ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

騎兵の旗にはタホウ軍の紋章

【パラグラフ156→→→パラグラフ213:狼と石人兵団:(死亡・12)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。



フェアの村には伝説がある。
「奇しくも、この話は今のアナーリと重なる話でもあるんだ」
道すがら、バネドンはこの地に古く残された伝承を語ってくれた。
空は雲一つなく、大気は暖かく、そして静謐さを湛えている。昔話には最適の朝だ。
開放的な大草原が広がり、時折起伏のある低地が続き、白塗りの農場や農夫の小屋が目につくばかりだ。
「かつて、このフェアの村にはブラック・サカーンが侵攻したんだ」
「ブラック・ザカーン」
聞き覚えがある。
バサゴニア帝国史上最も残忍な独裁者で、自らの娘を処刑し、発狂したとされる皇帝だ。
ブラック・ザカーンは無抵抗なフェアの人々に戦争をしかけた。
村人は力を持たず、敵に囲まれたそのとき、月の女神イシールに祈りを捧げた。
追いこまれた人々の姿は女神の心を動かすに十分だった。
「虐殺が始まるまさにそのとき、邪悪なバサゴニア人たちは武器を手にしたまま石に変じたのだそうだ」
「……それがこの街道沿いの石柱の由来か。一糸乱れず隊伍を組んだままって訳だ」
今なお女神が力を持つのなら、今このときこそ、人々に手を差し伸べなければならないときだろうと思う。
現皇帝ザカーン・キマーの命運を絶つことは、俺の誓いに含まれている。
俺は忘れてなどいない。
ザカーン・キマー、そしてアモリーのローク。
俺の前に立ちはだかり、未だのうのうと生きながらえる邪悪を許すことは狼の矜持に悖るものなのだ。
「おい、ローンウルフ。あの土煙は・・・?」
物思いをバネドンが破る。
気づけば白馬はフェアの村を通り抜けたところで、街道の前方に雲のように分厚く土煙が垂れこめていた。



・上級狩猟術を身につけていて、プリンシパリンの階級に達していれば、69へ。
・上級狩猟術を身につけていないか、プリンシパリンに達していなければ、240へ。


どうやら『新たなる教えの向上』の見せ所がやってきたようだ。
全身の力を沸き立たせ、マグナカイの意志力すべてを双の眼球に叩きこむ。
視野が拡大し、猛禽の如く千里を見通すカイ・マスターの能力が彼方の光景をくっきりと映しだす。
土煙の源は、疾駆する騎兵隊だった。
高く掲げた突撃槍は20本におよび、おのおのがタホウの紋章が入った小さな旗を携え、街道を南へ迫ってくる。
深紅の外套をなびかせる一人の軍曹に率いられたアナーリ軍の偵察隊だ。
「隠れるか?」
「その必要はないだろう」
バネドンと会話をかわすうち、騎兵はいまや互いの顔を確認できる距離までやってきた。
翼ある兜の下はいずれも険しく、こちらの姿を認めてもまったく変化しない。
「ここで何をしている!」
軍曹が怒鳴った。
「貴様たちはなぜタホウ市に向かっているんだ?」
騎兵らは歩調をゆるめ、歪な円陣を組んで俺たちを囲みだす。
敵を逃さぬ陣形だ……こいつら、本物のアナーリ軍か?
一瞬疑うが、しかし基本的なカイの第六感がまぎれもない正規軍の兵だと教えてくれる。
相当ダークロードに怯えているらしい。こういう手合いは扱いが厄介だ。



・この軍曹に、タホウへ向かう本当の理由を話そうと思うなら、279へ。
・招待状 を持っていて、軍曹に見せたければ、136へ。
・何の権限があって首都への旅を足止めするのかと訊ねるか。343へ。


ここは無難に、ローザに貰った招待状 を差しだす。
「我々はチバン師のもとへ向かう途中なのです」
羊皮紙をひったくって慎重に読み進める軍曹に、バネドンが注釈を入れる。
「何故貴様ら北方人が、タホウ市でもっとも敬愛される魔術師からこのような私的な招待状 を受け取ったのか」
「以前、私はチバン師の下で魔術を修行していたのです」
バネドンの物柔らかい口調と、魔術師然とした出で立ちが軍曹を納得させたようだった。
気取られぬよう懐中で虎眼流の構えをとっていた俺もがっかり……ではなく、安堵に胸撫で下ろす。
正当防衛を名目に味方を斬り伏せるのも、なかなか乙なものだ。
この軍曹、ソマースウォード での流れ一閃で首と胴が泣き分かれになる危機だったことに気づいているのかどうか。
・・・などと狼がひとりアドレナリンジャンキーの恍惚に呆けているうち、話はまとまったようだった。
軍曹は招待状 を返し、親身に話しかけてきた。
「街道を離れず、必ず『夕暮れまでに』タホウに辿り着くように」
「何故ゆえにィ〜?」
「既に敵の斥候が首都の南の丘で確認されているからだ。夕暮れまでに城壁に辿り着けなければ・・・」
軍曹は口を引き結び、人差し指で喉の下をさっと一閃させた。


……ろくでもないご忠告どうも。


口には出さず南へ疾駆する一団を見送り、俺たちも北へと更に速度をあげていく。
食事も休息もとらず全力で走りづめ、遂にアナーリの首都を取り囲むタホウ丘陵が見えてきた時、もはや黄昏が迫りつつあった。
じわじわと輝度を落としていく地平線上に、日中の熱波を浴びて蜃気楼のように丘陵がゆらめいている。
大平原を迅速に横切り、丘の入り口を警護する石の監視塔めざして隘路を突き進んだ。
監視塔の周辺に聳える一群の白く塗られた小屋が、姿を現す。
どうやら間に合ったか……



・方向認知術を身につけていて、チュータリーの階級に達していれば160へ。
・方向認知術を身につけていないか、チュータリーに達していなければ314へ。


俺の思惑は、甘すぎたようだった。
(つづく)