ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

【パラグラフ169→→→350:別れの時:(死亡・12)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。


最善の選択はただ一つ―― 水晶の立方体の排除だ。
だが、その選択はすなわち、無数の敵に囲まれたペイドを見殺すことと同義だ。
そんな展開は、カイ修道院の虐殺で死んでいった師と友が……
何より俺自身の心が許さないッ!


戦友を救うべく、踵を返して船首目指し階段を駆け登る。
途端、前方の死角から強烈な殺気が吹き抜けた。
思わず首を竦めると、ボルダクの突き出した黒い錫杖が、俺の頭が通過する筈だった予定地を掠めていった。
錫杖の先に灯った蒼い焔が金属の手摺りを切断し、カイ・マントに盛大に火花が降りかかった。
カウンターで胸郭――骸骨を模しながら魔力で織り上げたその強度は鋼鉄を上回る――に一撃叩き込む。
不死者は蹌踉めき、武器を落として船から落ちかかった。
蹴り落とそうと不用意に近づいた刹那、肩口に強烈な打撃を受け、仰向けに倒れ込む。
見上げると、別のボルダクが鉤爪を振り上げ、けたたましい呪詛とともに船首から垂直に落下してくる――



ボルダク 戦闘力18 体力点26

君は今、武器を持っていない。
念バリアを身に着けていなければ、戦闘の間、更に戦闘力点から
2点引いて戦わなければならない。
念撃は通用しない(念波動は通用する)。


「……ッ!」
カイ・マスターの命綱、ソマースウォード がレビトロンの甲板を転がっていく。
この瞬間、素手のペナルティで戦闘力は 1 4 点低下――
更に、不死者へのダメージ2倍効果も消滅したのだ……
絶対の窮地。
―― だが、それでも尚、カイ・マスターの戦闘力は失われてはいなかった。
即座に跳ね起き、咆哮と共にマグナカイの秘奥義、念波動を発動させる。
毎ターン2点の体力消耗。
だが素手のペナルティを相殺し、これで戦闘比は+3となった。
「5」――鉤爪を左腕で受け、右拳を宙に浮いたボルダクの脇腹に叩き込む。
「8」――着地を待たず、同じ箇所に蹴りを見舞い、血染めの長衣ごと引き裂いた。
「1」――連続攻撃に歪んだ肋骨の隙間に、引き裂かれ血塗れになった両腕を無理矢理捩り込んでいく。
不死者の存在の核――『ボルダクの宝石』は定命者の俺が触れた途端、ボルダク自身の断末魔とともに粉々に砕け散った。
失血による12点ものダメージ――更に甲板に落ちた黒水晶の立方体が爆発し、破片が脚に喰い込む。
3点の追加ダメージごときで怯む俺ではないが、破片がレビトロンの内壁に穴を開ければ――と思うと冷汗が流れた。



残っている水晶の立方体を集めて船から投げ捨てるか。50へ。
まず、ペイドを助けてボルダクと戦うか。200へ。


再び突き付けられた選択肢。
恐らくこれが最後通牒なのだ。
今の俺には剣も無く、到底ボルダクの群れを突破し、ペイドを助けることは不可能だろう。
そして刻一刻と迫る破壊のフィナーレ。
冒険者として何が最善の判断か、十分過ぎる程分かっている。
ペイドが俺の立場でも、俺と同じ判断をするだろう。
だが。


だが……


永遠にも感じられる一刹那。


「……………………………………………………………………………………〜ッッ」
遂に苦鳴が喉の奥から漏れる。


死に物狂いで甲板の立方体を掻き集め、次々に船外へ投げ捨てる。
最後の立方体を投げ捨てると、遥か眼下の沼地で、鈍い音とともに立て続けに激しい水飛沫が上がっていった。
落下中の立方体が誘爆し、ビリビリと大気を震わす。


「この弱凡がッ!ボサッとしてんじゃねえッ!」
「ペイド!」
「太陽の剣を拾え!忌々しいこの網を破るんだよ、狼ッ!!」
ペイドに悪態を浴びせられ、走りだす。
クラーンの翼の上からボルダクが網を投げ、ペイドの全身の動きを封じている。
網には返しのついた鉤針が無数に植えられており、網から逃れようとすれば全身の皮膚を喰い破られることになる。
残るボルダクはただ一人、こいつをクラーンから引き摺り下ろせば、すべては完結する……!
走りながらソマースウォードを拾い上げ、バケロスの戦士を救い出さんと甲板を駆ける。
その時、クラーンが再び甲板を掠めて飛び、船首へと移動した。
ボルダクは手早くクラーンの鞍から下がる黒い縄をペイドの網に縛り付けていく。
間に合うか……
階段を再び駆け上り、咆哮とともに跳躍する。
刀身から迸る黄金の焔を反射した不死者の両眼は、紛れもない恐怖に凍りついていた。
一刀のもとに斬首された頭蓋骨が、回転しつつ眼下の密林へと落ちていく。
血も凍る叫びがダナーグの夜空に響いたが、それは苦痛の叫びでも、絶望の叫びでもなかった。
悪意に満ちた勝利の叫びだった。


クラーンの巨大な翼が羽ばたき、風圧に膝を屈する。
ペイドの囚われた網が甲板から離れ、クラーンとともに夜空へ運び去られていく。
全力で甲板を蹴って跳躍し、網を掴もうと手を伸ばすが、遅すぎた。
クラーンは空中で旋回し一声啼くと、網を吊ったまま北へと飛び去っていった。


―― ペイドを拉致したまま、遥か北方、影に覆われた地ダークランドを目指して。


通過パラグラフ:(25)→169(戦闘)→337→50→350  治癒術の効果:+3点   現在の体力点:13点

(つづく)