ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ134→→→パラグラフ185:チケット トゥ 脱獄:(死亡・13)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



格子窓から差し込む月光が不吉に俺の来訪を歓迎する。
『天鵞絨の城塞』タホウは牢獄の壁まで褪せた赤石で統一されていた。
その赤が斑に見える位黴が繁殖し、波打っている石畳の床には汚物が撒き散らされていた。
惨状を取り繕うかのように、これまた黴まみれの寝藁が散乱している。
独房は狭く、そして湿っぽい。
淀んだ空気は腐敗した食物と汚水からたちのぼる悪臭で充満しているのだ。
格子窓には、腐食しているのか緑がかった青銅の鉄格子が十文字に嵌まっていた。
おぞましいことに、窓の下には人の手がつけたものらしい無数の引っかき傷が残されていた。
ぞっとしない演出だ。
閉じ込められたら死ぬまで出られない、とでも仄めかすつもりか?
前の住人が残した無言のメッセージから目をそらし、カイの感覚を駆使して脱獄の手段を探った。
何しろダークロード・ナーグの到着は明朝だ。それまで待てるわけがない。
それ以前に、こんな場所にいたら疫病にでも感染しそうだ。



・念波動を身につけていて、プライメイトの階級に達していれば、47へ。
・ネクサスを身につけていれば、202へ。
・どちらの技術も身につけていないか階級に達していなければ、227へ。


ちょっとした偶然か。念波動とネクサス、両者の教えは今は手の内にある。
さて、どちらを使うべきか――
悩むまでもない。体力も少ない今、ここはネクサス一択だ。
念波動のプライメイトは絶後の衝撃波を生みだす荒業、ゆえに戦時でなくとも体力を消費する可能性がある。
対してネクサスは念力移動の発展系・・・
錠前を開けたりするのはお手の物なのだ。無論、独房の檻も例外ではない。
が、事態ははるかに単純だった。
よく見れば、独房前の廊下を少し進んだところの壁に、大きな鉄の鍵がぶら下がっている。
軽く念じるだけで鍵は浮きあがり、俺の掌に収まった。格子から手を伸ばして開錠し、我が家のごとくに脱獄する。
囚人がカイ・マスターだと知らなかったのが奴らの不運だった。
猫のように無音で廊下を進んでいく。
突きあたりに階段があり、別の独房へ通じていた。扉は開いている。
壁に背をつけ、気配を消してのぞきこんだ。

 
 一人の男が壁に鎖で繋がれていた。男は痩せているが筋肉質で漆黒の髪をもち、口髭は 
「ピラジン編み」として知られ、スロビアの男たちに流行している、ヒゲとモミアゲを一緒に 
編みこむスタイルでまとめている。 
 


「プ……プヒャホヒ」
あやうくいつもの発作に駆られかけ、辛うじて踏みとどまった。
よくぞ笑いをこらえてがんばった。感動した!
だって、「ピラジン編み」だぞ?
スロビアの男たちに大流行してるんだぞ?
ヒゲとモミアゲを一緒にまとめて、それで超クールとかオサレとかアイラヴヒップホップとか思われているんですよ?
そんなダサイ流行があるかッ!
「それって一筆書きじゃね?」
思ったままを口にして、今度こそ噴き出した。
ストーンランドって、何か、駄目な国々だったんだなァ……そのうち鼻毛もつなげだすんじゃね?
「誰だ……何だ北方人か」
「よう一筆書き」
「一筆書きじゃねェ!!」
―― のっけから男はプリプリ怒っていた。
俺が笑いすぎたせいだろう、憮然とした顔で体を起こし、手錠の嵌まった手をだらりと掲げる。
「早く外してくれ、北方人。あンたが持ってるその鍵だよ」
だが断る
「ちょっ……オィィ!!」
速攻で断り、部屋を横切って反対側の階段に向かう。
焦った男が早口で喋りだした。
「待て待て、その階段を上がっていけば、奴ら間違いなくあンたを捕まえるだろうよ」
「ほう?」
「俺を解放してくれたら、霧が網を通りぬけるよりも速く、するりと外に滑りでる道を教えてやれるぜ」
見るからに軽薄で、胡散臭い男だった。
盗賊崩れか何かか……?
どのみちマグナカイの教えを駆使すれば、この男のできそうなことはすべて可能なのだ。
「戯言につきあってる暇はねーんだ……じゃあな一筆書き。顔面の毛が一周したらまた逢おう」
「一筆書きじゃねーっての!なあよォーッ、あンた知らねえだろ。教えてやるって」
駄目だこいつ。
とうとうハッタリをかましだした。
完全に無視したまま階段に足をかけたそのとき、男が切羽詰った声を出した。


「あンたの連れの魔術師が何処にいるのか、俺は知ってんだよ!」



通過パラグラフ:(134)→202→185 治癒術の効果:+2点   現在の体力点:15点

(つづく)