ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ265→→→パラグラフ252:老隠者の智慧、或いは処世術:(死亡・12)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



油断なく落とし戸の前で跪く。
基本的なカイの狩猟術の感覚が、この下の貯蔵庫に潜むものがいると教えてくれた。
「そこにいる貴様、大人しく両手を上げて出てくるんだ」
「……」
「黙って出てくれば対価は頂くが『再起不能』にはしないと約束しようッ!」
選択肢をどんどん読み飛ばし、大きく落とし戸を開いて地下の闇に声を轟かせる。
ゆっくりと、潜んでいた『なにか』が姿をあらわす。
……薄くなった白髪の頭が闇を押し退け、すぐに、困窮した生活で丸くなった猫背の体があらわれた。
ようやく顔をあげた老人が、白内障に濁った瞳でこちらを見つめ返す。
おおかたこの地に隠れ住む隠者なのだろう。
「迂闊な動きをするんじゃあねーぜ」
枯れ木のような腕を掴み地下室から引き上げる。体重は子供のように軽く、老人は易々と持ち上がった。
名前を尋ねるが答えようとせず、あちこち狭い小屋の中を歩きまわる。
よく分からないことを呟き、自分の持ち物の上に手を走らせていた老人が振り向いた。
「道に迷われたのですかな」
「だったら、何だ?」
老人はキーキーと細く甲高い声を出した。
「儂はタホウ市への近道を知っとります。よろしければ教えて差し上げましょうか?」
悪くない提案だった。
ここまでの流れを見ても、この貧相な隠者がカイ・マスターに害をなしうる存在とは思えない。
道を教えてくれるというなら渡りに船だ。
「頼むぜ、爺さん」


外に出てバネドンに事情を説明し、親切な隠者の申し出を受けることに。
干上がった水路を暫く進んでいき、やがて老人はとある岩壁の前で立ち止まった。
岩肌を被いつくす茂みと潅木の奥へと一歩踏みだす――
老人の姿が消えた。
馬を引いて後に続き、天井の高い洞窟が巧妙に隠されたのだと知る。
「山腹を抜けるこの洞窟をずっとたどってくだされ。じき、首都の近くに出るでしょう」
ディ・モールト グラッツェ!あばよ爺さん!」
感謝の声をかけたとき、隠者の姿は既になかった。
肩を丸めて足を引きずり、暖かな小屋に戻ろうと急ぎ足で去っていく。
「……どーも好きになれねーな」
バネドンに肩を竦めて見せ、狭い通路で神経質な馬を宥めながら進んでいく。
天井に群がる鉱山蝿が鈍く輝き、淡い青白さで洞窟は満たされていた。
岩の亀裂から湧き出した乳状の液体が床一面を覆い、洞窟は地底の底へと下っていく。
その時だった。

 
 馬は鼻面をあげて冷たい空気を嗅ぎ、耳障りな嘶きで危険を知らせた…… 
 ずっと遠くの陰で、何か異様な存在が動いている。 
 


「!!!」
思わず手綱を引き絞る……寸前で、無数の鋼を綯いあわせたような手甲に鎧われた腕(かいな)が空を切った。
アナーリ馬が怯え、棒立ちになる。
突きだした腕の先が全身をぬっと迫り出し、露になった怪異を目の当たりにしたこの瞬間、全てを理解した。
老人を地下室から引っ張りあげる直前の奇妙な選択肢。



・この小屋で見つけた品物のいずれかを手に入れていたなら、232へ。
・見つけた品物を何も持っていないなら、206へ。


そういうことか。
あの隠者・・・・・・


俺たちを、怪物の巣に招待しやがったッ・・・・・・!!!


(つづく)