視線が城壁の足下で釘付けとなる。
夜の間に作りあげた濠越え用の橋を修復しているサロニーの技術者の一団がいた。
ダメージを追っていた即席の橋も修理間近で、あとは橋の強度を上げる最後の厚板を取りつけるばかりだ。
橋が完成してしまえば、ドラッカーの突撃兵が西門に突撃してくるだろう。
これを見逃すわけにはいかない。
素早く矢筒から一本抜き放ち、今しも橋のへりで準備している技術者を狙った。
巨大な遮蔽板をかかげた敵兵が技術者を守っているが、彼らはまだカイ・マスターに気づいていない。
最後の一枚を滑りこませようとして技術者が身を乗りだす瞬間、頭上から射る。
特にボーナスはなく7以上で成功だ。
慎重に狙う。



 技術者が正しい場所に厚板を置こうと身を乗りだした瞬間、君は矢を放った。
 残念なことに、遮蔽板を持った兵士は妨害しようとする君の動きを目に捉えていた。矢は
革で覆われた遮蔽板に無力に突き刺さり、技術者が二度ハンマーを叩くと橋は完成した。


「シャーグ・ドラッカリム!」
「……畜生」
俺の呪詛をかき消すほどの鬨の声を放って、ドラッカーの突撃兵らが西門に突撃してくる。
かかわってしまった以上はやむを得ないか……
弓を肩に担ぎ、石段を飛び降りて城門めざし疾駆する。
西門まであと僅かのところで、巨大な城壁が轟音一閃、粉微塵に爆砕した。
破壊の魔力を持つダークロードの水晶が爆発し、扉の中央に荷馬車でもくぐれそうな大穴をあけたのだ。
血色の外套を羽織ったドラッカーの突撃兵がどっと雪崩込む。
略奪と破壊の高揚に盲いた敵兵は傷を負っても痛みさえ感じることなく、見る間に守備兵を斬り崩す。
いまや先頭の3人が瓦礫によじ登り、この俺めがけて襲い掛かってきた。



ドラッカーの突撃部隊  戦闘力点30  体力点42
戦いの熱狂により、これらの敵に念撃は通用しない(念波動は通用する)。


「何 で す と !?」
絶叫する狼を狙って、魔都ヘルジェダドで鍛えられた漆黒の長剣が軌跡を描く。
残忍な鋸刃を間一髪かわすが、既に敵に囲まれ逃げ場はない。
信じられるはずもなかった。
戦闘比−7。
またしても死を賭した激戦が幕を切って落とそうとしていた。
狼の体力は満タンとはいえ、最初から10点近いアドバンテージを敵に奪われているのだ。
念波動を使って−3まで戦闘比を押し上げても、不利は依然として覆らない。


―― 恐るべき凶戦士軍団と復讐の狼が、互いの刃を掲げて激突した。
(つづく)