ゲームブック・リプレイ:ローンウルフシリーズ

オライドのロアストーン

【パラグラフ100→→→287:オライドのロアストーン:(死亡・12)】
プレイの形式上、ゲーム内容のネタバレ満載です。あしからずご了承ください。


正三角形の扉が音もなく閉まった。
ペイドに続いて銀箔が敷き詰められた回廊を抜け、水晶の広間へと出る。
大粒のダイヤモンドが氷柱のごとく鈴生りに垂れ下がり、数千もの貴石からなるモザイク貼りの床をあたかも暁の海のように輝かせている。
「あれがオライドの玻璃壇だ……」
ペイドが純粋の水晶で出来た円台を指した。
言われるまでもなく――と言うよりは奇妙な親和性に牽かれて歩き出す。
玻璃壇に上がった途端、黄金の光が天蓋から降り注ぐ――温かい光の雨が、旅の疲れを癒し、洗い流していく。
無意識に両手を掲げると、法悦が腕を伝って全身を満たし、手の中に黄金の光球が現れた。
古竜ナイゼーターの叡智の顕現たる黄金の焔を秘めた水晶球――これこそがオライドのロアストーン なのだ。


ロアストーンの光はやがて薄れていったが、その力は今や俺の中に脈々と受け継がれている。
玻璃壇を降りる俺を、安堵の表情を浮かべたペイドが迎える。
「何とかやり遂げたようだな」
「ああ。ここまで来られたのも九分九厘俺の実力な訳だが」
「……ローン・ウルフ、はしゃぐのも結構だがまだ帰路が残っているんだぜ?」
ペイドは水晶の壁に造られた銀の回廊へと俺を先導した。
「またダナーグを横断する事になるのか…何とも気の滅入る話だな」
「そこまで落ち込むことも無いさ。伝承によればオライド寺院には安全な移動手段が使われずに残っている」


回廊を抜け、尖塔の大理石の長い階段を登る。
そこもまた水晶の部屋だったが、炎のように輝く帯がさっと一刷毛走っている――大理石に似ているが、固体のコーリニウムだ。
部屋の中央にある鋼鉄の台座には、飛行船らしき船体が乗っていた。
「レビトロンだ。帰りはこいつに乗っていく……俺も見るまでは半信半疑だったがな」
かつて古マギが置き去った――俺たちの到来を予見していたのか――文字通り過去の遺物だが、歳月を全く感じさせない。
ペイドが船を動かす準備を始め、やがて船体が振動すると、俺たちを乗せた古代の飛行船は鋼鉄の台座からゆっくりと持ち上がった。
尖塔の天蓋が滑るように開き、レビトロンはダナーグの夜空に舞い上がった。
ペイドは船の舵をスターガイダーと連動させ、進路をエルジアンに向けた。
俺は手摺りに凭れ、オライド寺院に別れを告げていた。
寺院は残照を浴びて赤く輝いていたが、尖塔が影に覆われると、星々の光を朧に蓄えるのみとなった。
原始の大密林に黄昏が迫る――その時、金属が軋るような声が静寂を破った。


見上げると、黒い翼のクラーンの大群が、レビトロン目掛けて舞い降りてきた。
有翼獣の背に乗っているのは紅衣の骸骨――ダークロードの下僕たる不死者、ボルダクだ。
骨の手には蒼い焔をあげる黒い錫杖を持っている。
クラーンが咆哮すると同時に、焔がダナーグの夜空を斬り裂いた。
これが最後の戦い――予感とともに、ソマースウォード を抜き放つ――



(つづく)