ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

入口には衛兵が立ちはだかる

【パラグラフ90→→→パラグラフ164:居酒屋 どン底:(死亡・13)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



アナリウムの入口は遥かに遠く、群集の溢れる正面玄関では、2名の武装兵が矛槍をかまえていた。
さいわいこちらの騒動にはまだ気づかず、背を向けている。
廊下の左手には窓があり、すぐ向こうに止まっている俺の馬車が見えた。御者と目が合い、向こうが挨拶する。
鏡と壁を隔てて、御者はまだ俺の窮地に気づいていないのだ。
ならば、利用できるのではないか……?



・窓を通って逃げるなら、149へ。
・通路を逃げるなら、121へ。


堂々と通路を行くよりは窓から人知れず逃げるほうが懸命だ。
そう考えて窓に取りつくが、すぐに舌打ちが洩れた。
アナリウムの窓は分厚い嵌め殺しで、鉄の鋲で留められ開きようがない。
ここから逃げるなら、窓を突き破って跳ぶリスクを覚悟しなければならないのだ。



・それでも窓を通って逃げたいのなら、266へ。
・代わりに通路を逃げるなら、121へ。


さらにこの選択肢で、暫時、迷う。
何度も念押しするパターン・・・これはこれでもう一つの罠なのだ。
窓は堅いと明言されている。突き破れずに痛手を負うのではないだろうか。
それでも、考慮の末、窓からの脱出を選んだ。
逆に「何度も表示される」通路を逃げる選択肢が怪しいからだ。
狼の体力は既に27点まで回復、ベストの7割ぐらいの力は出せよう。
ままよと身を躍らせ、カイ・マントで全身を覆って肩から窓ガラスに突進する。
すさまじい音を立てて、ガラスは千もの破片に砕けた。
小さな破片で体力点を1点失う……むしろ俺はこの表記に息をついた。
あれだけ脅しといて体力点1点だ、正解だったのだろう・・・
だが、窓からの脱出は新たな困難をもたらした。
音に警備兵が気づき、頭の回る奴が馬車を抑えてしまったのだ。
「畜生」
呪詛を吐き、アナリウムを取り囲む無数の群衆にまぎれて遠ざかる。
どこへ向かうべきか、どうすべきかも分からず、泥棒街として知られる、無法者と貧者の居住区へ逃げていく。
星明りのもと、俺の姿は完全に眩まされているはずなのだ。
だが――
焼けつくような細い糸を背後から首筋に感じとる。
「貴様ッ……『見て』いるなッッ!」
泥棒小路へ飛びこむ寸前、俺ははっきり気づいていた。
さっと首を捩り、千里を見通す視力を集中させ、今は彼方へ遠ざかったアナリウムの尖塔を双眸で射抜く。
一瞬、その小窓に炎が揺らめき、ふっと消えた。
消える寸前、目にしたもの―― それはアナリウムの頂上から望遠鏡で狼の痕跡を探る、警備隊長の鷹のような眼だった。
カイ・マスターは発見されてしまったのだ。



1時間ばかりが経ち、追っ手の気配を探りながら軽く息を整える。
さらに夜は深まり、戦争を控えてタホウの喧騒は混迷を深めるばかりだ。
暗い路地の角に用心深く立ち、場末らしい虫喰いだらけの酒場の扉からわきあがる酔ったダミ声に耳を傾ける。
ここには敵はいない。
だが、基本的なカイの感覚が、ひしひしと迫りくる敵の気配を嗅ぎ取っていた。
既に泥棒街は包囲されている。徐々にその輪が狭まっているのだ。
悩んだが、背後から入り乱れる突然の長靴の音が俺を決断させた。迅速に階段を下り、みすぼらしい酒場へ避難する。
案の定、地下室は場末も場末の、惨めな安酒場だった。
がさつな顔つきの無法者たちだらけで、どいつもこいつも、酸っぱいエールをがぶ飲みしながら大笑いしている。
どこで何人殺しただの、いくら盗んできただの、声高な自慢はいずれも法と人倫に触れるものばかりだ。
混雑した床を横ぎり、できるだけ扉から遠く離れたテーブルを選んだ。
背後から誰かが肩に手をかける。
ひどく筋肉質な手が、敵意に満ちた横柄な口調で脅しをかけてきた。
「テメー、余所者だな?そこは俺の席だぜ」



・これまでに南門監視塔から逃げだしたことがあれば、164へ。
・そんな経験はないなら、315へ。


この選択肢で勘が働いた。
振り向かず、漆黒の髪をした長身の若者に話しかける。
「よう一筆書き」
「なんだテメーは……って、北方人!ひょう、あンただったとはな、ロルフ!」
「こっちの台詞だぜ、ソウ。見違えたじゃあないか」
「へっ!そりゃまァ良い具合にあンたと稼がせてもらったからな。どうよ兄弟、一緒に飲まないか」
一瞬静寂に包まれた酒場は、俺とソウが仲間だと知って猥雑さを取り戻す。
この手の連中は余所者とガサ入れを嫌うのだ。
カウンターから取ってきたばかりの泡立つエールを大きく傾け、思わぬ再会にジョッキを傾ける。
満足げなソウは、どことなく鼠のような顔にゆったりと笑いを浮かべた。
さすがに鼻が利く男だ。俺がトラブルを抱えこんでいると、それとなく察したらしい。
「それで、俺たちはまた出会ったって訳さ。一体何があってこの『パープル・パース居酒屋』まで来たんだい?」
「まあな。ちょっと揉めて逃……」
最後まで科白を言いきることはできなかった。
蝶番ごと捻じ切らんばかりの勢いで、酒場の扉がバタンと開く。
たちまち、必要十二分にビルドアップされた屈強の上院警備兵6人が、完全重武装で踏み込んできた。
完璧な突入だ。
だが、兵士らには事態の先が読みきれていなかった。
『パープル・パース居酒屋』は、瞬時に阿鼻叫喚の渦に陥ったのだ。
当たり前だがここは犯罪者の巣窟であり、客のほとんどが後ろ暗い連中で、かつ取引やら会合やらの真っ最中だった。
常連は飲み物を放り投げ、テーブルを蹴り倒してバリケードを作りながらどっと逃げだす。
ソウは君の袖をつかみ、暗いアーチの方へ注意を向けさせた。
「おひらきの時間だな」
唇の先だけで、ほとんど声を出さずに彼が囁く。
借りを返す番だぜ。そう言いたげにソウは口元を弛めた。
「俺についてきてくれよ」



通過パラグラフ:(90)→149→39→212→164  治癒術の効果:+4点   現在の体力点:29点
(つづく)