ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ91:急速浮上中:(死亡・12)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



乱数表の出目は「7」。
紛れもない奇数が、俺の目の前に見えている……


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ 。 。 。 。 。 。 。 。 。


全身を揺さぶる予感の地鳴りが、文字で見えているかのようだった。
何という……
何という、辛酸な底の底の底なのか。
裏の裏のその裏をかいたこの狼を、更に嘲るかのごとくに悲運が弄ぶ。


「捨てる(L:偶数で捨てる)」:食料 銀の燭台 銀のゴブレット 水晶のデカンタ
「残 す(W:奇数で捨てる)」:濃縮アレサー アレサーの実 ラウンスパーの薬 ロープ


ちょっと待て・・・・
違う・・・
こんな運命の罠、この俺が許さねェーんだよォ・・・・・・・・・ッ!!!


「秘 奥 義 ・ サ イ コ ロ 交 換!!」


咄嗟に叫んで進行を止める。
所詮、ゲームブックは乱数と運の組み合わせ。
必ず何処かで、帳尻は合うはずなのだ・・・この難局さえ乗り切ることができればッ!
躊躇わずに奥の手を繰り出す。
あらゆる生死を、あらゆる不運をフレーム単位でキャンセルさせるゲームブック業。
たかがハッパ……じゃあない。
ここで溜め込んだ最良のハッパを捨てて生き延びたとしても、心が折れた狼に明日はない。
だからこそ、狼はあくまで我を貫くのだッッ!
「今の出目を逆転させるぜッ!」
偶数を奇数へ・・・
そして、奇数を偶数へ・・・
しかし、これではゲームブック業は発動しない。
元来が自分を納得させて先へ進むためのローカルルールなのだ。
ペナルティが無いゲームブック業では、余人を納得させるどころか、この俺自身さえ騙しえない。
よって、発動条件はこのようになる――
「次に出た乱数表を逆転させる代わり、奇数と偶数を引っ繰り返すぜ!」


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ・ ・ ・ ・ ・ ・


次の乱数表(といっても直後だ)において、有利不利を問わず、出目を逆にする。
9が出れば0に、1が出れば8に。4と5を引っ繰り返す。
単純に次の出目の奇偶を引っ繰り返すじゃあ、筋が通らねーからよォ・・・
きちんと不利な展開を織り込んで納得させてやるんだぜ。
これで十分だろう。ゲームブックの神様よォーッ・・・



ハァハァ……。
ぜいぜいと荒い息をつき、大きく深呼吸をして動揺を鎮める俺。
水中に沈んでいる真っ最中なのを思い出し、ゴボゴボゴボ……と酸素を求めてみる。
闇の中へ、幾つかのナップザックに入れる物 が沈んでいく。
ローカルルールの解釈としても、ギリギリのラインだった。
激情に駆られ、またしても突発的に、ゲームブック業を使ってしまった。
辛うじてナップザックの中身を守りきったものの、じわじわ広がる後味の悪さはぬぐえない。
ただのハッパを守るためにね・・・在り得んでしょ、歴戦のカイ・マスターが。
恥も外聞もないでしょ・・・
必死すぎでしょ・・・
だが、それがいい……んだコンチクショォォォーッ!」
大量に気泡を吐きつつ水中で叫ぶ。
ハッパ重要だし!
マストアイテムだし!
ハッパか俺かってぐらいがローン・ウルフだこのヤロー!
こだわりなくして何が真のゲームブッカーか!
ガソリンをぶちまけたマイケル・マドセンばりにサイケな鼻歌を水中で歌いながら、がっちりとハッパ死守。
そうとも。
ハッパを完璧に死守したことで、この狼は一回りも二回りも成長したのだ、
沈みゆく状況下と、水中で軽くなった体を確認する。荷物を半分捨てたことで、乱数表による生死判定が可能になったのだ。
これが浮上する最後の勝機だろう。すべての力を注ぎこむ。



「アクション・チャート」の調整が終わったら「乱数表」を指せ。
 ネクサスを身につけていれば、その数に4を加えよ。
・0から4なら、73へ。
・5以上なら、246へ。


確率5割。半分が生存への道だ。
先ほどの「サ イ コ ロ 交 換!!」が効いてくるため、ここではゲームブック業が使えない。
ローカルルールのペナルティの上に更に業を重ねたら、それはただのズルに成り下がってしまう。
誇りを失った戦士に明日はないのだ。
……とは言いつつ、実際は数値が逆転するだけ。ここでは0〜4を狙えばいいというだけだ。
大してペナルティにはなっちゃいないが別にいいじゃん俺。
卑怯などとは言うまいね?
狼は自らに枷を科し、その上で最大限の我を押し通しているのだから。
この凍える牢獄から脱出すべく、野獣の勘を頼りに、水面と思しき方向を一気に目指す。

(つづく)