ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ53→→→パラグラフ329:自由落下中 死刑執行中:(死亡・12)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



渦巻く暗黒のただなかへ、石のように落下していく。
呼吸もままならない状況では、事実上の死刑宣告に等しい……並みの戦士ならば、だ。
ほとんど自暴自棄の中、側壁の張りだしや岩棚に指がひっかかることを期待して、空気抵抗に逆らい腕を伸ばす。
だが、鍛えあげたカイ・マスターの腕力もここでは何の役にも立たない。
指先は空を切るばかりで、落下速度は劇的に増していく・・・!

 
 凍てつく風が顔を掠めて泣き叫び、切迫した運命の恐怖に感覚が圧倒される。 
 だしぬけに氷のようなショックに飲まれ、湖面を突き破った君は光のない深みへ飛びこん 
でいた。いきなりの衝撃で硬直し、凍える水によって麻痺させられて、ようやく力を奮いおこ 
した君が湖面へ浮上し始めたのは、すでに10メートル近く沈んでからだった。 
 


「!―――――― ッッ!」
声を出そうとして、代わりに凍りつく寸前の氷塊じみた黒いうねりが喉に流れこんでくる。
150メートルの落下の衝撃から回復する間もなく、四肢を圧迫する重い枷。
それは膨大な地底湖の水そのものだった。
右も左もなく、天地の感覚さえ消失し、漆黒の氷寒地獄の中、ただ我武者羅にのたうち回る。
俺は無酸素の牢獄に投げこまれていた。



「乱数表」を指せ。ネクサスをにつけていれば、その数に4を加えよ。

・0から3なら、4へ。
・4から7なら、289へ。
・8以上なら114へ。


2択ではなく3択であるという事実に脅威の影を嗅ぎ取る。
「最も低い目」を作ることで、作者が殺しに来ているのを感じとる。恐らく0〜3は死域だ。
十分に集中し、無音の地底湖のなかで乱数表を手繰り寄せた。確率6割の生還劇だ。よく集中して指す。


運命の出目は……


『3』……


「れあッ?」
そして毎度毎度、こんなときに限ってネクサスなんぞ身につけちゃあいない。
畜生ッ、チクショォォォ!!



瞬間的に目を固く閉じた。
違うッ!
違うぞ、見てない、見えてなぞいないっ!
乱数表を指した瞬間、俺は光の速さで明後日の方向を向いていたのだ!
そういうことにしとけ!


「秘 奥 義 ・ 薄 目 de サ イ コ ロ ご ま か し!!!」


薄目で、本当は見えてなんかいなかった・・・
動揺も見せずにゲームブック業をくり出し、そ知らぬ顔でやり直しを要求する。
どうしたことか。この俺に罪悪感などどこにもない。むしろ意気軒昂としているではないか。
これは狼のゲーム、俺自身の真剣勝負なのだ。
咄嗟に業を発動させて乱数表をキャンセル、再び指し直す。
しかも……この狼、さらにしたたかな計算を終えている。
同じ業(カルマ)でもいつもの『サ イ コ ロ 交 換』じゃなくこちらを使ったのは勝算あってのことだった。
ほんの一瞬、いま指した乱数表の真上に、勝利の数字『9』が見えたのだ。
つまり、ほんの僅か指の位置を修正し、貫いてやればいいッ!
あとで出目を逆転させられるペナルティも追わず!
この牢獄から一気に脱出するぜ!
「じゃあな!」
再び目を閉じ、ナランチャ面で一撃。


―― 指しなおした出目は『6』だった。
ホワァァイ?
いや、ホワァァイじゃねー。敗因は、はっきりしている。
思わず力みすぎ、右斜め上にペンがずれてしまったのだ。どうにもツイてない。
だが、最悪の目は逃れたようだ。即座にパラグラフ289へ飛ぶ。

 
 冷たい水は鼻と喉を塞ぎ、冷気が骨の髄まで体を麻痺させた。 
 空気に飢えきった肺は激しい痛みで胸を満たす。 
 体を苦しめているパニックを抑えようとして、君は必死に抗う。 


・青い錠剤 入りの薬瓶を持っていれば、25へ。 
・この品物を持っていなければ、329へ。 
 


冷たい汗が額から滲みだす。
俺は依然として奈落の深みにあり、地底湖に没したまま脱出さえできていなかった。
しかも・・・だ。
ゲームブッカーの経験値が、読み進める手を悪寒で震わせる。
これはマズい展開だ。
徐々に運命の神が、『条件を狭め、絞りこんで』きているッ!


教えを身につけているか否か……
特定のアイテムを持っているか否か……
体力点の残りが幾らか……


様々な条件から「助かる者」と「助からざる者」を篩にかける、その選別が始まっているのだ。
そして青い錠剤 ―― 7巻カザン・オードで出てきた水中呼吸薬、サビトの木の根 があるかだと?
「……バカな、ありえない」
昏い水のなかで呻く。
サビトの木の根 は、仮に使わずとっておいても、7巻ラストでナップザックごと紛失するはずなのだ。
一体どこで、俺はこのようなアイテムを入手しえたというのか……!
更に体が沈んでいく。
もはや一刻の猶予も残されていなかった。
北の大地カルトの豪雪に巻き込まれたときのように皮膚が麻痺し、感覚を鈍らせる。
みるみる奪われていく体力を温存して溺死を避けるには、ナップザックの中身を捨てるしかない。



・ナップザックに入れる物のうち半分を捨てるなら、91へ。
・ナップザックに入れる物すべてを捨てるなら、346へ


救いの女神が鼻先で手を差し伸べていた。
選択肢の言わんとすることは明白―― 助かる代償に、すべてを捨てろと、そう言いたいのだ。
そう……
ナップザックの濃縮アレサー も、ラウンスパー もすべてを捨てれば助かるという。
邪悪にほくそ笑む英国紳士の顔が脳裏に見えるかのようだ。
「・・・だが、断る」
誘惑を俺は一蹴した。
半分捨てるを選んだとしても、すぐに死が待っているかどうかは、現時点では分からないのだ。
何より『生存の代償を支払う』という意味では、どっちも均質な選択肢。
ここは死を賭して、ナップザックの半分を残すぜ!


指を挟んで先を覗いたりしない。
俺は確信を持ち、自分の勘にすべてを賭けてパラグラフ91へ飛んだ。
果たして、結果や如何に――



通過パラグラフ:(53)→141 →289→329  治癒術の効果:+3点   現在の体力点:29点(全快)

(つづく)